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周りの奴らがこぞってあんたに自分の弱さを押し付けたんだ マイ・ブロークン・マリコ 感想(ネタバレあり)

久しぶりに映画館で映画を観た。忘れたくないから感想を書き留めておきたい。

主人公のシイノは、営業回りの昼休みに、ラーメンを食べている最中、TVのニュースから、親友のマリコの死を知る。
普段、チャット並みに既読がつく、lineもマリコから返信がこない。
段々とニュースのことが現実に起きたことだと気づき始める。
「マリコ、今からでもあたしに出来ることあるかな。」とシイノは、虐待をしていたマリコの父親から、マリコの遺骨を奪い取り、ふたりの最初で最後の旅に出る。

傷つきとは簡単に片付けられない程の暴力にさらされて傷だらけのマリコの人生にいつもいたのが、シイノだった。シイノだけだった。
けど、それはシイノにとってもそうだった。

「あんたがどうだったか知らないけどね、あたしには正直あんたしかいなかった。」

過去の壮絶な出来事から、他者と安心した関係がうまく作れなくなってしまったマリコは、その後、付き合う男性とのトラブルが絶えない。けど、シイノだけは、向き合って心配してくれる。
「マリコ、あなたは何も悪くない。あんたの周りの奴らがこぞってあんたに自分の弱さを押し付けたんだよ…」
マリコが他者と関係がうまく築けなくなったのは、マリコのせいではない。過去の傷つきのせいなのだ。ただ、マリコは傷ついた関係しか知らない。だから、同じ傷ついた関係しか築けないし、シイノのことを試すようなことをしてしまう。

シイノもまた直線的な人だ。竹を割ったような性格で、見ていて清々しいが、その分、他者を重んじて場の空気を読む日本の社会では、生きにくさがあるかもしれない。中学生の頃より、タバコを吸っていたのも、生きにくさの捌け口だったのかなと思った。シイノの複雑さは、描かれていなかったが、同じように傷つきをもっているのかもしれない。
シイノが、死んだマリコに言うセリフの中で印象的だったのが、「せめて、一緒に死んでくれって、言わなかったんだ…」という。マリコが、シイノに別れを告げなかったのは、シイノのことをわかっていたからじゃないかと思う。
シイノとマリコは、お互いの存在がすごく近く、コインの表と裏のように、わたしであり、あなたであったのだ。

また、回想でのマリコとの思い出は、振り子のようだ。良い思い出を思い出し、次にマリコのどうしようもない思い出も同じくらいでてしまう。当たり前のことだけど、そうだ。楽しい記憶だけではなく、相手のどうしようもないところも含めて一緒にいることが、私たちの関係性だ。単純ではなく複雑だ。複雑なものに囲まれながら生きている。

映画では、カットがそんなに変わらず、人物を追いかけず、定点カメラで物語が進んでいく。
間が多い分、見ながら色んなことを考えていた。わたしは、わたし自身の親友のことを考えていた。

複雑ななかで生きていく。わたしとあなたにあったことを忘れないようにしながら。


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