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杉本博司における「アート思考」 「本歌取り」をめぐって/一日一微発見405

松濤美術館は、あらためて言うまでもなく建築家・白井晟一が設計した作品であり、美術館としては類のない場所だ。敷地は小さいが外壁は紅色の石でおおわれ、地下2階の展示場、そして中心には吹きぬけと水盤がある。
澁澤龍彦が生きていたら、ミクロコスモスとマクロコスモスの交点と呼んだろう。

隠された美の小さな宮殿というたたずまい。その館が高級住宅街であり、かつ同時に、渋谷の雑踏のフチ(悪場所としてのラブホテル街は姿を消してしまったようだが)にあるのも妖しさを増幅する。

僕が工作舎にいたのは70年代末から80年代の頭で、まだ松濤美術館はなかったが、元ナイジェリア大使館(だったと思う)の建物を使っていた工作舎に毎日寝とまりし、朝おきて松濤の坂を下って書店営業に行ったことをつい思い出す。この街の磁場を、僕はよく知っているのだ。

さて、その松濤美術館での「杉本博司本歌取り東くだり」展の話をしたい。姫路市美でまず「本歌取り」展が始まり、そして「坂東に下って」渋谷へ来たのが「縁起」である。

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