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カナダ・カルガリー ファンを止めたくて・・・

職場の海外研修制度を利用して、カナダのカルガリーという街に3カ月滞在した。カルガリーの冬は寒く、マイナス30度まで下がる。
寒さが苦手という理由から、学生時代、留学希望先のアメリカの全州の平均気温を綿密に分析し、カリフォルニアに留学した私としては、自ら絶対に選択して行かない(特に冬には)場所である。
滞在期間が9月の終わりから12月半ばまでのため、寒くなることは必至である。

当初ホームステイというオプションが提示されたが、
ホームステイ先はどれも勤務先の大学から離れているため、
自分で部屋を探すことになった。
そう、これも寒い屋外にいることを避けるべく、
できるだけ大学から近くの場所を探していたためである。
日本にいながらメールアドレスの記載がある物件にコンタクトしていく。
現地に着く2~3週間前にようやく物件が決まった。
大学から徒歩5分の場所で5人で一つの家をシェアしているらしい。
それ以外の情報はわからない。
それ以外に選択肢がないため、その物件に決め、カナダへ向かう。

空港からはタクシーでアパートへ向かう。家に到着するが誰もいない。
しかしなぜか家の鍵がかかっていない。
荷物を持って家の中に入ってしばらく待っていると、
オーナーのおじちゃんがやってきた。中国系のカナダ人らしい。
9月とは言え外は寒いのにTシャツで、
それ以上に印象に残ったのが出ているのだ、鼻毛が異常に。
いうなれば、天才バカボンのようなことになっている。
鼻毛に圧倒されつつも部屋に案内される。
といっていもその部屋は倉庫に無理やり家具を置いたような部屋であった。
他の部屋は「部屋」らしいのだが、私の部屋だけ住み込みのお手伝いさんが
住むような虐げられ感が漂っていた。
どこからか意地悪な継母が出てきそうな感じがする。
家具の一つ一つが何の統一感もなくそろえられたのだろうか
チグハグな感じが漂っている。
クローゼットにユースホステル並の固さのベッド、パソコンデスクは、
二段式になっていてキーボドやマウスを置くテーブルが引き出しのように
可動式なのだが、このテーブルとイスの肘掛の高さが合わず、
椅子も前に引こうとすると、テーブルに肘掛があたり、
中途半端な位置で腰掛けることになるのである。
そんな部屋でひときわ目立った存在のものがある。ファンである。
天井で常に回り続けるファン。
電気を付けると、ファンが回り始め、電気を消すとファンが止まる。
つまり、部屋で私が起きている間は常にファンと一蓮托生、一緒な訳だ。
隠れた同居者といったところだ。
10月の初めには雪が降り始めるため、
セントラルヒーティングで部屋の中は暖かい。
しかし、ファンの風が吹くと、寒く、しばらく机に向かって作業をしていると
寒くなってしまうのだ。

ある日、オーナーが家にやってきたので、
ファンを止めてもらうようお願いしてみた。
ファンの近くに2本の紐が垂れ下がっていた。
オーナーはわかったわかったと言い、椅子の上に立ち、紐に手を伸ばす。
1つの紐を引くと、ファンの下にある電気が消えた。
そうか、一つは電気だったのか。
じゃあもう一つがという期待を抱いて、ファンを引っ張る。
ファンの動きが徐々に落ちていく。
よかった、こっち側の紐だったかと思いながら、天井を見上げるオーナーと私。
ファンの動きが止まりかけたその時、予期せぬ事態が起きた。
止まりかけたファンが反対周りで動き始めたのである。
段々と速度を上げるファン。先ほどとは逆回りに回り始めた。
しばらくの沈黙があった後にファンをどうやって止めるか調べておくと言うオーナー。その後の3ヶ月間私の生活が常にファンと一緒だったことは言うまでもない。私のカルガリーの思い出は、いつもファンと共にある。

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