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法とデザインの可能性 -法の見える化- Part1

昨年2020年11月24日(火)に、「法とデザインの可能性 -法の見える化-」というオンラインイベントを開催しました。当初は誰も集まらないかもしれないと思っていたのですが、申込人数が100名を超え、想像以上に多くのお申込みをいただけました。ご参加くださいました皆様、ありがとうございました。この記事は、そのイベントレポートの第一弾になります。

はじめに

今回は、昨年から取り組んでいる「みんなのための法律とデザインの研究」の一環として「法の見える化」をテーマにイベントを開催しました。この分野において先駆的な可視化法学の芝尾幸一郎様をお招きして、弁護士の平塚翔太氏、デザイナーである稲葉貴志氏、武蔵野美術大学教授の山崎和彦氏の4名がそれぞれ発表を行い、後半は会場の人も含めディスカッションを行い、「法とデザイン」について議論を深めました。

今回はPart1として山崎和彦氏の発表内容を要点だけですがまとめます。

山崎和彦氏からは視覚化の歴史背景を含め「視覚化とは何か」を話していただきました。ラスコーの壁画ジョン・スノーの「コレラ地図」ハリー・ベックのロンドン地下鉄路線図を例に視覚化とは身体インタフェース、認知インタフェース、感知インタフェースの3つの視点があり、可視化の代表的なアプローチとしてはダイアグラム、インフォグラフィックス、データ・ビジュアリゼーションがあるという話をしていただきました。

ダイアグラム

情報を見やすく、分かりやすくするために、図や表を活用して表現すること。

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インフォグラフィックス

見えにくい情報を可視化してわかりやすくい形にする。
インフォグラフィックスの要素:Attractive, Clear, Simple, Flow, Wordless

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例)Nigel Holmesの「How to greet someone in various countries」
様々な国の挨拶の仕方をインフォグラフィックスを利用し可視化している。

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写真:Nigel HolmesWordless Diagrams」より引用

データ・ビジュアリゼーション

データを論理的に可視化してわかりやすくい表現にする。

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例1)杉浦康平さんの「時間軸変形地図」
「時間」を軸に、「経過する時間」を「距離」に置き換えて地図として表現したいます。写真は東京を中心にして、到着するのに必要な「時間」を「距離」に置き換えて地図です。
「時間軸変形地図」自体についての説明は以下の記事でがわかりやすいと思います。「December 2015:都市をよむ

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写真:時間のヒダ、空間のシワ…「時間地図」の試み―杉浦康平ダイアグラム・コレクションより引用


例2)さわってわかる家計と物価
家計と物価の変化を時間軸で比較している図です。

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写真:さわってわかる家計と物価のキャプチャを引用


リチャード・ソール・ワーマン(Richard Saul Wurman)

続いて、リチャード・ソール・ワーマン(Richard Saul Wurman)の「Understanding USA」の取り組みを紹介いただきました。リチャード・ソール・ワーマンは元々建築家で、情報の建築家と呼ばれています。(情報アーキテクチャの先駆者であり提唱者です。)
Standing USAとはアメリカの経済や教育、犯罪など様々なことを見える化することで、アメリカとはどのような国か、どのような状況かを表そうという活動です。

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写真:Richard Saul Wurman Understanding USA Paperback – December 1, 1999より引用

この様に、情報とはダイアグラム、インフォグラフィックス、データビジュアライゼーションを使いながら可視化を考えていくことができると説明をしていただきました。今回の話では触れませんでしたが、可視化を考える際は情報構造も考慮しないといけないと注意しています。

ここからはイベントの臨場感を味わってもらうために書き起こした内容になります。

法律とデザイン

山崎:法律という見えないものを見える化することで、そこにある課題や、やるべきことが見えてくるよね、ということが今日の主眼ではないかと思います。その中で、後半、稲葉さんが話してくれると思いますが、ローレンス・レッシグ(Lawrence Lessig)が制約条件として、市場、法、規範、アーキテクチャがあると説明しています。制約として法律があるわけですけどでも、実はこれだけではなく規範やアーキテクチャも関わってゆくーーー。

個人的には、これはすごく重要なことだと思っており、今日は法律のイベントを行っているのですが、ほかにも文化のデザインや、明日は政策のデザインのイベントを行います。それらを含めて、社会を変えていくためは法律も考えないといけない、それから規範やアーキテクチャも考えていかないといけない、また市場も変えていかないといけない、という総合的に見ていかないといけないということがあります。

その一つの例を説明します。先週イベントを行ったのですが、エツィオ・マンズィーニ(Ezio Manzini)というイタリア人のデザインの専門家が、「Design, When Everybody Designs」という、日本語では「日々の政治」というタイトルで本を出版しています。その中で、デザインのこれからのあり方について言及しているわけですが、「デザイナー」と「デザインの専門家」を分けており、「デザイナー」というのは、これからは誰もがデザイナーになってくる。「デザインの専門家」は、そのようなソーシャルイノベーションを推進する人だよね、という言い方をしています。

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では、それってどんな人なの?という話になり、ソーシャルイノベーションを進めているデザインの専門家の例としては彼が何人か挙げている中に、イタリアでスローフードを広めているカルロ・ペトリーニ(Chiara Petrini)と、精神医学の世界でイタリアの精神病院をなくしたと言われるフランコ・バザーリア(Franco Basaglia)という人たちがいて、これからのデザインの専門家として挙げています。しかし、彼らは別に「デザイン」という言葉は使っておらず、この本の中でマンズィーニが、これからのデザイン専門家・ソーシャルイノベーションを行っていく人たちはこのような人たちだよね、と言っているんですね。

たとえば、フランコ・バザーリア(Franco Basaglia)は、イタリア国内の全ての精神病院をなくしたと言われており、「病気が原因で病んでいるのではなく、施設が施設が原因で病んでいることがわかっている」という言い方をしています。バザーリアの活動を調べてみると、1978年に180号法(バザーリア法)という、イタリア国内で新規の精神病の建築と新規の入院を禁止するような法律を彼の考えのもと制定され、作った後20年かかりイタリアから精神病院を廃絶したわけですが、法律を作る活動もデザインの専門家が行っています。
 でも実は、法律作ってもすぐには全然うまくいきません。精神病院を「地域の福祉」に変えていくことで「コスト削減になるよね」という意図もありました。精神病院の経営管理を国ではなく、地域の福祉で対応していったほうがコストを削減できる、ということでバザーリアの後継者たちが、これまで精神病院という制度をなくす、建物をなくすというだけではなくて、考え方をですね、文化をなくす――これを「脱制度化」と言っているわけですけども――そのような活動を進めていったということがあります。
 これは最近、学生にも紹介しているんですけども「人生、ここにあり!」という Amazon プライムで映画が観られるので、これを観てもらうと、バザーリア法の制定後、どのように混乱しながらも精神病院がなくなっていったのかということを映画ですが観ることができます。

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僕らが目指すソーシャルイノベーションの促進ということをやるときに、バザーリアみたいなデザインの専門家やリーダーが必要だよね、ということと、やっぱり法律というところまで絡んできたということで法の視点も必要であり、ただ法律を作るだけでは世の中変わらなくてやっぱり市場ですね、ここではコストという文脈で見ないといけないし、あとは文化ですね、規範やアーキテクチャといったところも変えて、初めてソーシャルイノベーションができていくというふうに見ることができるんじゃないかなと思います。

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以上が山崎和彦氏に発表していただいた内容になります。

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