THE W2021の感想 〜大会最大の発見は天才ピアニストの竹内さん〜

THE W2021が終わった。決勝は3-2-2の超接戦でオダウエダに決まった。大会全体として序盤なかなか爆発がない中で、実力者がしっかりと結果を出し、最終決戦の3組は本当に良い三つ巴となった。

四番打者が先頭打者になってしまったヨネダ2000

この日、大会にとっても本人たちにとっても最大の不幸になってしまったのは、A組トップがヨネダ2000になってしまったことだった。M-1グランプリの予選動画が配信されたタイミングで、お笑いファンの間で話題となっていた彼女たち。この日も話題の「ストイックなお相撲さん」ネタを番組の一発目に堂々と繰り出した。

本来であれば、ヨネダ2000は"積み上げた積み木をひっくり返す"コンビだ。コンビの一方が終始「どすこいどすこい」と連呼するネタは、ある意味で従来の漫才というフォーマットをフリにした狂気のネタ。そんな変化球ネタだからこそ、普通の漫才をやる他のコンビが積み上げた"漫才の概念"という積み木を、一気にぶっ壊すことで破壊力が生まれるコンビである。

しかしながら、この日は彼女たちこそが番組全体のトップバッター。大会全体の基準にさえなってしまう一組目を引いてしまったことで、舞台の上には何も積み上がっていない。M-1よりも持ち時間が増えたことで、長渕剛のくだりを増やしてネタのクオリティは上がっていたが、本当なら塁にいるはずの走者がいないことで、せっかくのホームランも大爆発には繋がらず。大きな結果には至らなかった。

それを考えると去年のTHE Wで先頭だったTEAM BANANAの偉大さを思い知った。近年の賞レースでは良い大会には必ず良いトップバッターがいるが、安定したしゃべくり漫才で"大会の基準"を示しながら会場全体を温めたTEAM BANANAは素晴らしかった。今回は爆発を起こせるはずのヨネダ2000が先頭に、逆に安定感が持ち味のTEAM BANANAがA組の後半に残ってしまったことで、大会の序盤は「爆発待ち」の状態に陥ってしまったと思われる。そんな中で登場したオダウエダが彼女たちの持ち味を十分に発揮し、A組の勝利をもぎ取っていった。

"2人"でネタをしていた天才ピアニスト

今大会、最大の発見は天才ピアニストの竹内さんだとぼくは思っている。今大会を見た全体的な感想として、「ボケに翻弄されるツッコミが多い」と感じる場面が多くあった。紅しょうが、TEAM BANANA、スパイク。どれも強いボケが特徴的で、それを輝かせることを持ち味としているコンビだと言える。ツッコミはあまりボケを否定せず、ボケの言動に終始困っているという立ち位置で会話をしていた。

しかし、天才ピアニストはネタの中でしっかりとツッコミがボケの手綱を握っていた。ボケがあって、ツッコミがある。両方の台詞で笑いを取れる天才ピアニストのネタは、まるで1ターンに2回攻撃しているよう。もともと設定の着眼点も面白い中で、小気味の良いリズムとますみの表現力、そしてそれに負けずに的確にツッコんでいく竹内さんのツッコミが本当に素晴らしかっった。

調べたらどうやらネタを作っているのは竹内さんとのこと。今回のネタも表現力抜群のますみが「ドアの強度チェック中にするお芝居」の部分で一つ笑いを取った上で、竹内さんがツッコむかと思いきや芝居に口を出したり、ゾンビネタに乗ったと思いきや「ドア、ほったらかしやんか」とまたドアの指導に戻ったり。さらには「晩ごはんにタコライスは珍しない?」「あと辛い系のパンもほしい」とそっと添えるワードのツッコミも最高。ボケでもツッコミでも笑える構成力の高いネタに仕上がっていた。

大喜利力だけならプロに匹敵した女ガールズ

今大会で最もサプライズだったのは女ガールズというトリオの決勝進出だろう。そもそも芸人として活動しているわけではなく、メンバーの一人は公務員だという。どんなネタをするのか楽しみだったが、内容はなかなかに面白いネタだった。

ネタの内容としては、「実は2人に黙ってたことあんねん」から両脇の2人が「○○やったら知ってんで」と口を挟むのが前半の展開だったが、この○○の部分の大喜利がめちゃくちゃ強かった。「ニッセンでパンツ買ってることやったらもう知ってんで」「ベロベロに酔っ払って駐輪場のガッチャンに足挟まれたことならもう知ってんで」「死んだ犬のシャンプーで頭洗ってることならもう知ってんで」「日向に落ちてる10円拾おうとして指ヤケドしたことならもう知ってんで」と、ここだけ聞いてもめちゃくちゃ面白い。さすがに漫才の技術やそれに続く展開にはまだまだ荒々しさが見えたが、大喜利の羅列的なネタとして、しっかりと才能を見せていたのは小さくない驚きだった。

負けてなおヒコロヒーはヒコロヒーだった

B組の3番目に登場したのはヒコロヒー。他の決勝進出者と異なり、すでに「売れっ子」と言っていいほどテレビで活躍しているヒコロヒー。もともとぼくもネタが好きで彼女に注目し始めたのだが、今回のネタはヒコロヒーらしさを損なわずに賞レース用にポイントを取りにきた凄いネタだった。確かに緊張からか途中で台詞を噛んでしまったところはあるが、正直ネタをやりきったところで天才ピアニストに勝てたかどうかは微妙だと思っている。

というのも、前述の通り天才ピアニストは「2人であること」を完全に活かしたネタだったのに対して、ヒコロヒーはご存知の通りピンのネタ。ある意味で多勢に無勢の状況で、賞レース的な笑いを多く取れていたかはちょっと分からないのが正直な感想だ。

しかし、ヒコロヒーは負けてもヒコロヒーだった。前半から世界観にぐっと引き込む演技力や、頭の中に残るようなワードセンスはやはり群を抜いて素晴らしかった。そもそもピン芸人とコンビ芸人がネタで競う時点で不利を強いられている中、7-0で負けてしまったことは個人的には大して気にしていない。それよりもこのような勝負の場で、ある種のお芝居をみたような圧倒的なインパクトを与えていたのは凄いの一言。やはりヒコロヒーは負けてもヒコロヒーだった。

勝てなかったAマッソ。決勝ネタは完璧だった。

B組はAマッソが勝ち上がり、Aマッソに惜しくも破れた天才ピアニストは国民投票で復活を果たした。A組勝者のオダウエダを含めて、ハイレベルな三つ巴が展開された。

個人的に優勝はAマッソにしてほしかった。誰も観たことのないプロジェクションマッピング漫才をベースに、センスと展開力を存分に発揮しながら、最後はきれいに盛り上がりを出してオチをつけた。ケチのつけどころは正直なかったと思っている。

ただあるとすれば、まずはこれをテレビ画面で観るのと現場で観るのとの違い。おそらくこのネタはテレビで観るのが最も適したネタだが、審査員は会場で直に観ているということ。特にラストのオチはM-1の最終審査を思い起こさせるというところで感動もあいまったが、それを審査員には刺さっていたのかどうか。

また、このネタがプロジェクションマッピングという装置に助けられすぎているということ。かつてキングオブコントでチョコレートプラネットがカラオケネタで惜しくも優勝を逃したことがあったが、それと同様に果たして人間だけの力で笑いを取るほうがネタとしては凄くないか、という減点があったかどうか。

上記についてはまったくの想像でしかないが、個人的に数年前から応援しているAマッソに勝ってほしかったのが正直なところ。そんな贔屓目があることは分かっていながら、それでも最終決戦のAマッソのネタはお笑い賞レースの歴史に残る素晴らしいネタだったと言ってあげたい。

★★★

本当に結果は僅差だったし、順番や少しの運で結果は変わっていたと思う。勝ったオダウエダも、勝てなかった他の9組も素晴らしいところがたくさんあって、今年も最終的には面白い大会になったと思う。

最後に、ひとつ思ったのだが、ヒコロヒーの線香花火はなんだったのだろうか。あれについてはどこかで釈明してほしい。

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