ふじこさん 大島真寿美
離婚調停中に両親から取り合いされている娘リサは複雑な心境で過ごしていました。そんなか鍵を預かっている父のマンションへ行ったリサは、父の恋人のふじこさんと出会います。最初は、警戒していたリサもふじこさんと過ごすうちに気持ちが変化していきます。
他に、夕暮れカメラ、春の手品師を収録。
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ふじこさん
微妙な女性同士のつながりを書くのは上手だなと思いました。母とリサの関係、リサとふじこさんの関係どちらも新鮮な感じがしました。
母と父の関係破綻から、母の実家に住むことになったリサは毎日息苦しく感じていました。そのまますんなり離婚かと思いきや父は何故かリサの親権を欲しがり裁判所の離婚調停が始まります。リサに圧力をかけたり、ご機嫌を取ったりする母とその祖父母対父の対決のはざまにおかれたリサの気持ちがよく表れています。それにたいして、清涼剤のように登場したふじこさん、いや、本当は父が不倫しているのだからふじこさんの存在を言えば母側完全勝利なのですが、ふじこさんを気に入ったリサはそのことを内緒にして父の家を何度も訪れます。普通、父もう少し何とかするだろう…という当たり前のツッコミをしてしまいましたが…。
しかし、その状況もふじこさんが突然家具作りを学ぶためにイタリアに行く!という発言と母にバレてしまうことから終わりを迎えます。
最後に、ふじこさんから約束のイスが届く終わり方が好きです。
夕暮れカメラ
カメラ屋で出来上がった写真を確認して落胆しているおばあさんを見かけた小椋由海はそれから時々そのおばあさんを見かけることになる。ある時、そのおばあさんから写真をおばあさん自身の写真を撮ることを頼まれるがどんなに頑張ってもなかなか気に入っている写真が出来上がらない。聞けばおばあさんは自分の遺影の写真を撮りたがっているということが分かったがどんな写真がいいのかはさっぱりわからない…。そんな中、実はおばあさんんは同級生の藤岡くんの祖母ということが発覚し、藤岡家におよばれすることになるが…。
おばあさんがどんな写真を欲しがっていたのかは最後まで出てこないけど、じぶんだったら一番幸せな顔がいいかな…と思いました。実は、若い頃すごく気に入っている写真があったけど何かの事情でなくなってしまい同じものを求めているのかなと感じました。(おばあさんの写真判定が瞬殺なのでイメージはあるのかな…と)話の中で、おばあさんは痴呆が進んでいてというくだりが出てきますがどちらかというと生活を円滑にするためにそのフリをしているように見えました。藤岡くんの気持ちをサラッと暴露しているあたりは特に…(笑)
春の手品師
文学界新人賞、受賞作品。
不登校気味で、単位も危うい高校1年生の私が、偶然見かけた手品師についていくお話。母が亡くなって、父が再婚して…と少々複雑な家庭環境を話しながら手品師についていく…。
手品師がなんともつかみがたい不思議な存在として書かれています。というか、もしかすると私の作り出した幻想…かしら…。なんとなく自分にしっくりこない生活をする私が人生リセットするつもりで作り出した幻だったとすると今までの負の気持ちをうまくリセットできたのかも…と思います。