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2022/12/15

 手が自由に動かない。人が歩いている。手や足を意識しているのか。何もする気になれない。書くことも怠惰の中でやっている。周りには人がいる。この原稿は流れを作るためにある。何もする気になれない。Oさんがもはや気持ちが悪い。そう言ってくれるな。手は動きの中で。動きは空間の中で。空間はその奥にあり得ないものがある。ここにぼくがいて、彼女が隣の県にいるというのに、つながること。言葉は距離を超えると言うが、もしそうだとしたら僕たち自身が言葉であり、肉体などというものはそもそも存在しないのではないか。いつまでも手が動くと思うな。音声入力。声が出せると思うな。人間の頭を切り落とす。もう少しで手が止まる。それでも動かし続けなければならないとしたら、思考は止まっている。ぼくはずっとここで首から肩を痛め、ぼくはずっとここでこうして書くことを止めない。花がちる、火花散らしてちる。やわらかな朝。あなたはずっと、ぼくと共にいる。
 部屋の隅で、この原稿を書いている。どこで書いているかというのは結構重要で、ぼくはトレーニングをしている。花はちる。水の中で花が咲く。もはやぼくは眠い。眠いからといって動くことを止めると、ぼくはほんとうに何もなくなってしまう。もう少しであなたが、いなくなってしまうとき、まだそこでぼくを思ってくれるあなたが、ぼくを忘れるとき。空から杭が降ってきて、ぼくの目の前の地面につきささる。手を取り合うだけで、僕らはつながれる。無意味に手を、空にかざすだけで。空は晴れていて、もう少し声を、欲している。
 どこまで行けるのだ。どこにぼくはいて、ぼくはどこからどこまで行けるのだ。そんな図式はいらない。書く手を止めなければいい。自分自身が書く手を止めなければ、自らに鼓舞される。何もない横で、彼女の手があることを知る。ぼくはほんとうに、そこにいるのか。
 自分だけで自分のことをわかることはできない。書いたもの、つくったものを、自ら読み、見るとき、ぼくはこうなのだな、と知る。あなたがぼくを思い、好きでいてくれるとしたら、ぼくはそれがなぜなのかを知ることはできないだろう。僕らはここで、強くつながる。やらなければならないことはたくさんある。どうして止まっていられるのか!
 狂気と呼んでいたもの、創造の泉とでも言うべきもの、そこにどっぷりと浸かってつくることでは、世界のつぼを押さえることはできない。狂気の本質を知るために、ぼくは狂気にどっぷりと浸かりながらも、外の場所に位置し、木村敏『異常の構造』を読む必要がある。自分の中にあるものを出す。しかしちゃんと社会に位置していること。世界から隔絶される狂気は、狂気自体からの回路を必要とする。そのためにぼくは、アルトー・コレクションを読む必要がある。自分自身のイメージ。自分自身のイメージを全くつかめていないこと。誰もが自分自身のイメージをつかみたいと思う。あなたが見ているぼくは、おそらくぼくの本当であるけれど、ぼく自身がそれを知ることはできない。誰もが自分自身のイメージをつかみ、それを手に世界と向き合おうとする。もっとだ、もっと書き、もっと繋がろうとする。もっと生み出し、もっと声を聞き、もっと外へ出る。どうして自分自身の声に勇気づけられるのだろう。どうしてぼくは自分自身を知らないのに、その自分自身を携えて、前を見ることができるのだろう。声をきいて、それを感受し、ぼく自身になる。ぼく自身はもっと、作りたいと思う。でもぼくは時間がないとか、作ることはできない、自分には限界があると言う。もう少しでぼくは、届きそうだと思う。もう少しでぼくは、次に行ける。ぼくはあなたが好きだ。ぼくは自分自身でいることがうれしい。ぼくはもう少しであなたに会える。それは一つの意味ではなく。燃える幽林。作ることにぼくの全生命はかかっている。ぼくの全てがかかっている。ぼくは実際に、今手を動かし、地球自体を掌の上で転がし、それが錯覚であってもいつかはそうなるだろう、自分の領域を知る、しかしそれは教室一個分ではないことも知っている、それは説明ができないことだ、それは妄想であるとか病的であるとかとは言えないし、決して言わせないものだ。決して。
 手を叩く。それが現実世界に影響を与える。ぼくが一冊の本を読む。たとえば『時間と自己』を読んでいるぼくは、もうそれだけで何か途方もない事態に直面している。書くことができれば、やわらかな日差しを感じることができる。ぼく自身はすべてのことがわからない。すべてのことがわからないとはなんという奇跡だろう! 言葉はいつも打ち込まれる。この感触はすべての感触に基づいている。ぼくは花を見て、花の増殖を見て、それが枯れるのを見て、枯れた花に詩を捧げるぼく自身はどこまでも太陽光に照射される。ああ、事態は万事全能となる。これが妄想であると言うのならきみは、それまでということだ。これが妄想であると言うのならきみたちは、ぼくと共にあり、それゆえに敵だ。
 言葉は、それを封じ込める文字は、覚醒剤よりもぼくを強力に導く。もしかするときみは、そのことに気づいていて、だからぼくをいつでも見守っていてくれるのか。あなたのイヤリングには、秘密がとけている。僕たちはまだまだだよ。それは希望だ。僕たちはここから始めることができる。ぼくはあなたが好きだ。

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