アメリカ銃の秘密/E・クイーン著 推理しながら読んでみた
国名シリーズも6冊目となりました!
「読者への挑戦」まで読んだところで、今回も推理を書き連ねようとしているわけですが……。
今回の事件、推理の取っ掛かりが無いというか、犯行が可能だった人物が居ない(!?)
今も分かっていないままこれを書いているんですが、ひとまず書きながら考えをまとめようと思います
※ここから先ネタバレ注意
さて、今回の事件、国名シリーズ1作目である「ローマ帽子」と非常に似通った状況で起こりました。
2万人のニューヨーク市民とクイーン父子の目の前で大スターが拳銃で撃ち殺されるという、過去最大数の目撃者がいるという状況下。
ニューヨークの観衆のど真ん前で堂々と殺害をやってのけた大胆不敵な犯人は一体誰なのか……?
今回記載されている登場人物という名の容疑者リストはいたって少人数。
エジプトの時もそれで一杯食わされたので、容疑者が少ないからと言って謎解きが簡単なわけじゃないんですよねこれがまた。
今回の事件で何度もキーワードとして登場するのが「弾道」
被害者は左側上方、トラックの南側30度の角度で心臓を25口径オートマチック拳銃1発で撃ち抜かれている。高さ的には客席から撃たれたくらいの位置になります。
この時点で、同じくロデオショーに出演していたビルとカーリーのグラント父子、ウッディ、ライオンズは容疑者から外れます。
他の巻のネタバレになるので詳細は伏せますが、この推理で痛い目に合っているので慎重に考えました。
しかし、群衆の目の前で対象を撃つのは不可能です。こればかりはどんなトリックがあっても不可能です!
やはり犯人は観客に紛れていたと考えるのが妥当なように感じます。
では、客席にいた面々はいかがでしょうか。
主だった登場人物は全員が興行主であるマーズの関係者として特別なボックス席でショーを見ていました。
これにはクイーン父子と使用人のジューナも含みます。
いやいや、クイーン父子の半径数メートル以内で拳銃ぶっぱなしたらさすがに分かるくない!!!?????????????
41人のカウボーイカウガール達が空砲を撃つのと同じタイミングで犯人も撃ったのだとは思いますが、それにしたってニューヨーク市警の警視が同じ空間にいるの分かってて犯行に及びますかね。
25口径のオートマチック拳銃の実弾の試射動画を見てみたのですが、物自体はかなり小さいですが、発砲音は普通にするし硝煙もかなり出ていたので近くで撃ったら少なくとも臭いでバレそうですね……
アリーナにも観客にもいなかった人物が一人だけいます。
当日の様子を撮影していたカービー少佐が撮影台にいました。
しかし、撮影台はアリーナの北側。高さは十分ですが弾道上にはありませんし、エラリーが事件の直前にカービー少佐が撮影台でカメラの準備をしているのを目撃しています。あの場を離れて犯行に及ぶのは難しいと思われますね。
もうここまで来るとクイーン父子の目をなんとかして欺くか、弾道を超能力で捻じ曲げるかしかないです。
そしてこの事件の謎はまだあります。
犯行に使われた25口径のオートマチック拳銃が事件現場から消えてしまったのです。捜査はお馴染みクイーン父子の右腕ヴェリー部長刑事が隈なく行い、出てきたのは薬莢が1つ。
そしてこの拳銃は第2の殺人、ウッディー殺しの後忽然と姿を現したのです。
第1の殺人の後の身体検査及び会場内の徹底捜索をすり抜けた誰かが持ち去るか隠すかし、第2の殺人を同じ拳銃で行い、その後の捜索もすり抜け、翌日何食わぬ顔で会場内のある人物のズボンのポケットに忍ばせた。
クイーン父子だけでなくヴェリー部長刑事の目も欺くとは、犯人まじで何者???????
ただこの拳銃の隠し場所に関しては、ローマ帽子のシルクハットを隠した場所の件もあり、もしかしたら現代人の知識では考え及びもしない場所の可能性もあるので、あまり重要視しなくてもいいのかなとも思っています。
今回の犯人に求められる条件を整理してみます。
・射撃の名手
・事件当時弾道上にいた
作中に残った謎を整理してみます
・事件後、凶器はどこへ消えたのか
・事件の前日夜10時半に、ホーンの宿泊先に尋ねてきた人物は誰か
・ホーンが銀行からおろした現金3000ドルはどこへ消えたのか
・エラリーは何故ホーンの胃の内容物を気にしていたのか(6時間かそれ以上何も食べていない)
・エラリーは何故ビルとキットに尾行を付けたのか
・エラリーは何故凶器を見つけた事を口止めしたのか
・濡れ衣を着せられたミラーはどこへ行ってしまったのか
シンプルに考えてなんですけど、エラリーより前方、つまり視界に入る位置でバレずに拳銃を撃つのは不可能だと思うんですよね。各々の明確な座席は言及がありませんでしたが、一人だけ明確に一番後方の席だと言及があった人物がいます。ジュリアン・ハンターです。
ただ、ハンターが射撃の名手であるという言及はどこにもありませんでした。
弾道を誤魔化すトリックでも無い限り、犯行が可能な位置にいるのがハンターしかいないんですよね。キットはエラリーの隣にいるような描写があります。他の射撃の名手達はみんなアリーナにいるので高さが足りません。
ハンターはホーンに4万ドルほど貸しがありました。その4万ドルを回収するため、ホーンの死亡保険を利用する事にしたのではないでしょうか!
拳銃の隠し場所も弾道をどうこうするトリックも何にも確証は無いんですが、とりあえず人物だけでも当てたい……!という心持ちです。
え~…はい、ついにここまでやってくれたかエラリー・クイーン!!!!!ということでね。
今回の犯人は、第一の被害者であるバック・ホーンでした。
かつて映画スターであった彼は、当時自分のスタントアクションの代役をしていた人物を殺害したのです。
顔の無い遺体以外で被害者が犯人なんてことがあっていいんですか!?
弾道のトリックはいたって単純なもので、撃たれた人物と撃った人物が共にコーナーを走っていたために体が傾いでいたため、垂直から撃たれた場合上方30度の弾道になる、ということ。
つまり、犯人はホーンの後続のカウボーイカウガール集団の中にいる!
このたった1つの推理だけで2万人の観客を容疑者から外してしまうのはさすがだとしか言えないですね。
そしてこの集団が撃った空砲は全ての銃から発射されていた。すると犯人は片手で空砲を上空に撃つと同時に、もう片手でホーンの代役の心臓を正確に撃つ必要があるため、両利きの人間に絞られる。
作中で2丁の銃を所持していた射撃の名手といえば、バック・ホーンしかいない。
死んでいるから犯人ではないのではなく、推理に基づき指し示した犯人が死んだとされている人物であるならばその人物は死んでいないはずだ。エラリーの思考はこうなんですね。ホームズであっても同じ推理をしたでしょうね。
シリーズ順に読んでいる読者を悔しがらせる気満々の強気なクイーンが勝ち誇っている様子が目に浮かびます。
殺害に使用した銃をどうやって持ち出したかという問題もシンプルで、馬の口の中に隠し、会場の外へ持ち出したという事だったんですね!
深くは言えないのですが、私が大好きな某推理ゲームで全く同じ事をやった犯人がいたのにどうして思い至らなかったんだろう……!!!
クイーンの小説は動機から推理するのは無理だと分かっていたので動機についてはさらりと触れますが、映画スター人生から転落し牧場に引きこもっていたホーンにとって、生きる意味は娘のキットの存在のみだった。そんな中ホーンは賭博に負けて到底返しきれない多額の借金を背負ってしまう。娘にそんな重荷を背負わせるわけにはいかないと考えたホーンは、ロデオの大スターとして多くの観衆の前で華々しく散り、同時に娘に保険金を遺す計画を思いついた。
それが代役をホーンとして殺害し、自分は変装して別人として生きていこうというもの。
たしかにこれであれば、悲劇の死を遂げた大スターとして人々の記憶には残り続けますし、娘は借金を返せて残ったお金で生活していけます。
結末は、エラリーが真相を暴き、ホーンは自殺してしまうという悲しいものだったのですが。
当時のアメリカの生命保険が自殺でもおりるかは分かりませんが、2件も殺人事件を起こしている事を加味すればおりないでしょうね。
わりとこの国名シリーズ、みんな凶悪犯ばかりというか、金のためにそこまでやるか!みたいな犯人が多かった気もするのですが、今回は(金のためでもありましたが)大スターのまま死にたいという落ちぶれた元スターの哀愁を感じる動機で良かったですね。
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