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J・D・カー/三つの棺 読んだ感想

密室の巨匠と名高いカー作品の最初の1冊に選んだのはこちら!

雪が降り積もる夜に被害者が殺害され、犯人は殺害現場である書斎から足跡も残さず忽然と姿を消してしまう―――といった、雪により作られた密室です。
本の裏のあらすじを読み、「お、雪の密室ね……時間トリックか、どこかから雪を運んできたか……」と意気揚々と考えていたのもつかの間、どこにも穴が無い不可能犯罪にお手上げ状態でした。
今回は普通に感想を書きたいと思います。

※ここからネタバレ※


事件の全貌をピタリと推理するのは不可能でした。
いくつものイレギュラーが重なり生まれた不可能犯罪だったのです!
犯人だけならば当てられたなぁと、今思うと悔しいです。
私の悪いところなんですが、思い込みで犯人を除外してしまうんですよね。

今回の犯人、密室を作り出した人物は被害者であるグリモー教授自身でした。
死んでいる人間は犯人たりえない……当然そう思い込んでいましたが、今回の事件ではグリモー教授の後に第2の殺人が起こっています。
この時系列が実は逆で、第2の被害者であるフレイが実はグリモーに殺害されていた。そしてその際に、グリモーはフレイに致命傷を負わされていた。

第2の殺人事件の詳細はこうです。
雪が積もる通りをフレイが一人で歩いている。そこへ「2発目はお前に」という謎の言葉と共に銃声、通りに居合わせた3名の目撃者が振り返った時、フレイは道の真ん中で死んでおり、犯人の姿はどこにも無かった……。

二つの不可能犯罪と、その2名を殺害したとされるアンリ(仮称)という人物。刑事たちの行き着いたその推理にずっと翻弄されていました。
しかし、アンリなどという人物は最初からどこにもいなかった。
ここがこの作品の上手いところで、アンリという人物(2人の被害者=兄弟の弟)の存在が最初からずっと匂わされているんですよね。この一度も姿を見せていないアンリが凄く不気味なんですよ。グリモーを殺害して空気よりも軽い体で窓から外に出て、雪の上に足跡を残さずに通りの中央でフレイを殺害し忽然と姿を消す、そんな離れ業を本当にやってのけたのか?と。

犯人=グリモー=第一の被害者 は、自身の弱みを知る弟のフレイを殺害する計画を立てます。
和解しようなどと言いくるめてフレイの自宅へ行き、フレイを殺害する。
自宅へ戻ってきて、鏡で自分の鏡像を作り出し、自分はフレイに変装し、グリモーとフレイは一緒に書斎に入っていったと第三者に目撃させる。
グリモーはさもフレイに打たれたかのように自分自身に銃を撃つ。
駆け付けた第三者に「フレイは自分を撃ち、窓から出て行った」と証言する。
その後、フレイの自宅でフレイの死体が発見される。
兄を殺害したと思い込み自殺したのだろうと処理される。

という筋書きでした。
特に鏡を使った鏡像のトリック、これが予期せずに密室を作り出してしまったのです。
これほどの巧妙なトリックを考えたにも関わらず、実際はイレギュラーがいくつも起こってしまった。
まず、フレイが反撃してきて自身も負傷してしまい、その間に致命傷のフレイがグリモーの銃を持って逃げ出したこと。
通りで再び顔を合わせた際に、フレイがグリモーの胸を撃ち、致命傷を負わされてしまったこと。(その銃の反動でフレイはその場でこと切れた)
通りの真ん中だったために目撃者がおり、その場の宝石店のウインドウに飾られていた時計の時刻が45分遅れていたこと。(これによりフレイはグリモーより後に死んだと誤認された)
イレギュラーが続いたがフレイが自殺とは思えない状況で死んでしまった以上、動機があり疑われるのは自分しかいないと焦ったグリモーは、当初の計画通りに鏡像を使用したトリックを続行して自分も被害者だと思わせるしかなかった。
第三者に鏡像を目撃させ、謎の男と悶着しているように装い、最後に鏡を煙突の中に隠そうとして隠し終わった直後、その動作に耐え切れず銃創が決壊し死んでしまった……。
当日は雪は降らない予報だったこともあり、足跡の無い窓の外の雪、ドアには見張り、という完璧な密室が作り上げられてしまったのです。

偶然降った雪と偶然狂っていた時計、これらの要素がただの鏡像トリックをより複雑怪奇なものにしていたんですね。
これをすべて解き明かした探偵役=フェル博士の推理力には脱帽です。

3人目の兄弟=アンリは30年以上前に亡くなっていた。そして、フレイを殺害する動機がある唯一の人物はグリモー自身しかいない、と分かってからすべての推理がひっくり返っていく怒涛の解決篇はまさにパズルを組み立てるかのようでした。

まさに「全ての不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙な事であっても、それが真実となる。」ですね。
三つの棺というタイトルからわかるように怪奇小説っぽさもあり、終始ワクワクしながら読み終えました。

しばらく時間が取れなさそうなので読み終えるのはしばらく先になるかもですが、今はクイーンのギリシャ棺の秘密を読み始めたところです。
意図せず棺2連チャン(?)になりました。

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