失くなった祖父の話

いわゆる祖父母という人が、私には一人だけだった。生まれたときには母方の祖父しかいなかったから、
お年玉もおこづかいも祖父がくれた。祖父は賢い人だった。
祖父は幼い私の唯一の家族だった。

そんな祖父が亡くなる半年ほど前から、毎週お見舞いに行く度に私に1万渡してくれる様になった。
最初は嬉しかったが、祖父の認知症も進んでしまったものだと思っていた。

祖父は必ずこのお金を使いきるように言った。
でも、当時私は中学生。服にもバッグにも美容品にも興味が無かったから、本を飽きるまで買った。
月4万も本に使ったのだ。日頃読まないジャンルの本、建築、フランス語、エッセイ、日本の歴史、聖書、詩集、哲学、
いろんな本を買って暇を潰すために読んだ。

まもなくして祖父は亡くなった。
唯一の家族。そして常に知恵を授けてくれて、認めてくれた祖父が亡くなった事で、
私は深く落ち込んだ。
5年以上、立ち直ることが出来ず、
事実、私は今でも気づくと涙が出ていることがある。
念願の医学部に合格しても、
その姿を祖父に見せる事は出来ない。
社会で心ない言葉を投げられた時も、もう守ってくれる祖父はいない。
そんな時、私は本に逃げていた。
過去に生きる誰かが、自分に似た感情を既に味わっておりそこから学びを得ていた。そのエッセンスを、私は本から教えてもらった。悲しみは少しだけ紛れた。
まだ向こうに行くのはやめておこう。
何度もそう思った。

昨日の夜、例の如く涙が止まらず、なにか本を読もうと本棚に手を伸ばした私は、足掛け6年。

ようやく気が付いたのである。

全て祖父のお金で買った本達であった。
彼は私の一生を守り抜いたのである。いたずら好きな祖父は、自身を様々な形で残していたのだ。
私が悲しまないように。
私がようやく気づいた事に
きっと天国で笑っているに違いない。

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