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おやすみの前のおしゃべり【髪と優しさがハイトーンなお話】



今日は近所のコンビニにいる金髪のお姉さんのお話。


***


すべり台だけの小さな公園を突っ切って、二車線の道路沿いを歩いていくとコンビニがある。青地にミルク色の絵が描かれたお馴染みのお店で、最近金髪ロングのお姉さんが店員さんになった。

つやつやぴかぴかの髪は後ろの低い位置に束ねているけれど、やっぱりハイトーンは目立つもの。見るたびにちょっぴり羨ましいような、でもちょっぴり怖いような、そんな気持ちがしていた。


彼女を見かけるようになってしばらく経った頃、ひまわりみたいな月が浮かぶ夜にコンビニに行くといつものハイトーンのお姉さんが迎えてくれた。「いらっしゃいませ」と言っているんだろうけど「らっしゃーせー」と聞こえるのが彼女らしいなぁと思いつつ、小さなサラダとグラタンをレジに通す。

対応してくれるのももちろん彼女。

「グラタンあっためますか~?」

「お願いしまーす」

「袋いります~?」

「大丈夫です」

何事もなく会計を終え、少し待っているとレンジで温められたグラタンを「熱いから気を付けてくださいねー」と持ってきてくれた。丸い容器からはふしゅーと水蒸気が出ていて、なるほど、確かに熱そうだ。

「あ、」

そこでようやく気が付いた。わたし今日買い物袋持ってないじゃん。

それを察したお姉さん、「大丈夫? 熱いっすよ」と念を押してくれる。

「だ、大丈夫です、いけます」とグラタンを受け取るが、やばい、これは熱すぎる。でも今さら三円の袋だけを買うのも申し訳ないし…。

「あ、いいのありますよ」

てれれれってれーと効果音がつきそうなちょっと得意げな面持ちで、お姉さんはレジ下の棚からうすーい袋を一枚取り出した。スーパーとかではよく見かける、バラの野菜とか果物とか入れるあれ。コンビニにもあるんだね。

それにグラタンを入れて口をきゅっと絞り、「どうぞ!」と渡してくれる。

そのやさしさにじーんとしながら「助かりました!」とにこにこしてコンビニを出る。最初ちょっと怖いな~なんて思ってごめんね。


駐車場を通り抜け、歩きなれた住宅街を通って帰路につく。

相変わらず月が綺麗で、小さな星も踊ってる。

今日はいい気分だ。





だからね、ちょっと言えなかったよ。

サラダにもグラタンにも、スプーンもフォークもついてないですよ、なんて。




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