『宮廷音楽家』 春風亭貫いち

ここは地獄の最下層。閻魔大王謁見の間――
大王は中央にどっかりと腰を据え、周囲には牛頭馬頭、地獄の役人たちが控えております。そして大王の前には三人の男たちがお縄を掛けられています。

「お前たちよく来てくれたな。集まってもらったのには実はちょいと訳があってな……何でもお前たち三人の中に、地獄の鬼を血の池に突き落として、現世に逃亡を図ろうとした者がいるらしいな。お前たちの現世での行いはこの浄玻璃鏡で全てお見通しだが、死後の行いは全く分からん!犯人は宮廷音楽家という目撃証言が上がっている。現場近くにいたと思われる宮廷音楽家はお前たちだけだった。この中に犯人がいるはずだ。一人ずつアリバイを教えて欲しい」

「はい、私はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトでございます。生前はオーストリアを中心に宮廷や巡業で音楽を披露していました。事件のあった時、私はヤマハ楽器血の池改札口店にいました」

「どうしてそんなとこにいたんだ?」

「はい、地獄には本物の『魔笛』が売っていると聞きまして、是非手に入れたいと思いお店に行きました。ここに魔笛を買ったレシートがあります。だから私は犯人ではありません」

「そうか……次の者」

「はい、私はミヒャエル・ハイドンと申します。私はモーツァルトさんとも親交があり、あの日は一緒にヤマハに行っていました。モーツァルトさんは魔笛を購入していましたが、私はその値段に『驚愕』し、自分とモーツァルトさんの貧富の差に『悲しみ』を覚え、地獄下野動物園でパンダのカンカンとランランを見ていました」

「分かった。次」

「おぅ!俺はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンだ。俺は東急霊鉄『田園』都市線で死ぶ谷まで行って、666で『エリーゼのために』何か買ってってやろうと思ったんだけどよ、急に血の池見たくなって、血の池まで行って、それから西洋美術館で地獄の門見てきたんだ」

「地獄の門ならそんなとこ行かなくても見れるだろうに……ちなみに何故血の池を見たくなったのだ?」

「『運命』感じちゃってね」

「……三人とも下がっておれ、今から役人たちと審議を行う」

「大王様!私はベートーヴェンが一番怪しいと思います!!」

「どうしてだ?」

「行動の動機が曖昧過ぎます」

「しかし彼は西洋美術館のチケットの半券も持っていた。それよりも私は犯人が分かったぞ!」

「えっ!?誰なんですか?」

「犯人は…ハイドンだっ!!」

「ど、どうして?」

「そもそもな……モーツァルトと親交があるのはミヒャエル・ハイドンではなく、兄のフランツ・ヨーゼフ・ハイドンだ!」

「えっ!!!ハイドンって二人いるんですか?」

「あぁ……そして両方有名だからみんな混同しがちなんだ。CDショップやネット通販でハイドンという単語をキーワードに探すと両方出てくるから要注意だ」

「じゃあ弟の方がモーツァルトとヤマハに行ったのは嘘!その時間で鬼を血の池に突き落として、滅して、その後に動物園に行ったんですね……流石は閻魔大王様だ」

「いや、そもそも私は最初からハイドンが犯人だと分かっていたよ」

「どうしてですか?」

「分からないか?名前がハイドンだよ…突き落としたんだ……はい、ドーンってね」

2020.10.3

来週は第5日曜なのでお休み。再来週は㐂いち兄さんです。

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