引きずられてもいい

このタイトルを見て、なんだか激しい愛憎劇のあるドラマのことかと
想像した人もいるだろう。
だが、そうではない。

美しすぎてぞくぞくしてしまうもの。
薬師寺日光月光菩薩像の曲線美、如意輪観音像観音像の余裕の表情、
千手観音の一本一本の手。
息を飲むほどの美しさに次の瞬間にはため息をついてしまう。
こういったものは、芸術品に限らず日常にも存在する。

それは、ラブラドールレトリバー（黒、短毛限定）の背中である。
美しき黒光りする背中は、日本伝統の漆器を思わせる。
あまりの美しさに後ろから思わず抱き締めてしまいたくなる。
それが、見ず知らずの人の犬であろうとも。
そして、抱き締めた後、そのまま引きずられてもいいとすら思ってしまう。

街中を歩いていて、ラブラドールレトリバーを見つけたとき、
ふと後ろからぎゅっと抱き締めたいという衝動に駆られる時がある。
非常に危険である。

一体どこによその犬を後ろから抱き締め、引きずられている人がいるだろうか。
ふと現実に引き戻され、「引きずられてもいい」という思いは、
そっと心にしまう。