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ルックバックに出てくる3人の○○についての覚え書きと空想

この投稿は前回の投稿の追記であり、「ルックバック」の物語における核心部分について言及します。
作品を読まれていない方はぜひ一読してから先に進んでいただきたいと思います。

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本題

この記事は「ルックバック」の劇中に出てくる3人の犯人についての覚え書きと空想です。
この作品の中には京本を襲う犯人が3人出てきます。
同一人物のように見せかけつつ全員別物なのではないだろうかと考えています。
かなりデリケートな問題をはらんでいて、僕は作者はそのデリケートな部分を意図した上で、この犯人達を描いたのではないかという前提でこれを書いています。
だから実際のところは作者にインタビューしなければわからず、僕の空想なのですが。

3人の犯人はそれぞれ「実際の犯人」「もしもの犯人」「4コマの犯人」です。

まず実際の犯人について、この人物は劇中には一切登場せず、おまけに新聞記事とニュースから得られる断片的な情報しかありません。
住所不定の男であり、斧のような物(刃物)を持った通り魔であり、12人殺害し3人に重傷を与え、「絵画から自分を罵倒する声が聞こえた」という供述をしている、これくらい情報はありません。
顔すら実はわからないし、供述もはたして信用できるのかもわからない、動機も一切不明なまま物語は進んでしまいます。
読者には凶行に及んだこの人物の心の内は、一切わかりません。

劇中で藤野ははたしてこの人物の情報をどれだけ知ることができたのだろうか。
読者である僕達と大差なかったのではないか。

そして2人目が「もしもの犯人」です。
地元で空手を続けていた「もしも」の藤野が突然現れてカラテキックで撃退する人物です。
彼はルックバック劇中にありながら微妙に解像度が低くなんだか「絵」のように見えます。
僕は彼を藤野が空想の中で描いた都合のいい悪役なのではないかと考えます。
持っているのも何故か「つるはし」になっているし、実際の犯人が「盗作」と感じたなどは、少なくとも劇中の供述には書かれていないのです。
彼はまっすぐに京本のみを狙い、藤野と京本の因縁の始まりである「会ったことのない誰かと自分の絵を比べた」人物として現れます。
彼は藤野が蹴りを入れるべく空想の中で描いた犯人情報のパッチワークであり、実際の犯人とはまるで別物なのだろうと思います。
何しろ「もしも」において藤野は京本を助けるヒーローであり、犯人はその演劇におけるヴィランです。
「もしも」において藤野は「12人を殺害し3人に重傷を負わせる通り魔を阻止する人物」というわけではないのです。
そもそも京本はその最初の被害者だったのかすらもわからないのです。

そして最後に「4コマの犯人」です。
京本に襲いかかる理由が4コマでその役割だから意外に一切ない理不尽存在です。
この4コマはかなり不思議な存在で、絵柄が京本のそれではありません。

ルックバック劇中に出てくる3人の犯人について整理してきましたが、ここからわかることはただひとつ犯人の実像はまったくわからないということだけです。

情報の断片を継ぎ接ぎして作った空想上の犯人に頭の中で蹴りを入れることは、いくらでも何度でもできます。
でも、それでも実際の犯人については何もわかりません。
理不尽を理不尽のまま、不明を不明のまま、それでも立ち上がっていく。
これはそんな物語なのではないだろうか。

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