見出し画像

「天使に媚薬」 第二話 #創作大賞2024 #漫画原作部門

マリー:「おはようございます、楓くん」
寝ぐせが沢山ある状態で部屋から出てきた楓は当然のように朝ごはんを並べているマリーに面食らった。
楓:(そうだ、うちにいるんだった。年頃の女の子と一緒に暮らす、それはつまり…… その…… 色々と弁えなければならないということだ。いろんな意味で)
浩人:「マリさんは昨日よく寝むれたかい? 」
マリー:「ええ、ぐっすりです。浩人さん、改めましてこの度はありがとうございます。お世話になります」
浩人:「いやいや、礼を言うのはこっちの方ですよ。大変なところを助けて頂いたんだ。こちらとしてもマリさんのお力になれて光栄ですよ」
由子:「お父さんったらマリさんに“浩人さん”って呼ばれて嬉しそうにしているのよ」
浩人:「母さん、それ以上は言うな。私にとって一番は母さんだよ」
由子:「まあ、お父さんたら♡」
マリー:「素敵なご夫婦ですね、楓くん」
楓:(息子の前でいい歳して…… てか、この娘もいい気なもんだな)
楓はマリーの顔をみた。綺麗な顔で見惚れる。楓の視線にマリーは気付き、笑顔で応えると楓は顔を赤くして視線を逸らした。
マリー:「? 」
楓:(くっそお…… )
浩人:「マリさん、うちに居る間、ゆっくりしていくといい」
マリー:「浩人さん、それなんですが暫く本を読みたいのですがなにか良い本はありませんか? 」
浩人:「本かい? どんな種類の本がご希望なんだい? 」
マリー:「種類の希望はございません。とにかく本で知識を取り入れたいのです」
浩人:「図書館に行くのも手だけど、手っ取り早いのは私の書斎にある本とか読んでみるかい? 図書館に行く移動時間を省くことができるよ」
マリー:「ありがとうございます! 」
楓:(やってらんねぇ…… )
楓:「いってきます」
朝ごはんを終え、楓はだるそうに部屋に戻り支度をして学校へと向かった。
マリー:「楓くんはどちらに向かったのですか? 」
由子:「学校よ。学び舎、ね」
マリー:「学校…… ですか」

学校にて。
友人A:「ちーす、島波」
楓:「ちーす、……ぉはよ」
友人A:「朝からなんか疲れてね? 」
楓:「…… っちーとなぁ…… 」
友人A:「なんだよ? 」
楓:「…… なんでもねーよ」
楓は教室の窓から遠くをみた。
マリーに言われた、あの言葉「貴方は、希望を振りかざすだけで終わる程度の人間なの? 」を反芻していた。

楓、帰宅する。
楓:「ただいまぁ」
由子:「おかえりなさい、楓」
由子は妙にご機嫌だった。
楓:「なんかあったの? 」
由子:「今日のお昼ご飯、マリさんが作ってくれてね。お世話になるからって、冷蔵庫の中にあるもので作ってくれたのよ。ジャガイモの冷製スープにキーマカレー作ってくれたんだけど、お肉を大豆のもので作ってくれてね。お母さん使い方分からなくって困ってたのよねぇ。お父さんも喜んで食べて行って身体も調子いいって言ってたのよ」
楓:「ふーん…… マリさんは? 」
由子:「書斎だと思うわよ。今日はそれ以外ずっと籠ってたわよ」
楓:「…… 」

書斎のドアをノックする楓。返答はない。
楓:「入るよ」
マリーは本のインプットを懸命に行っていた。
楓:「あの…… 」
マリーが楓に気付く。
マリー:「楓くん、おかえりなさい」
夕日をバックに笑顔でそう言われた楓の心に隙間風が吹いた。
楓の顔が赤めいていたのは、夕日のせいではなかった。

夕飯の席。
浩人:「母さんの料理も上手いし、マリさんも上手で我が家ではご飯が楽しみになったものだな! 」
由子:「お父さんたらご機嫌ね♡ 」
浩人:「そういえば母さんは庭に植物を植えたいと言っていなかったか? 今時期良い塩梅なんじゃないか? 」
由子:「ええ、色々本を読んで勉強しているんだけど植物選びやらなんやらで迷ってしまっているのよ」
浩人:「そうか、まあゆっくりと母さんのペースでやっていけばいいんじゃないか。そうだ、明日総合病院の講演会の聴講へ行ってくるから午後は休診になるからな」
由子:「ええ」
マリー:「総合病院の講演会の聴講に行くのですか? 」
浩人:「そうなんだよ、マリさんも行くかい? はっはっは、冗談だよ」
マリー:「行きたいですわ、浩人さん! 」
浩人:「え? 本気かい? 」
マリー:「是非お願いします! 」
楓:(な、なんかあるのか? )
楓:「父さん、俺も行きたいんだけど! 」
浩人:「か、楓もか? どういう風の吹き回しだ? まあいいが…… 楓も意識をきちんと持ったというわけか」
楓:(動機が不純だとは絶対に知られてはいけない)
楓はちらとマリーをみた。
視線に気づいたマリーはにっこりと笑い、楓は視線を逸らした。
マリー:「? 」

総合病院にて。
マリー:「大きな病院ですね、浩人さん」
浩人:「ここら辺じゃ一番の規模の病院だよ、講演会の会場はここの会議室のようだね」
楓:「…… 」
席に着いてパンフレットをパラパラとみるマリー。
マリー:「浩人さん、わたしお手洗いに行ってきますわ」
浩人:「ああ、今のうちに行っておいで。もう少しで始まるだろうからね」
マリーは出入口のドアをパタンと閉めて行ってしまった。
楓:「…… 父さん、俺もちょっとトイレ行ってくる」
浩人:「なんだお前もか。急いで行ってこい」
女子トイレの前で立ち止まる楓。
楓:(ここで待っていてもはっきり言ってドン引きされるだけだよな)
楓:(…… それにしても、遅い)
楓:(まさか、ここじゃないのか? )
楓は小走りに院内を手当たり次第探し回った。
ドアが少し開いている部屋があった。
楓:「ここは、実験室……? 」
ドアを少し開けて覗くとそこにはマリーが実験道具を用いてなにかを作っていた。
中の小部屋からのドアが開き、白衣を着た男性がやってきた。
白衣の男性:「な、なんだ君は? ここで一体なにをしている? ん? これはなんだ? 」
マリーの作った薬のようなものをその男性は手に持ち覗きこんだ。
白衣の男性:「こ、これは…… 世界的難病の特効薬に値するものではないか! わたしは45年間これを…… これを作るために実験の日々を過ごしてきたんだ! 君! 一体どうやってこれを作ったんだ⁉ 」
楓は慌てて部屋に入った。
楓:「すみません! なんか間違っちゃってここに迷い込んでしまいました! その薬に僕たちはなにも関係ないです! すみませんでした! 」
白衣の男性:「あっ‼ 待ってくれたまえ‼ 」
楓はマリーを連れて部屋を急いで出て行った。 
楓:「マリさん、なにやってるんですか⁉ 」
マリー:「なにって、昨日浩人さんの書斎で読んだ医学の情報から薬を作り出していたのですが…… どうやらやり過ぎてしまったようですね。すみません」
楓:「なんだってそんなことを…… 」
マリー:「善行を行いたいのです。質的にも、なにより量的にも」
楓は思い出していた。
楓:(そうだ、ミカエルに1万回善行を行うことを命ぜられていたんだ。この娘は紛れもなく、天使なんだ)
マリー:「薬を作ったら、その効果で飲むだけで量的に確実に善行を行えると思ったのですが…… 」
マリーはしゅん、としている。
楓:「ま、まだ違う方法はきっと幾らでもあるよ」
マリー:「…… はい! 」
マリーのとびきりの笑顔を楓はまだ、直視出来ていないでいる。
 
その日の深夜。
島波家の廊下を誰かのぺたぺたとした足音。
風がぶわぁと吹く。

次の日の朝。
由子:「お父さーん! 楓! マリさん! こっち来てー! 」
楓:「なんだよ、休日の朝から…… 」
浩人:「ほお、これは…… 」
マリー:「まあ! 」
庭に一面多種類のハーブが咲き誇っていた。
浩人:「母さん、なんだってこんなことに…… いや、良い香りだ」
由子:「毎日のご褒美を、誰かが贈ってくれたのかしら」
楓:(一晩でこんなことって…… )
由子:「でも、私ハーブの扱い方なんてよくわからないわ」
マリー:「でしたら由子さん、わたしにお任せください。ハーブのことなら多少知識がございます」
楓:(やっぱり…… )

マリーはその日ハーブに付きっ切りになる。
数日後。マリーはいくつかのドライハーブをこしらえた。
マリー:「症状別のハーブティーをつくりましたの。よかったらお試しください」
浩人も由子もハーブティーを気に入り、浩人の医院でも試飲を行うこととなる。
患者からも評判も上々。
楓:(……っくっそう)
楓は猛烈にマリーに嫉妬することとなる。
楓:(なんでそんなに器用になんでもこなすんだよ! )

ある日の午後。ハーブティーを嗜んでいる由子。
由子:「やっぱり素敵ね、マリさんのハーブティー」
マリー:「ハーブはお料理にも取り入れることが出来るのですよ、由子さん。今度よかったらトライしてみませんか? 」
由子:「まあ、いいわねぇ♡ 」
マリー:「今日は楓くん学校、早めに終わると言ってましたよね? 」
由子:「ええ、そうよ。…… ねえマリさん、楓のことなんだけど…… 」
マリー:「なにかございましたか? 」
由子:「あの子ね、いま色々と悩んでいると思うのよ。絵を本格的にしたいんだろうけどスランプ気味でね。お父さんともぶつかりあっちゃうし…… もしよかったら相談に乗ってあげてちょうだい」
マリー:「わたしでよければなんなりと。楓くんは絵を始めたきっかけはなにかあるのでしょうか? 」
由子:「小学生の頃に描いた絵がコンクールで受賞したのよ。あの時の楓は本当にうれしそうだったわ。楓のあの時の顔をもう一度、みてみたいわねぇ」

楓帰宅。
自宅の窓から浩人の仕事をしている姿が見える。
その後ろ姿に楓は羨望の眼差しを向けていた。
家の廊下でマリーがその楓の目線の先に気付いた。
マリー:(なるほど…… )

その日の夜。翼を羽ばたかせる風の音がする。
謎の人物:「ハーブ…… 魔法が拡がっている…… 」
楓の家の庭に降り立ったその人物は家を見上げた。
謎の人物:「ここにいるのか…… 」


第二話終わり
 
 

「天使に媚薬」 第一話 #創作大賞2024 #漫画原作部門|板倉 市佳 (note.com)

「天使に媚薬」 第三話 #創作大賞2024 #漫画原作部門 |板倉 市佳 (note.com)

#創作大賞2024 #漫画原作部門


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?