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極夜行と極夜行

極夜行 / いちいいず

 かつて栄えた都市はとうに朽ちて
 傾いたビルの隙間を魚たちが群れる
 僕だけが何故かこの世界に取り残されて
 いるはずのない君を今も探しつづける
 昨日も明日も意味を無くした
 光も闇夜も時間に溶けた
 祈りは水面に波を立てて
 憎いほど光る星座が歪んだ

 とうにオールは折れ筏は崩れて
 いつの間にか流れ着いた小さな教会で
 仄暗い灯りが明滅する廊下に
 外階段赤さびが小雨に香って
 人が生きた跡は海に沈んだ
 文明は潰えても月は野を照らした
 君が今もどこかで生きてるなら
 僕はそれを信じて歩くしかないんだ

 鉄塔を遠く 雷鳴は遠く
 沿線を遠く 喧騒は遠く

 どれくらい経ったろう電燈の上
 白い息が明るい夜空へ消えた
 繰り返しの日々を生きるうちに
 いつの間にかずいぶん遠くに来た

 ポラリスが光るから 明けない夜の中でも歩いてゆける
 ポラリスが光るなら 地図の無い世界でも北を目指して


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人生には夜の時と朝の時がある、らしい。だとしたら今は間違いなく夜だろう(当然現実の時間とは関係なく)。それも、言うなれば極夜である。

2019年5月、Polar Night(極夜)と題して投稿した文章。今年一年を乗り切れば、冬を超えれば、季節的にも人生の上でも春が来ると信じ、長い夜が明けるのをじっと待っていた。そして約半年、この文章にも書いたとおり何もしなくても時は経ち、思い返してみればあっという間にその春はやって来た。ただし私たちが今までに体験したことの無かったかたちで。

漫然とフラストレーションを抱え自室に閉じこもりただ日々をやり過ごして春を待つ様を去年の自分は極夜と形容したが、どうやらその極夜は一年と半年が経った今もまだ明けていないらしい。むしろその闇は深さを増し、いつ明けるのかもよくわからないまでに成長し続けている。

Twitterは自分の脳神経とBluetoothでつながっていて、今年は精神の不安定さをそのまま反映したツイートを繰り返していたし、実際寝れない日がめちゃくちゃ増えたりずっと胃が痛かったり心身ともにおしまいであった。劣等感とか焦燥感とか、孤独感であったり、そういうものに押しつぶされそうな夜があった。(過去形だけど全然今もあるし人間は大体そうだと思う。そうだよね?)

しかし、そんな深い闇の中にいたからこそ気づくことが出来た光もあった。それは例えば愛だったり心の豊かさだったり、とにかくどんな時でも、この宇宙の法則が乱れようとも、それだけは絶対的で、だからそこを目指していれば道に迷うことは無いんだ、と思えるものである。右も左も分からないような夜の闇の中のように、疫病とかもうそれ以前に乱れきったこの世界で前を向いて歩いていくためには、北を指し示し続ける北極星、その絶対的な光を目指していくほかに無いのだろう。(もちろん自分より遥かに苦しい思いをしている人も沢山いると思うけどこれはおれの話であっておれにとってはこれが全てですから。)

で、そんなことを考えつつも暇を持て余していたので本でも読もうと思い立ち、Amazonの欲しいものリストやTwitterのブックマーク(いいねしづらいイラストや面白そうな本の紹介ツイートが入ってる)を見返していたら、「極夜行」という本を入れていたことを思い出した。世界最北の村に訪れる約四か月間の暗闇、さっきおれが言ったイマジナリー極夜なんかじゃなくて正真正銘マジでガチの極夜の中をただ一人(と犬一匹)で歩いた四か月間の記録を収めた探検家の角幡唯介さんのノンフィクション作品である。kindleで買って読んでみる(全然スマホでもノンストレスで読めました。電子書籍いいかもしれない。)とまさに自分が考えていたようなことが物理的な説得力を持って綴られていた。

闇の中で視覚情報が奪われることで、通常なら考えられない不安が心の中に醸成され、それを抑えることができないのだ。(略)このとき唯一、信じることが出来たのは上空で細々と光る北極星だけだった。

角幡 唯介「極夜行」

色々あって確かな現在位置が分からず今の方向で合っているのだろうかという不安を抱えながら歩く角幡さんを唯一目的地へと導いたのはコンパスではなく北極星ポラリスであった。

嘘くさくなっちゃうけど、ホントに自分が思っていたこととリンクしていて驚いたというか感心した。おれがあったか~い部屋でぬくぬくネットサーフィンをしながら考えていたことはあながち間違ってはいなかった。そうか、このまま信じていれば、この方向を向いていれば目的地(どこ?)にたどり着けるんだ、と思うことが出来た。

なんとなく今までを締めくくる気持ちで書いてきたけど、これは全部現在進行形のことだし、何なら死ぬまで考えてなくちゃいけないことだと思う。(まあ数年後この文章を読んだり曲を聴いて「何言ってんだ笑」てなるならそれはそれでいいんだけど。)とにかく光を見つけることが出来た、信仰にも近い確信を得ることが出来た、それが二十年弱生きてきたとりあえずの成果であると、今は思っている。


この文章は備忘録とか近況報告みたいなものなので曲はあんま深く考えずになんとな~くで聴いてください。(ただ多かれ少なかれ共感できる部分もあるんじゃないかなと思います。「そうだよね~」って思ってもらえたら嬉しいです。高評価とチャンネル登録お願いします)エレキベースやシンセサイザーを使わない、完全にアンプラグドな構成で作ってみました。まあ初音ミクに歌わせといて何言ってんだよって話ですけど。

あと極夜行めっちゃおもろかったので読んでください