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【映画評】霞ヶ関の中の人から見たシン・ゴジラのリアリティ

霞ヶ関の中を知るいい教本として学生によくおススメするのが、映画「シン・ゴジ ラ」。今回、このブログを書く為に多分 5~6 回目の鑑賞をしましたが、見るたびに新しいメッセージを発見する、何度でも噛みしめられるいい映画だなあと思う。グダグダな面も描かれるけれど、最後は役人や政治家としての矜持、覚悟が描かれていて日本も捨てたもんじゃないなと思わせてくれる。

最初のブログのネタとして、シン・ゴジラの映画評をしてみたいと思います。※ネタバレもいくつかあると思うので閲覧注意です。

まず、すごいのは「舞台装置のリアルさ」。危機管理センターって入れないはずなんだけど、なんで庵野監督こんなリアルに再現できてるんですか!?って聞きたい。機密事項じゃなかったでしたっけ!?(取材協力に政治家や省庁の名前があるから、教えたのかな…)いや、シン・ゴジラが公開される前に危機管理センターに行ったときに、「エヴァンゲリオンみたい!」と思ったので、庵野監督は昔から知っていたのかな。

シンゴジラ1

(映画シンゴジラより)


次にすごいのは「登場人物の役職のリアルさ」。実際に役職の部署は存在しており、下にネットからいただいた、映画公開当時のリアル役職の人の写真とシンゴジラでの俳優さんの対比がある。

何となく雰囲気が似ている(似ていない役職の人達は、公開時には既に異動してモデル人物ではない可能性あり)。。。ただ、ひとつケチをつけるとすると、映画の中で「ここに集まったのは霞が関のはぐれ者」と表現されていたが、「厚生労働省医政局研究開発振興課長」は結構な出世コースであり、たぶん危機管理の時にはこの課は出てくることはない。個人的に研究歴があれば「属人的」に呼ばれることはあるかもしれないけれど、それはまた別の記事に書こうと思う。


ストーリーの前半は、危機感薄い感じで、お役所の形式主義が随所に散らばっていて心憎い。例えば下記は首相官邸の会議室でのメモだし。

シンゴジラ2

(映画シンゴジラより)

前席は指定職、今回は総理が集めているから大臣級の会合で、後ろに控えているのは局長か課長級の管理職だと思われる。メモ出しは、前の人がエライので、後ろから直接発言することはまかりならない、というものなので、発言してほしいことをサッと出すというある意味職人技。通常のメモ出しの場合、これをいかに前の人が困らないように素早くだすか、後ろの人は先読みして用意するので臨戦態勢でピリピリしている。今回は緊急ニュースだから素早くメモ出し。でも、これも普通の感覚になると、本当に緊急なら若手でもその場で読み上げたらいいのにね…

ストーリーの前半は、政治のリーダーシップの欠如や決断力のなさ、官僚の縦割りを揶揄したような滑稽な姿が描かれるが、後半は、今回見て改めて、これは東京電力福島第一原発事故(福島原発事故と略)へのオマージュとメッセージなのではないか、と思いました。また、人間ドラマとしては、既存の体制がゴジラの放射熱線で完全に駆逐され、生き残った政治家と官僚が個人を捨てて日本を再生させようとする物語となっています。

ゴジラがいつ襲ってきたのか映画では明らかにされていません。しかし、東日本大震災後にできた「原子力規制庁」が登場している時点で、震災後と推測されます。一方で、物語の中で「広島原爆」については語られるが、なぜか東日本大震災や福島の原発事故については語られるシーンはありません。

おそらく、「誰も予想していなかったゴジラの襲撃=誰も予想していなかった福島原発事故」と考えると、物語の作り込み方やメッセージが色々と深く感じさせられます。

例えば、大杉蓮が演じる総理のダメダメっぷりや、広報の「大丈夫です!」といって「避難してください!」というグダグダ感はデジャブ感が…(当時は国で働いていないので、完全にイメージです)。でも、テロップで取材協力者に当時の官房長官である「枝野幸男」とあるので、なんだか味わい深いというか、妙なリアルさを感じてしまいますね。。

ゴジラ2

(映画シンゴジラ エンドロールより)

そして、アメリカが核を落とすので、住民を避難させるように日本に指示した時に、どこかの大臣が言った呟き「避難とは住民に根こそぎ生活を捨てさせることだ」。これは福島事故へのメッセージと考えると、非常に深い。ちょっと泣きそうになってしまいました。震災からもうすぐ9年、今の現状を考えると、この言葉の重みが刺さります。

そして、ゴジラと福島原発事故の共通点、ゴジラの中に原子炉があって、放射線を放出しながら歩き、口や尻尾から熱線を放出して、街を焦土化。熱線放出は、ナウシカの巨神兵を彷彿とさせるものでもあるけれど、「モニタリングポスト」や「除染」などの言葉も飛び交い、完全に動く原子炉。そして、最後のゴジラの倒し方は、血液凝固剤で冷却する、という医学的には「???」だけれど、要は冷やすんだな、ということで福島原発事故の時もあの巨大な施設を普通の消防車の ホースなどで冷やしたのと同じ、超アナログな方法。今回図を比べてみたけれど、非常に似ています。

ゴジラ3

(映画シンゴジラより ゴジラ冷却シーン)

原発事故の冷却

(福島原発事故直後の原発を冷却しようとしている映像)

そして、ついにゴジラを凍結で着た後の長谷川博己の言葉が、この映画の福島原発事故に対するメッセージではないかと思いました。
「スクラップアンドビルドでこの国はのしあがってきた。今度も立ち直れる。」「人類はもはやゴジラ(福島原発事故)と共存していくしかない」


なんだかゆるく書くつもりが熱く語ってしまいましたが、国の役人をポジティブに描いてくれる貴重なありがたい映画です、ということで星5つです。

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