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少年との出会い

 義弟の死が突然、伝えられ、体調不良を押して急ぎ、妻とともに江別市内の葬儀場へ赴いた。
 葬儀場には親戚縁者たちが集まっており、喪主 (妻)、 施主 (長男) が涙をこらえて応対していた。遺体に合掌しながら、その人生を振り返る。義弟はおとなしく真面目な性格で、家族を守り、ひたすら働き続けた、そんな生涯だったと思う。享年八七。
 通夜の席で、久しぶりに親戚の人たちと会う機会を得た。私たち夫妻だけが断然、突出して高齢だが、若い人もいて、悲しい雰囲気の中にも光明が漂うのを感じた。
 その中の一人、亡き義弟の孫に当たる輝己君と席が並んでいたこともあり、思いがけず会話が弾んだ。輝己君は一八歳。この春、高校を卒業して現在、千葉県に在住し、野球仲間の同級生五人とともに、練習だけでなく、英語の勉学に励んでいるという。
「バイトをしながら自活し、 八月にはアメリカのユニバーサルシティ大学 (短期大学)に入学し、野球のコーチ宅にホームステイして、勉強と野球に打ち込みます」
「えっ、じゃあ、将来、プロ野球を目指すの?」
「はい、ユニバーサル大を出たら編入して四年制へ移り、マイナーからメジャーへ行きます。 全力でやり抜きます」
 思わず唸った。素晴らしいじゃないか、この心意気。大きな目標を抱いて羽ばたいていく。思い返せば私もこの年の頃、新聞記者になろうとして、必死になっていたではないか。
「立ってみてくれないか。 どんな体なんだ」
その言葉を受けて彼はすっくと立ち上がった。 身長一メートル七〇。まだまだ伸びるだろう。
「大変だと思うけれど、頑張ってね。 電話番号を教えてくれないか。 何かあったら連絡す るから」
「はい、わかりました」
 翌日の本葬儀には、私の体の都合で顔を出せなかったので、よほどのことがない限り、もう会うことはできまい。 だが不思議なことに、何か目に見えない“宝物”を胸に抱いたような気持ちになった。
 義弟と辛い別れをしたのに、その義弟を祖父に持つ若い男性と出会う。 これはひょっとしたら義弟からのプレゼントなのかもしれない、と思い、そっと瞼を閉じた。

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