ブレストホルダー

2012年、私はモンゴルのチンギスハーン国際空港に降り立った。
空港に着くまでに無駄に青島で、円卓を囲んだり、
夜の北京を彷徨い、ヨーグルトを食べ、
服を着たままユースホステルで寝たりしたのだが、それはまた別の話。

友人の「モンゴルに行かない?」という質問に「うん」と答えたため、
モンゴルにやってきた。
自分なら絶対に思いつかない選択肢だしという理由で。

5月、モンゴルはまだまだ寒く。
行きたかったゴビ砂漠も砂嵐でなかなか行きにくいらしい。
ただ、首都ウランバートルにいるだけではつまらないので、
ウランバートルから2泊3日の小旅行を日本から申し込んでいた。

モンゴルの旅行会社の担当者は、ダカさんという名前。
旅のプランや予算まで何回かやり取りをした。
旅行まであと数日という直前にダカさんからきたメールに
ブレストホルダーという文字が踊っていた。

ブレストホルダー?

聞いたことがないその名前。
文脈から、どうやら下着であることがわかる。
妹さんが日本を訪れた時に日本の下着を購入し、
気に入ったようで、自分にも買ってきて欲しいというのだ。

メールに記載があるのが、好みの色とダカさんの身長と体重と
20USD程度という予算くらい。
サイズも全く書かれていなく、他人に下着をプレゼントしたこともなく、
また旅までに時間がなかったため、下着は購入せずにモンゴルに。

あれから10年。ダカさんを友人がインスタで発見し、教えてくれた。
どうやらアメリカでビジネスを始めたらしい。

モンゴル旅行の思い出は他にもいろいろあるのに、
どうしてもこのブレストホルダーの件を思い出してしまう。

ダカさんは、アメリカで好みを見つけられただろうかと
余計なことを考えてしまう。

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