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この世界のさらにいくつもの片隅に~強くもえらくもない人たちの毎日~(※ネタバレ有)


前作「この世界の片隅に」で、時間の関係上、原作から削られていたエピソードを追加しての新作。
ムビチケで前売りゲットして、思ったより上映館が少ないなあーと思いながらも、楽しみに見てまいりました。


※ここから下の内容は、ネタバレです。
まだ未見の方、これから見に行く予定の方は、閲覧注意でお願いします。
ネタバレで書かないと、感想が書ききれないのでご容赦を。※



■前作との違い

「リンさん」や「テルちゃん」という、遊女=女性が、活き活きと描かれています。
その遊女たちとかかわることで、すずさんの「女性」としての面が、前作より強く出されています。

前作では「ほっこりおっとり」のイメージがつよかったすずさん。
今回は、初恋の相手に想いがあったり、旦那に怒ったり、旦那の魅力的な思い人(リンさん)に嫉妬したり、女性としての自分に落ち込んだりと、結構な昼ドラばりの悩み多き女性でした。

それ以外で言えば、脇の人たちのセリフも増えていたのですが、そのことによって
「え、そんなこと考えて結婚させたの?」
「いや、この環境下でそんな姉妹女子学生みたいにきゃぴきゃぴなんだ」
とか、各キャラたちの、自分勝手だったり大人の都合だったり、お節介や思いやりなんかが際立って伝わってきました。

風景描写や季節の質感なんかは、言わずもがな。
水彩画としてのぼやかしたところの色のあたたかさ、雪をかぶった街の白さ冷たさ、空襲時のパニックで身動き取れないときの絵の具でのベタ塗り。
手触りと温度がある景色たちでした。

■心に残るシーン

・リンさんのシーン
きれいでチャキチャキしていて思いやりがあって、それでいて発言内容は結構容赦ない。「跡取りが生まれなかったら~」「女の子なら~」のあたりとか、そこまで言っちゃうの?という感じ。

遊女という身の上から、常にさみしさや切なさ、影がある。
そのさみしさや切なさを否定せずに受け入れて、一方で「好きになった周作さん」「友人のすずさん」のことも大切に思う。

すずさんを「うらやましい」と思い周作さんと結婚していることに切なくはなっても、一方で絵を描いて見せてくれたすずさんを励ます。
隠し事は当然あったけれども、自分の気持ちに嘘はつかずに「自分自身の境遇も暮らしも思いも、丸ごと抱きしめて生きていた」リンさんは、格好よく素敵な女性でした。


・すずさんの追加されたシーン
女性としてのシーンが多い。
リンさんに「周作が嫁に渡すつもり(多分リンさん)としていた茶碗」を渡しに行くとか、ある意味ど修羅場な情念(作画が穏やかなだけに余計に)。

リンさんのこととか「代用品」について考えていたりとか、リンさんと自分を比較して自分を卑下しまくっていたりとか、「やきもちです」「嫉妬です」と口に出したりしないだけ、念が深い。
炭の代用品をつっついてつぶやくところなんかも、本気を感じました。

テルさんに南洋の絵を描いてあげるところも、明日をも知れない遊女と結婚した奥様との立場の違いを「格子付きの窓」ではっきり区切られながらも、その差をものともしない思いやりとささやかな交流がよかったです。

青葉を眺める水原さんの後ろを通り過ぎていくところでは、昔の思いをそうっと胸の奥から外に出して逃がしてあげたような、切なさと穏やかさがあって、水原さんのことはこれでおしまいにしたんだなあと、こちらも胸がすうっと切なく、でも「前を向いていくんだね」と優しい気持ちになりました。

空襲を受ける最中、周作さんへ本音を隠しながらも癇癪起こして怒鳴るシーンとか、「見つけてくれてありがとう」とほほ笑むシーンでは、大好きな男性への不器用な真っすぐな態度があたたかかったです。


・花見のシーン
リンさんが自分の思いに決着をつけて、すずさんの背中をそっと押すようにも思えました。
周作さんとリンさんの関係を気にしたり、テルちゃんに想いを馳せたり、「ひみつ」について話したりと、すずさんにとっては色々悩んでしまったのかなあと、桜の美しさとの対比と思いがうずまく様子が印象深い。


・台風のシーン
台風を受けて、親族みんなで身を寄せ合い、ついに納屋まで土砂崩れでうまり。
そのあとには、風の吹く中みんなで外に出て、ランナーズハイのように笑っている。「もう笑うしかない」という状態。
(※笑える要素はないにも関わらず……)。

ある意味「ああ、逆境のほどが過ぎると笑っちゃうしかないってのあるよね」というのと「必死に生きて、立ち向かっている人間の底力」が出ていたシーンでした。


■強くもえらくもない人たちの毎日

強くも偉くもない、ヒーローや救世主でもない、力も何もない人たちの、ありふれた毎日
それが「戦争」という暴力によって、容赦なく一方的に壊されていくどうしようもなさ、やりきれなさ。

それぞれが家族や大切なものをなくして、それぞれによたよたと前を向いて歩き、隣で足を止める人がいれば「大丈夫かい」とぽんぽんと肩をたたいて励ましてくれる。

何一つ力のない人たちが、世界の不公平さや容赦のさながあっても、それを踏んづけたり脇にどかしたりしながらでも、日常を進めていく。

理不尽に何もかもを奪っていった戦争にも、へこたれずに、前を向いていく姿。
お互いがお互いの居場所となって寄り添っていくことの大切やありがたさが、胸にしみた物語でした。




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