あの木陰にはユウレイが住んでる #月刊撚り糸
あの大きな木の名前、なんて言ったっけ。
ずり落ちる花束を左腕だけで抱え直すと、鼻先に百合が香った。新緑を押しのけた強い芳香は、瑞々しい花びらに反してひどく甘ったるかった。
掻き消えた白線が伸びる一本道は地平線とつながっている。家を囲むのブロック塀にはむした苔の緑や枯れた蔦が目立ち、その足元で剥き出しの側溝から荒々しい水の音がする。まるで人の暮らしが自然の中に取り込まれたみたいだと思う。
その青々しい景色の真ん中に、一際大きな樫の木が見える。2階建ての家にかぶさるような高