無題

俺様は猫である 第4話【口ぐせを変えてみる】

※1話から読みたい人はこちら

3連休が明け、今日からまた仕事が始まる。
フラれたのが金曜日。
失恋からまだ4日しか経っていないけど、だからっていつまでも部屋に篭りっきりはよくない。
と、思うけれど……。

「しんどい……」

部屋の片付けをしてすっきりした気分も、朝になると様変わり。
昨日は「よっしゃ!」って気持ちになれたんだけど、何となく気が重い。

結局、人のやる気なんてこんなもんだ。
高いテンションは、長続きしない。
長続きというか、私の場合、たった1日だったけど。

「朝からしけた面してんなぁ」

びっくりするくらいイイ声が聞こえて振り向くと、ソファで優雅にくつろぐ黒猫の姿。
俺様猫のノーブルだ。
相変わらず、その偉そうな態度が似合う猫だこと。

「やっぱそんなにすぐに立ち直れるもんでもないよ。ふとした時に色々思い出しちゃって……」

冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを飲んで、小さくため息を吐いた。

浮気してたって何で気づかなかったんだろう。
私のどこがダメだったんだろう。

素直に「ごめんね」が言えなかったところ?
何でもハキハキ言っちゃうところ?
寝てるときに口が開いちゃうところ?

「……ダメだ、よくよく考えると、心当たりがいっぱいすぎる」

私って昔からそうだ。
最初は猫かぶりして良い子でいるのに、長く一緒にいちゃうと、その化けの皮がはがれて、どんどん素の自分に戻っていく。
もしかしたらだらしない一面を見せてしまって、幻滅されたという線も否定できない。

……それとも。
浮気しているのに気づかないくらい、彼のことに無関心だったかな。

「おい」

ぐるぐると頭の中にマイナス思考が渦巻いている中、ノーブルの声にハッと顔を上げた。

「また、つまらねぇ事考えてるだろ」
「つまらないって……まあ、うん、そうだね」

テーブルにあごを置いて、ノーブルを見つめる。
体はぐったりとなって、動かすのもしんどい。

「じゃあ、そんな時にどうすればいいか教えてやろうか?」
「今のこのやる気のない状態を変える方法があるの?」

そんな画期的な方法があったら、ぜひとも知りたい!
だって、やる気ってなかなか出ないもんだよ。
特にこんな状況のときは、なおさら無理。

「まず、立ち上がって上を向く」

ノーブルはソファから軽やかに飛び降りて、そう言った。

「立ち上がって、上……こんな感じ?」
「真上じゃなくて、斜め45度くらいだ」
「こうね。それで?」

腰に手を当てた状態で、ノーブルを見る。
何これ、今から体操でも始まるんだろうか。

「俺が今から言うこと復唱する。ちなみに思い切り笑いながら、だからな」
「笑顔?そんな笑える状況でもないんですけど……」
「いいから、無理やり口角上げてみろ。ほら」

そんな気分でもないんだけどなぁ……と思いながらも、俺様猫がこちらをじーっと見つめているので、集合写真を撮るときみたいに無理やりヘラリと笑ってみる。
何だ、その嫌そうな顔は!

「じゃあ、復唱。“私は最高に幸せ”」
「“私は最高に幸せ”……って、何これ。洗脳?はたから見たら、私めっちゃくちゃ痛い人じゃない?」

もしかして、これがやる気を出す方法ですか?

「お前、言霊の力をバカにしてるだろ」
「ことだま……?」
「自分の口で発した言葉ってのは、思っている以上にその影響がでかいってことだ」

いや、それは分かるけど、見た目がね。

「“思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから。”っていうマザー・テレサの有名な言葉聞いたことないか?つまり運命を変えるのは、思考だ。そして、その思考は、言葉によってつくりあげられる。俺の言いたいこと、分かるだろ?」

「えーっと、要はポジティブ思考になれってことでしょ?で、そのポジティブ思考をもつために、ポジティブな言葉を発することが大事ってわけだ」

「その通り。人間の脳は、勘違いしやすいんだよ。例えば、“疲れた”って言葉にしたら、脳は“今、体が疲れた状態なんだ”って認識する。疲れた状態ってことは体が重くなったり、気だるかったりするな……じゃあ、そういう信号を送ろうってことで、体に疲れの症状が出始める。つまり、自分を疲れさせているのは、自分自身の言葉が原因になることもあるってことだ」

「なるほど。これをいい方向に応用するってことね」
「ああ。じゃあ、なぜかが分かったところで、続きいくぞ」

「“私は運がいい”」
「“私は運がいい”」
「“今から仕事楽しみ”」
「“今から仕事楽しみ”」

うんうん、何か無理矢理感はあるけど、自分で自分を奮い立たせるって訳ね。
さっきよりはテンションが上がってきたかも。

「“とんこつラーメンと餃子、チャーハン大盛りセット”」
「とんこつラーメンと餃子、チャーハンの大盛りセッ……って何よ、これ!」

突然放りこまれた言葉にノーブルの方を向いてみると、ハッと鼻で笑われる。

「昨日のお前の寝言だ。失恋して落ち込んでる割には、食欲はあるみたいじゃねぇか?」

ノーブルはニヤリと、それはもう嫌味ったらしい笑みを浮かべて私を見ていた。
「えへへ……」と笑ってみるものの、出てきたのはグゥ~というお腹の音。

くそ!
鳴り止め、可愛げのない私のお腹!

今日の教訓
口ぐせを変えてみる



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