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スタートアップビジネスにおける法的課題について——ルールメイキングという視点の重要性

ルールメイキングの実際

「ルールメイキング」というと国会での討論のような自社のビジネスを超えた壮大な話のように思えますが、そうではありません。様々な話が混ざっていて理解が難しくなってしまっていますが、ここで言っている「ルールメイキング」とは、簡単に言えば、規制対応、つまり自由なビジネスを行うために必須である自己防衛的な企業活動のこと、そのための規制庁との対話を通じた調整活動のことを意味します。重要なことは、ルール自体ではなく、ルールから自社のビジネスを守ること、さらにはルールをつくって活用していくことです。近年では「リーガルデザイン」や「政策デザイン」として積極的にルールを「共創」して社会にとってポジティヴな価値を追求することが掲げられることもありますが、これからお話しするのは、場合によってはそうした華やかな世界観ではなく、新しいビジネスが生きるか死ぬかに関わるような極めて現実的な話です。

スタートアップビジネスの意識されにくい課題

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スタートアップビジネスにおいては、抽象的に言えば、資金が燃え尽きる前に特定の問題に対する解決策を市場で売れる状態にすること、つまり、Product-Market Fit (PMF) の達成が最大の難関です。この点が、解決策につき既に売れる状態であることを前提とするスモールビジネスとは大きく異なるところです。

CB Information Services, Inc の調査結果 (2018-2021) によれば、上掲のとおり、スタートアップビジネスが失敗する理由の上位にランクインするのは「市場のニーズがなかった」(35%) ですが、これは言い換えれば PMF を達成できなかったということを意味します。もっと平たく言えば、問題に対する解決策を考案した (Problem-Solution Fit を達成した) が、それをお金を出して買ってもらえる状態にできなかったということです。

とはいえ、「市場のニーズがなかった」というのは結果であり、厳密に言えば失敗の原因ではありません。当該調査でトップの理由になった「資金不足/資金調達の失敗」(38%) というのも、原因というよりも結果でしょう。これらの理由については、日本国内でも相当意識されている点であると思われます。しかし、今回注目してほしい点は、上位にランクインしている「規制/法的困難」(18%) です。18% という数字はリスクとして決して無視できません。5社に1社程度は純粋にリーガル面で廃業するということです。

規制対応とルールメイキング

「規制/法的困難」とは、どういうことでしょうか? リーガルの話と言えば、投資契約書や業務委託契約書、秘密保持契約書など、そうした契約に伴うリスクのことを思い浮かべるかもしれません。もちろん、そうしたリーガルリスクには十分に注意しなければなりませんが、ルールや慣行はある程度固まっています。問題は新規事業自体の適法性で、特に業法規制などとの関係が重要になってきます。スタートアップビジネスにおいては法務をはじめとするバックオフィス業務が後手に回りがちではあり、法律事務所にアウトソースするということもやるわけですが、新規事業の適法性に関しては経営者自身がある程度知っておかなければなりません。というのも、新規事業の内容面に深くかかわってくるからです。対応を間違えれば、新規事業を行えないだけではなく、刑事罰もありえます。だからこそ、新規事業が規制されるかどうかが重要なのです。たとえば、前記の調査結果では、次のような失敗ケースが紹介されています。

苦いお知らせがあります。昨年末にいくつかの大手航空会社が発表したポリシーの変更(バッテリーを取り外せないスマートラゲージの禁止)により、当社は、財務的にもビジネス的にも取り返しのつかない状況に陥りました。当社は、軌道修正をして事業展開するためにあらゆる可能性を模索してきましたが、最終的には事業を縮小し、廃業の選択肢を検討せざるを得なくなり、独立した企業として事業を継続できなくなりました。

それでは、こうした規制リスクを乗り越えていくためにはどのようにしたらよいでしょうか? それがルールメイキングの手法です。

「ルールメイキング」というと、典型的には、国会による立法を思い浮かべると思います。そういう文脈ではなく、自社のビジネス環境を整えることだと思ってください。規制をかける側とコミュニケーションをとり、認識を合わせ、安定してビジネスを進めていくための調整を行うことです。理論的には自社に有利なルールづくりの誘導になってしまうと民主主義の視点で問題がありますが、そういう話ではなく、自由主義の視点から自由にビジネスを行うために必要な防衛的な対応をとるべきだという話です。規制庁との「共創」の関係は、こうした意味で理解されるべきでしょう。

スタートアップにおけるルールメイキングのオープンゼミの開催につきまして

上述のようなスタートアップの実態を踏まえて、これから新規事業に取り組んでいこうとする方々(いま新規事業に取り組んでいる方々も!)に向けてオープンゼミ的なルールメイキングのイベントを開催致します。小規模なイベントではありますが、お時間のある方は、ぜひ以下の Peatix ページからお申し込みください。


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