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「君、すぐに辞めそうなんだよね」と言われてから5年が経った。

まだ大学生の頃。
人生最初の就職活動というものに苦しんでいた自分を思い返したとき、真っ先に思い出す言葉だ。
新卒で入った会社を4年半勤めて辞めた今。
2度目の就活中の今だから、改めてそのことについて考えた。



2017年5月。とある会社の最終面接。グループ面接だった。デザイナー枠でたった一人、最終選考に残っていた。
面接官は社長のみではなく、取締役、部長クラスが横一列に、品定めをするように15名ほど並んでいた。一方で最終面接者は12人。会場も式場などで使われるようなホール。
そんな環境で一人ずつ登壇して、大人数の前でマイクを片手に自分についてのプレゼンをするようなものだった。制限時間は3分ぐらいだったと思う。

自分は一番目で、なるようになれと思いながらPRを終え、他の7人のアピールを見ていた。自分の経験から得た教訓を話す人、会社に入った後の働き方について話す人、起業の意思を示す人、様々だった。そのなかで、「自分が今後どうなりたいかわからないけど、お客さんの笑顔が見れるようなものを作りたいです」とかなんとか漠然的で幼稚な話をした私だけが、その場でひどく浮いているような、羞恥心だけが頭の中を支配していた。一人だけ職種が違ったのが、余計に自分を縮こまらせた。

全員のPRを終えると、就活生をホールの外に出し、中では採用者を決める話し合いが始まった。この中の半分を落とす会議だ。
会場の外ではその場で出会った就活生たちで緊張しただとか、LINE交換しようだとか話していた。緊張から解放されて、ほっとしたのだろう。

10分ほど経ったところで、自分と後二人が再び会場に呼ばれた。
呼ばれたということは、落とすべきかどうかわからないからもう一度話を聞こうということ。
面接官はいくつか自分や他の二人に質問しながら、何やらメモを残していた。そのなかで、少しの沈黙があった後、「君、入ってもすぐに辞めそうなんだよね。」という言葉が社長から投げかけられる。鉛みたいに重い言葉だったのに、口調は風船ぐらい軽くて冗談めいていた。他の面接官からはちらほら笑いが漏れていた。

笑いの的にされたことが恥ずかしくて、すぐに否定の言葉が浮かばず、
「えー、、!そんなことないと思いますけどね〜wあはは」と、その時はちょっとだけ泣きそうになるのを堪えて努めて明るい雰囲気で返した。
やりがいがあれば自分はすぐに物事を放り出すようなタイプではないと言いたかった。とはいえ、「自分に合わないと思ったらすぐにやめる」気でもいたのだ。その言葉は正論かもしれないという気持ちがあった。だからこそ、5年経っても、私の心に残ったのだ。

結局、その面接はお祈りになってしまったが、正直その会社に何がなんでも入りたい気持ちも特になかった。それを見抜かれていたのかなとも今では思ったりもする。
その後の就活でも、自分から企業に申し込むエントリー型の選考は、大体最終かその一個前で落とされることがあった。理由は結構明白。「志望動機が弱い」から。言葉を変えるとするなら、「帰属意識が弱い」からなのだと思う。
今思えば落ちたからといって会社との相性が良くなかったというだけで、特段落ち込むようなことでも全くない。しかし、当時の自分はお祈りメールが来るたびに存在価値を否定されているようで苦しかった。
(最終的には、マイナビをやめてクリエイター向けのオファー型採用に切り替えてからは、難なく内定までいくようになったので、満足のいく内定先がもらえた後はすぐに就職活動を終了した。)


それから4年が経ち、新卒で入社した会社も勤務歴5年目に差しかかった時。
こんなツイートを目にした。

自分の中の「就活の苦しみ」が言語化されたような気がした。
大学生のほとんどは、社会人として正社員のように働いたことなんてない。
会社というものについて知らなければ、どんな人が働いているのかもわからない。だから、与えられた「条件」やホームページに載っている「情報」でしか選べない。
結局は、恋愛と同じように自分のアピールが得意で、「その会社へ好きな気持ち」がある人が一番強いし企業としても長い間勤務してくれる可能性があってWINWINなのだ。と。



ところで、私は社会人生活のほとんどを過ごした前の会社がすごく好きだ。
自分に合っていたと思うし、新卒時代の同期や後輩とは職場が離れた後もいまだに連絡を取り続けているし、同僚や先輩と気兼ねなく話せる雰囲気があって自分にとっては居心地が良かった。
ただ、4年仕事をしているうちに、自分のやりたいことが明確になって来た。もっとこうしたい、もっとこんな勉強をしたい、もっとこうありたいという思いが強くなり、結果転職という決断に至った。

ポジティブな理由で再び「就活」を始めた今、昔よりも仕事というものに対して親しくなったし、誰よりも「モラトリアムでいたい」「働きたくない」と駄々をこねていた大学生の頃の自分が見たら、周りの友達すらも若干引くほど仕事が好きになった。
ずっと心の奥深くにあった「君、すぐに辞めそうなんだよね」という言葉の呪縛は、5年経った今に思えば、あの時の名前も忘れた会社の社長に「当てが外れましたね」とにっこりにこにこスマイルで返せるほどに心の底から溶けて消えている。自分らしく働かせてくれた前職には感謝しかない。


大学四年生の私よ、安心してほしい。
君はすぐに辞めるような人間ではないし、仕事は楽しいし、これからたくさんのいい出会いが君を待っているよ。あんまり出来のいいポートフォリオではなかったかもしれないけど、私はあの頃のポートフォリオ、大好きだよ。
今、私も5年ぶりに就活しているけど、君の選んだ会社に入ったおかげで今楽しく就活ができているよ。ありがとね。


……と、深夜のテンションでしか書けないエモい投稿をして翌日後悔してしまうのである。


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