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浮世黒蝶みをつくし(長編小説)

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和風ファンタジーの連載小説です。 人の悪夢が「黒き蝶」の姿を取る世界。 その蝶を喰らう「浮橋様」という存在。 そして、「浮橋様」に仕える者たち。
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記事一覧

二十二 白き鳥、月夜を飛びける事

前話  見る人に 物のあはれを しらすれば 月やこの世の 鏡なるらむ 「匂い袋だけではなくて…

市枝蒔次
4日前
1

二十一 藍に染む折に逢はんとぞ思ふ

前話  気がつくと、板張りの床の上に立っている。  油断していると飲み込まれてしまいそう…

市枝蒔次
6日前
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閑話 設定収集・ニ

前話 【主要な人物の紹介(二十まで)】 ・氷雨 主人公。階級は「新月」。「浮橋様」に再び会い、…

市枝蒔次
6日前

二十 蝶を抱へて生くる者たち

前話 「随分と派手に散らかしたね、引鶴くん……」 「……五月蠅いな」 「引鶴、散らばった…

市枝蒔次
8日前

十九 初秋は薬草の香ぞする

前 「植生倉」の草木が色づき始めた頃、連翹は匂い袋を氷雨に手渡した。  きっかけは、「わ…

市枝蒔次
8日前

十八 竹を編みて月下の務めを知る

 前話  今日の「宿主」は、細く、折れてしまいそうなほど背の高い青年だった。  暗がりで…

市枝蒔次
8日前

十七 月下蛍を黄泉へ送りて

前話 「見て。あれが『月下蛍』。『浮橋屋敷』の灯りにのみ登用される、特別な蛍」 「おお……」  三人は目を凝らした。地上に星が住むならば、きっとああであろうと思わせるほど、その光は美しく、小さい光ながらも目を奪う魅力に満ちていた。 「普通の蛍は夏の終わりにはもういないんだけど、『月下蛍』は特別。伝え聞いた話によると、『月下蛍』は我々『月下』より古くから、『浮橋様』に仕えていたらしいの」 「『月下蛍』がおれたち『月下』の名の由来になったんですか?」 「そういう説もあ

十六 逝く夏に青白き光を見たり

前話 「氷雨、頬に墨がついてる」  深山がそう言って、氷雨の頬を指差した。頭上で静かには…

市枝蒔次
11日前
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十四 刹那、淋しき黒蝶を見たり

前話  花は根に 鳥は古巣に かへるなり 春のとまりを 知る人ぞなき   桜咲く。  夜闇を…

市枝蒔次
13日前

十三 三人車座で語るは面映ゆし

前話  畳の上に三人。連翹は、畳の破片を手でこねくり回しながら、ちらりと引鶴を見やった。…

市枝蒔次
2週間前
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十二 月の友を訪ねよ

前話  狩衣 袖の涙に やどる夜は 月も旅寝の 心ちこそすれ 「『橙の試し』は口頭試問。でも…

市枝蒔次
2週間前
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十一 逢瀬は遥か藍の色なれど

前話  瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ  ぶわ、と膨れ上がる…

市枝蒔次
2週間前
1

閑話 設定収集

前話 【蝶捕りの仕組み】 ・手招き草で染めた布と、まじない粉を混ぜた薬茶によって、「宿主…

市枝蒔次
2週間前

十 香が導きし行く末

前話  連翹と名乗った少年は、首を傾けて氷雨を見た。 「君の名前は?」 「ええと、おれは氷雨。話は『染め布役』の皆さんから聞いたよ。勉強熱心だと」  連翹は反対に首を傾け、それから手に持っていた草を見た。 「そう?これの正体が、ただ気になっただけさ」 「それを勉強熱心と言うんだって」  ちょうど「手招き草」の実入りの煮物を食べ終えた氷雨は、茶をすすりながら呟く。その隣で、此花がぴっと指を伸ばした。 「連翹はね、香にすごく興味があるんだよ。いっつも、暇があればい