「客観的で中立」というマチズモ ジェンダー論から読み解く「冷笑系」

 「客観的」「中立」な自分でありたい、と思う願望。このような願望を持つ人たちは、政治や社会問題のニュースを前にして、こう呟きます。「社会なんてそんなもんだよね」。
 近年では、彼らのような人たちのことを「冷笑系」と呼びます。

 なぜ彼らはこのような振る舞いをするのでしょう。
 彼らは、物事を「冷静」に判断しようとします。また、物事を「俯瞰」して見ようとします。それは要するに、自分を賢く見せたいという願望を持っているからです。

 近年「男らしさ」という概念が、批判的な意味で話題になっています。「toxic mascurinity(有害な男性性)」なんて言葉もありますが、一般的に考えられている「男らしさ」の中に、人に危害を加えてしまうような問題含みのものがあると、見直されているのです。
 問題のある「男らしさ」の中には、人より優位な自分であるために、人を貶めたりマウントしたりするような振る舞いのことも含まれます。
 冷笑系にあるのは「自分を賢く見せたい」という欲求ですが、これって「人より優位な自分でいたい」という、「男らしさ」に通じる話です。その意味に置いて、冷笑系の心理は「男らしさ」と共通しています。冷笑系も一種のマチズモ(男性優位主義)なのです。

 そんな彼らは様々な物事を文字通り「冷笑」します。そのことによって自分を賢く見せようとするのですが、その言動にはある一定のパターンというか、攻撃対象があります。いくつかの例を紹介します。

 まず、一つ目は社会運動。彼らはデモを見ると「デモで社会は変わらない」と呟きます。現在ロシアのウクライナ侵攻が起こっていますが、それの反対デモに対しても「戦争反対と言えば戦争がなくなるわけじゃないよね」と呟きます。

 二つ目は、「リベラル」。リベラルとは、ある種凡庸な立場です。「差別反対」など、基本的には至極真っ当で当たり前のことを主張します(ここで言う「リベラル」とは、政治思想における「リベラリズム」とは区別されます。現代日本社会において想定できる「リベラル派」のことを指しています)。もちろん、その当たり前のことが実現されていないからリベラルは声を挙げるのですが。
 しかし、冷笑系はその「当たり前のことを主張する」という凡庸さに耐えられません。なぜなら、彼らは自分を賢く見せてくれる絶対的で普遍的な「思想」にしか興味ありません。だから、ある種の凡庸さを掲げているリベラルを嫌うのです。

 また、リベラルとは時に当事者に無力感を感じさせる立場です。リベラルは社会問題を指摘します。しかし、それはなかなか改善されません。「自分の想いは意味がないのでは」「自分は無力ではないのか」。リベラルは、そんな思いに駆られることが、少なくありません。
 しかし、マチズモを内面に持った人間は、自分が無力かもしれない、と自尊心を傷つけられることに耐えられません。自分は常に有能で、力のある存在でなければならない。そこで社会問題に立ち向かうというタフな選択肢を回避し、物事から「客観的」で「中立」という距離を取り、安全な場所から論評することで、自分の自尊心が傷つくのを回避しながら、自分を賢く見せるという目的を 同時に達成するのです。

 また、冷笑系は「フェミニズム」もよく嘲りのネタにします。マチズモの特徴として、他人を支配したいという欲求がありますが、冷笑系にも支配欲は存在します。支配欲を満たすには、自分より弱い立場の人たちの存在が必要不可欠です。そこで標的にされるのが、社会的に差別されている「女性」です。
 ところが、フェミニズムはその女性差別を告発します。これは冷笑系にとっては至極不都合な話です。自分より弱い立場の人間がいなくなってしまったら、他人より優位に立つことができなくなってしまいます。女性には、今のまま差別される存在でいてほしい。だから冷笑系は、フェミニズムを攻撃するのです。

 冷笑系の振る舞いには以上のようなものがあるのですが、その問題点は、大きく二つあるでしょう。

 一つは、先の通り彼らはリベラルやフェミニズムなどにマウンティングを行うのですが、それ自体が一種のハラスメントです。人より優位な自分でいるために、他人を貶めてしまうのです。

 もう一つは、それが現状追認思考であるということです。彼らは暴力や差別が目の前で起こっていても、「客観的」「中立」であることの意味を間違って解釈し、何もしない「傍観者」でいます。彼らは、いつも暴力や差別を批判することなく、その存在を容認するのです。これは暴力を後押しする二次加害に繋がる振る舞いです。

 以上が、ジェンダー論から読み解く「冷笑系」の考察です。今回は「冷笑系」を「男性性」の問題として書きましたが、冷笑系にはもちろん「女性」もいます。問題のある「男らしさ」を身に着けてしまう女性も、世の中にはいるのです。

 
 

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