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音信不通の父親の居場所を確認する

ここ数年私は家族にも、友人にも秘密に行っていることがある。
それは、音信不通の父親の現在の居場所や状況を、たまに戸籍で確認するということ。

両親は私が7歳のときに離婚し、妹と私は母親に付いて行った。
それ以降35年間、父とは会っていない。

いや、厳密に言うと、9歳の頃、
友達とマンション下の広場で遊んでいるときに、
少し離れたところから笑顔で「こっちにおいで」という感じで、
私を手招きしていた父を見たのが最後だ。

おそらく、私は妹よりも父に懐いていたので、会いに行けば喜ぶと思っていたのかもしれない。しかし、父が手招きする姿を見て私はただ、
「ものすごく怖い」
と感じた。だから腹の底からの悲鳴を上げて、自分の部屋に走って逃げ帰った。それ以降、父の姿は見ていない。

役所に行って、戸籍と戸籍の附票という2つの書類を入手するために
申請書を提出する。
「戸籍」は、現在の家族構成を確認するため、
「戸籍の附票」は住民票の動きを確認するために入手する。
申請書を提出してから、受け取るまで10分弱くらいかかるだろうか。
この時間はいつも何とも言えない感情になる。

正直にいうと「生きていてほしい」という気持ちではない、
ましてや「会いたい」という感情もない。
ただ、「私達の今の平穏な生活を壊してほしくない」
この気持ちだけで、戸籍を入手して確認している。

離婚原因は、父のお金と女性の問題だった。
離婚後、母はまさしく女手一つで私と妹を育ててくれた。
将来、学歴かなんかで不利にならないようにと、特に教育には力を入れてくれた。英語も幼い頃から学ばせてくれた。

それでも「お父さんがいてくれたらなぁ」と寂しい思いはしたことはある。
特に成人するまでは、父親という存在を恋しく思ったことは何度もある。

でも、自分が大人になるにつれて、母が一人で子供を2人を育てたことの凄さ、大変さが分かるようになった。
仕事がどんなに忙しくても、学校に持っていくお弁当を作ってくれた。
仕事と子育ての両立で大変だったろうに、いつも前向きな姿を見せてくれていた。そんな母を心から尊敬している。

それに私が恋しく思っていた「父親という存在」は、
家族を大切にするような父親なのであって、お金や女性にだらしない私の父のようなものではない。だから、実の父親に会いたいとは思わない。

入手した父の戸籍には、結婚して除籍となった私と妹以外の記載はない。
それに附票に記載されたマンションは、単身用のマンションだ。
離婚後、ずっと独身でいるようだ。

いつか、父の死を知るときが来るだろう。
そのときは、速やかに妹にも連絡して相続放棄をする。
そのために、こうして私は戸籍で確認しているのだ。











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