丸山くがね『オーバーロード』紹介記事

『オーバーロード』はおもしろい。
 戦闘の描写が最高。
 オバロは、親もリアルの友人も恋人もいないサラリーマン鈴木悟が廃人のように時間と労力と金銭を投入してきたMMORPGのサービス終了時刻に立ち会っていると、アバターである骸骨姿の魔法詠唱者(マジックキャスター)「モモンガ」のまま見知らぬ異世界に飛ばされる、という導入だ。

 ゲーム世界とも違う未知なるファンタジー世界の風景を見てモモンガ=鈴木悟は「ここどこ?」と思うが、知っているプレイヤーは見当たらない。仲間はいないか。ぞろぞろいる。ただし人間ではない。

 主人公が最後のプレイヤーとして支えてきたギルドで配下として従えていた、課金しまくって創られたNPCたちもいっしょに飛ばされていた。配下には人間や亜人とは違う一癖も二癖もある異形種しかいない。

 しかもなぜかNPCたちは意志を持って会話し、行動するようになっていた。クセ者だらけで殺気立った配下がうようよいるが、NPCの創造主あるいは創造主の盟友(ゲームプレイ時にモモンガが長をつとめていたギルドは最盛期には41人いた)であるモモンガに対してだけは、NPCたちは絶対の忠誠を誓ってくれる。

 だがリアルワールドでは営業あがりの会社員、一般人並みの判断能力しかない鈴木悟は、NPCたちから全知全能の創造主にしてギルド長として崇め奉られても「ボロが出ないように」と内心焦りながら振る舞うしかない。

 いつかかつてのギルドメンバーと再会するかもしれないし、自分の判断ミスによってこいつらを失望させたり死なせてしまってはかつての仲間に申し訳が立たない。絶対にこいつらのことは守りながらこの地でも繁栄を築かねばならぬとモモンガは決意しながら異世界を探索していく。
 モモンガたちのギルド、アインズ・ウール・ゴウンは全盛期にはゲーム内で800弱あったギルドのうち9番目の勢力にまでのぼりつめ、異形種揃いのうえ他プレイヤーをPKしたり罠に陥れて収奪しまくったりして畏怖の対象にあった。

 そんなプレイヤーだったモモンガは、異世界の人間たちに対しても基本的には執着しない。殺してもほとんど何にも思わない。しかもモモンガはゲーム時代は最高LVでカンストしていたアンデッドだ。なぜかゲームの能力やアイテムは異世界でも引き続き使うことができるが、ゲームにはなかった異世界独自の魔法もある。どんな脅威が待ち構えているのかもわからない異世界で悪目立ちして強敵の標的になるのはまずすぎる。

 だから人間たちに対しても下手に出て情報収集につとめようとするのだが、配下のNPCたちはそうはいかない。みな人間のことを毛虫くらいの存在としか思ってないんで人間を見るとゴミ虫扱い。
 オバロのおもしろさには未知の異世界の秘密がすこしずつ判明しながらも脅威と不安が増していく展開があり、主人公が暴走しがちな部下を育成しつつマネジメントし、NPC同士の内紛をおさえこみつつ、部下に対しては無謬の絶対者として振る舞わなければならないリーダー(というより管理職?)の悲哀と喜び的な側面もある。たいがいの人間や亜人は瞬殺できる力をもつアインズ・ウール・ゴウンの面々は、すぐに調子に乗って予期せぬトラブルをもたらす困ったちゃんの集まりであり、その処理に主人公は頭を悩ませる。
 それにくわえてのバトル。「主人公たちをめっちゃ強くしたら戦闘がつまらなくなる」というよくある批判に対する反証はぜんぶオバロの中に描いてある。

 とくに絶対最強と思われたアインズ・ウール・ゴウン勢のポジションが変化してくる書籍版は3巻以降、最高にスリリングになってくる。アニメ版もすばらしい出来だったが個人的にはやはり原作というか書籍版を愛している。

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