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【ワートリ創作小説】星を待つ場所

※アニメ3期op・edの解釈を含みます。
※以前、別媒体で公開していたワートリ二次創作小説です。

 夜がしずかだと知ったのは、こっちに来てからだ。

 玉狛の屋上で夜空をながめると、だんだんと目が慣れてきて、星をひとつひとつ見分けられるようになる。温かい飲み物をすすりながら、ろうそくが1本1本、空にともってくみたいだなと思う。
 見えはするけれど、おれはどれがどの星でどんな星座なのかは、よくわからない。でも、星がきれいだってことはわかる。この中のどこかにおれのふるさとがあるのかもしれないけど、ここから見る星はみんなきれいだ。

 オサムたちのチームに入ってから、眠らなくていい夜を屋上で過ごすようになった。ここもよそと比べたら平和とはいいがたいけど、おれにとっては、こうやって夜を過ごせるだけで十分平和だ。
 あっちにいる時は、砂ぼこりばかりでろくに見えないか、空を見上げるヒマがないか、空を見ているだけで星は見ていないか、そればかりだった。おれの髪の毛が黒から白になって、それからずっと星をかぞえることはなかった。そんなことを、ここに来てからはじめて気づいた。

 夜のにおいが、すうーっとすきとおっていると気づいた。星の色がすこしずつちがうことに気づいた。強くなろうとすることがこんなにも楽しいということを、忘れていたと気づいた。
 親父やレプリカからいろんなことをおそわったけど、世界にはまだ知らないことがたくさんある。いつか支部長が言ってたことばを思い出す。
『遊べよ遊真 楽しいことはまだまだたくさんある』

 星がちかっと光った。
 目をすこし細めて、視界に入ったおれの前髪をつまむ。夜の色を透かして、きれいな藍色になっていた。指をはなすと、ずっとつけている黒い指輪が目に入る。
 今も死にむかっている、おれの本当の体。

 こっちの世界では、死んだ人は星になると考えられているらしい。
 そんなわけはない、とわかっている。でも、だんだんと空を流れていって、水平線に消えていくのをじっとながめていると、すこしは死を連想するのがわかるような気もする。

 ここに来る前、親父は黒トリガーになった。
 そして、おれが生きている。

 人に助けられた存在であるおれが死んだらどうなるのか、それはわからない。ボーダーの武器で人を切って、切られても、それはわからない。たとえレプリカに聞いたってわからないだろう。

 レプリカは、オサムを助けた。
 そして、オサムが生きている。

 すこしずつ星の数がへっていく。空が明るくなっている。ボーダーの本部が、うす暗い中でもはっきりと見える。たぶん、今もだれかが防衛任務をしている。おれたちの敵でもあり、味方でもある人たち。

 オサムは面倒見の鬼。
 チカは、一本芯の通ったいいやつ。
 ヒュースは、まじめなやつ。
 こっちに来ないでずっと旅をしていたら、出会えなかったような人たちだ。

 パーカーのフードをなおした。こうして見ると、夜空の色もすこしずつちがっていることに気づく。うすいところも、濃いところもあって、じっと見ているとすいこまれそうだ。気がつくと飲み物がさめている。おれの手にはすこし大きいマグカップ。

 空の星はだんだんと朝日にのみこまれていく。空は、天から地平線に向かって、落ちている。

 死んだ人たちは、星のすがたになって、空を落ちているのかもしれない。
 そして、朝になったら消えていく。

 ふと、そんなことを思った。すこしだけそうかもしれないと思った。

 おれのからだは、半分夜にいる。
 夜にいて、星の中を落ちている。

「おーい」
 声がしてふり向いた。見ると、オサムたち玉狛のメンバーが集まっている。みんなの輪郭が金色にひかって、風がそれをゆらしていた。

 おれのからだは、半分夜にいる。
 夜にいて、星の中を落ちている。

 でも、落ちていくおれの名前を呼んで、手を振ってくれる人たちがいる。落ちてくる星を待ってくれている場所がある。
 だから、本当の体が死ぬその日まで、おれは星みたいに消えることはない。

「遊真」
支部長。

「遊真くん」
しおりちゃん。

「遊真」
とりまる先輩。

「遊真ー」
こなみ先輩。

「遊真」
レイジさん。

「ゆうま」
ようたろう。

「遊真」
迅さん。

「ユーマ」
ヒュース。

「遊真くん」
チカ。

「空閑」
オサム。

 水平線が黄金色にかがやいて、細い糸みたいな太陽のひかりが空をてらしていた。水でにじませたみたいに、その色がいっぱいに広がっていく。温かくなりはじめた空気の中で、ほこりがきらきらひかっていた。屋上の影が、すこしずつ濃くなっていく。おれの影も、濃くなっていく。

「おう」
 おれはみんなの声にこたえて、みんなのもとへと走っていった。





参考


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