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マティスからケリーへ「ひらべったさ」の快楽/一日一微発見435

まあ今から書くのは乱暴な論かもしれないし、思いつきの域を出ないかもしれないが、書いておきたい。

先日、新美術館にマティスの「自由なフォルム」展を見に行った。ちょっと前に行った上野の都美館でのマティス展より、出品作や構成よりもはるかによくて気持ちがよくなる展覧会だった。

今回の展覧会が前回のポンピドー所蔵展とちがうのは、いわゆる「洋画」や「デッサン」時代のマティス重視ではなく「切り絵」とヴァンスの礼拝堂のカタチと光に重心をおいているところだろう。

執拗にデッサンをくり返し、線を抽出しようとし、同じモチーフを繰り返し描いたマチスが、「切り絵」のシフトによって起こった本質変化を、納得行くように誰も分析してくれていない気がしてモヤモヤする。猪熊弦一郎も書いてない気がする。

今回の展示で僕が一番ひきつけられたのはバーンズ・コレクションの中にある壁画『ダンス』の一連の習作が出ていたことだ。
「悪名高きアートコレクター」バーンズは、印象派にとりつかれた男で、印象派だけで2500点以上もっていたし、そればかりか、自分がコレクションしている画家の研究も猛烈にして本もつくった。

そしてなおのこと、教育の素材にするためにコレクションを、かつて誰もやったことのないような独自のレイアウトで人に提示した。その独断と強引な「手法」はハワード・グリーンフェルドが執念のように暴いた著書『悪魔と呼ばれたコレクター バーンズ・コレクションをつくった男の肖像』に詳しいが、まあ正直、僕はあまりこの本が好きになれない。

バーンズがついには交通事故でトラックと衝突し、50フィートも遺体が投げ出されたという自業自得めいた記述も、因果応報を説きたい著者の気持ちはよくわかるが、いただけない(とはいえ、バーンズが好きなわけではないが)。

バーンズはマティスも60点以上もっていたし、マティスがアメリカにてくるタイミングでマティスに壁画を依頼するくだりも書かれている(バーンズはフランス語が堪能だったから、こっそり密談したという)。

バーンズが発注にあたってマティスに、作品の内容に何も注文しなかったり、逆に納品される時も何も感想めいたことを言わなかったとか、グリーンフェルドの本には、まるですげない記述があるだけだ。
ともかく、まあ、エピソードの真偽はおいておこう。

大切なのは、この『ダンス』がマティスの最大の壁画で、なおかつ制作において彼が初めて「切り絵」のプロセスを使ったことだ。

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