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ここにある著作物は全てフィクションであり、実在する人物・企業等とは関係ありません。 W…

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ここにある著作物は全てフィクションであり、実在する人物・企業等とは関係ありません。 Writer,Novelist,playwright,columnist,essayist

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  • 小説-何にもなれない諸君よ-

    短編恋愛小説

最近の記事

短編コント小説:マツコ・デラックスじゃない

 十一月二十一日。日曜日の昼下がり、世田谷区。コンビニ袋を下げて、家に向かって歩いていた。いつもの休日。いつもの景色。そこでぼくは奇妙な体験をした。その時のことを思い出しても、それは夢だったような気がしてくる。あるいは本当に夢だったのかもしれない。日を追うに連れて現実味を失ってくる。そんな出来事だった。 月曜日から金曜日まで普通に働いてる会社員の僕は、日曜日は特に何もしない。次の日に仕事を控えていると思うと何もやる気が起きない。これで恋人でもいれば少し違うのかもしれないが、

    • 短編コント小説:ピーターパン

       その日は皮肉にも雲ひとつなかった。 夏の日差しがおさまらない季節。 私は五階建てのコンクリート造りの建物の屋上にいた。五階建ての屋上は、それは六階を意味している。高さは二十メートル近くになる。 遠くの景色を眺めればきっと見晴らしはいいはずだが、今は眺めている余裕なんてなかった。 緊張して強張った体から冷たい汗が滲む。 そして滲んだ汗のことを意識する余裕すらなかった。私の目線の先には屋上のフェンスを乗り越えて立っている生徒、吉岡の姿があった。  吉岡が立っているところは、屋上

      • 小説『何ものでもない諸君よ』長谷川登2

        母との話し合いが終わって僕を憂鬱にさせたのは、この話が父に伝わることだった。僕がいじめられていることを父に知られることは別によかった。いや、よくはないけど一緒に暮らしてる以上知られることはしょうがないと思って、あきらめるより他はないと思っていた。それよりも何よりも、母との話し合いのような時間をもう一度すごさなければいけないことがいやだった。その時の僕は、そっとしておいてほしかった。いじめを解決しようなんて気はなかったし、僕が我慢すればいいだけのことだと思っていた。 その日か

        • 小説『何ものでもない諸君よ』長谷川登1

          自分の子どもは可愛いものだ。生まれてきた子どもが自分と同じ男ではなく、娘だったことも愛情が増す一つの要素だったかもしれない。いや、息子でもそうじゃなくても自分の子どもだったら格別可愛いのかもしれない。 娘が生まれてから今までの成長をすぐにでもパノラマのように思い返すことができる。もちろん、腹を立てることもある。〝子どものくせに〟とか〝誰に育ててもらってると思ってるんだ〟という親であることを盾にしたような言葉がのどまで出かかったこともある。そのたびにぐっとこらえて我慢をした。

        短編コント小説:マツコ・デラックスじゃない

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        • 小説-何にもなれない諸君よ-
          9本

        記事

          小説『何ものでもない諸君よ』長谷川恭子5

          私は幼馴染に嘘をついた。正確に言うと、本音を隠した。本心を見せなかった。ずっと言わないでおこうと思った。自分の気持ちに蓋をすることには慣れているから、私が何も言わなければなにも問題は起こらない。余計な悩みが増えることも無い。私の気持ちはだれにも打ち明けず、しまっておけばいい。 家に帰ってきて、ママに「ただいま」と声だけ発して真っ直ぐに自分の部屋に上がってきた。声を出すのも嫌だったけど、昔「ただいま」も言わずに自分の部屋に入ったらすごい怒られた。共同生活だからとか、誰が帰って

          小説『何ものでもない諸君よ』長谷川恭子5

          小説『何ものでもない諸君よ』小宮山涼子2

          さてと、帰る準備。帰る準備。 「りょーちゃん、帰ろっ」 めずらしく恭子から言ってきた。あたしの台本にはないけどアドリブで対応しよう。 「うん。帰ろー」 決戦の時が来た。どのタイミングで話を切り出すかは、この物語の明暗を分ける。自然と体に力が入ってしまう。階段に向かう廊下で、勇み足になっていないか慎重に歩く。 「りょーちゃん。そういえば、朝なんか言いかけてなかった?」 「え?そうだっけ?」 「もしかして恭子さ…って言いかけて先生が来ちゃって」 ・・・あたしの幼馴染は

          小説『何ものでもない諸君よ』小宮山涼子2

          小説『何ものでもない諸君よ』小宮山涼子1

          あたしには幼馴染みがいる。 「信じてるよっ。それよりさ、じゃーん。これみた?」 「え、早いっ。今日発売だよっ」 あたしは毎月購入しているファッション雑誌の表紙を自慢するように見せている。 「今月で六カ月連続だってさ。」 「うわっ。ホントだっ」 恭子と二人で追いかけている同世代のモデル。発売日が来ると一日中この話題でもちきりになる。いや、半日も持たないかな・・・。 あたしが雑誌をひろげたその時に、教室に入ってきた男子がいる。恭子が立っているところの後ろ側にある入口。教

          小説『何ものでもない諸君よ』小宮山涼子1

          小説『何ものでもない諸君よ』長谷川恭子4

          「恭子が可愛いからって、胡座かいて座らないなんて思ってないし。ゾンビ映画は観ないとも思ってないよ」 ゾンビ映画は観る。映画の中でも好きな方。家で胡座かいて観てる。 けど、今、そんなことは大事じゃない。 「…その、わたし自分のこと可愛いって思ったことないんだよね」 「えっ、うそーっ。なんでよー」 落ち着いてきた気持ちが、りょーちゃんの一言でまた動き出した。 「なんでって…わたし、鼻が」 「はな?」 初めて口から出す言葉じゃないのに、うまく口から出てきてくれない。 「

          小説『何ものでもない諸君よ』長谷川恭子4

          小説『何ものでもない諸君よ』長谷川恭子3

          口数が少ない人はモテる …というような事をテレビで見たことがあった。 その時は分からなかったけど、 今考えると納得する部分もある。 私が言う口数が少ないというのは 自分の事をあまり話さないという事で、 例えば無口では無くても明るくて、 それなりに喋っていても、 自分の事をあまり話していない人は 口数が少ない人に含まれる。 そういう人は確かに気になってしまう。 好きとか好きじゃないというよりも 疑問が湧いてくる感じ。 恋心が生まれるには共感も必要である。 疑問が多すぎる

          小説『何ものでもない諸君よ』長谷川恭子3

          小説『何ものでもない諸君よ』長谷川恭子2

          キーンコーンカーンコーン…。 キーンコーンカーンコーン…。 あれ?チャイムの音が違う。チャイムなんてどこも一緒だと、当たり前のように思っていた…。そんなことを1年前の私は、新しい環境にガチガチになりながらも心の中で思っていた。今は前の学校のチャイムがどんな音だったか忘れている。 金木犀の甘い匂いが夏の暑さをわずかに引っ張ってくる。 あの時もこんな匂いしてたっけ。懐かしさと寂しさがじわり、と心を湿らす。 この季節の中学校3年生は、落ち着かない。 焦りが滲み出てきてるか

          小説『何ものでもない諸君よ』長谷川恭子2

          小説『何ものでもない諸君よ』長谷川恭子1

          「恭子おはよーっ」 「あ、りょーちゃん。おはよう」 「恭子はやっぱり可愛いねー」 「へっへっへっ。まあねー」 「はぁ…。もう腹も立たなくなったよ」 トクン、と心臓が跳ねる音がした。 「…それ、どういう意味?」 「だって、認めるしかないじゃん」 あぁ、なんだ…。 「りょーちゃんだって可愛いじゃん」 「何それー?イヤミー?」 「ホントに思ってるよっ」 「はいはい。アリガトー」 「信じてないでしょーっ」 まだ少し、ドキドキしてる。 あたし、何でこんな苦しいんだろう。 …この世界は

          小説『何ものでもない諸君よ』長谷川恭子1