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「天使に媚薬」 第一話 #創作大賞2024#漫画原作部門

<あらすじ>
 いつものように薬を調合していた天使マリー。しかし出来上がったのは天使にとって禁忌とされる媚薬だった。
 媚薬を隠し持つことになったマリーは地上で巡回中に媚薬を紛失してしまう。
 一方高校生の島波楓は画家になりたいと思いながらスランプ中で父親とは喧嘩真っ最中だ。
 ひょんなことからマリーの媚薬を楓が拾い、そのまま持って行ってしまう。
 伝説の魔女の兆候と媚薬、マリーと楓。それぞれが成長するに従って過去との摩擦と自身との向き合いに奔走する。

<登場人物>
1)天使マリー(人間名:マリ):天使。しっかりしているがところどころに隙がある。ボケとツッコミでいったらボケ。ふわっとしている感じ。いかにも天使らしい女の子。イメージとしては男子が傷ついているときに優しくなぐさめはするがニコニコしながらも正論を言って男子がぐさっとなることがよくある。痛いところを確実につく女の子。

2)島波楓:ひねくれ者。否定されてもそれと戦おうとせずに陰でぐちぐち言うタイプ。言い訳好き。言い訳で自分を肯定するのが好き。ふんわり系のマリーにぐさっと刺されるようなことを言われて傷ついている。絵画のスキルはあるが今はスランプ気味。 頭脳は父親の影響もあり良いがそちらよりも絵画に夢中で勉強はおざなり気味。だからテストでもそこそこの点数しか取れない。きちんとすれば結構かっこいいが見た目はそんなに気にしない。よって女性が頻繁に寄ってくるというタイプではない。髪の毛はいつもぼさぼさタイプ。

3)天使マスター:普段はおっとり優しい。しかしマリーのことは自分の子供のように気にかけている。がっしり系。けれど顔は比較的穏やか。天使になったときから心にぽっかり穴が開いている違和感を感じつつ天使として任務を全うしてきた。マリーとの出会いで穴に安心が埋まりそれからマリーを子供のように可愛がっている。

4)大天使ミカエル:大天使。天界では権力がある。朗らかでいて迫力感のあるいろんな意味で大きな天使。天界の重鎮。マリーに人間界で使命を与える。ミカエルの真の目的はなんなのかを、マリーにとって危害はあるのかないのかの不安定さを読者に与え、推理を促す。

5)大天使ラファエル:温厚。大天使の三名の中では仲裁役みたいな感じ。医師のスキル有。

6)大天使ガブリエル:意見は穏やかにはっきり言う方。ミカエルに助言するも匂わせるようなことを言う。

7)島波由子:楓の母。心配性。楓のことも心配だが旦那(楓の父)のことも気にかけて精神的に負担が多い。ボケてスルーされてもそのままボケ通す強靭なメンタルの強さ。

8)島波浩人:楓の父。穏やかだが楓のことになると静かに怖い言動にでる。苦労して医師になった。生い立ち故に苦労知らずの息子に対して心配している。このまま大人になって大丈夫なのか、と。よって社会の不条理を教えるために息子にきつくあたる。

9)堕天使連盟:天使という肩書から堕ちた経緯がある。


<本編>

天の遥か先に一人の天使が調合室で魔法薬を作っていた。
マリー:「こ…… これは……⁉」
手のひらの中にあるひとつの瓶を持ってその天使は調合室を飛び出た。

天使の住む街のとある喫茶店。そのドアが激しく開けられた。
マリー:「マスター‼ 」
マスターと呼ばれるその男はグラスを磨いている。 
驚いた様子だが、それにはもう慣れている。

マスター:「なんだいマリー。またいつものように薬の配合量を間違えて調合室が爆発でもしたかい? はっはっは」
マリー:「こ、これ…… 」

マリーは手に持ったその瓶をマスターに見せた。
そこにはBIYAKUと書かれてあった。
マスター:「これは…… 媚薬じゃないか⁉ 何故君がこれを? 天使が持つことは禁忌の筈だ」
マリー:「違うの! いつものように抗眩暈薬を調合してただけなのに、出来上がったのがこの薬、媚薬なの! 」
マスター:「…… 」
マリー:「どうしよう…… こんなことバレたらこの天使の街から永久追放よ…… 」
マスターは困惑しているマリーの肩をがしっと掴んだ。
マスター:「いいかい、マリー? この媚薬を誰にもみせてはならんからな。噂なんてすぐに広まる。そうなったら君は永久追放どころか天使の資格でさえも剥奪され天界から除名される運命だ」
マリーは唾をゴクリ、と飲み込む。

マスター:「この薬は通称、なんと呼ばれているか知っているね? 」
マリーは静かに頷いた。
マスター:「そうだ。所謂惚れ薬…… 別名催淫薬だ。天使がこのようなものを所有しているとばれたらもってのほかだ。しかしこれをどこかに捨てでもしたら作り主の追跡をされて君はアウトだ。肌身離さず持っているんだ、いいね? もう一度言う。これを誰にも見せてはならないよ」
マリー:「…… 」
マリーは無言のままこくり、と頷き、そのまま喫茶店をあとにした。

マリーとすれ違いに入店してくるふたりの天使の客がいた。
天使客A:「ここのところ下界で自然が荒れているのは伝説の魔女が覚醒する兆候らしいぞ」
天使客B:「伝説の魔女って1000年も前に封印された我々天使とは相容れない別次元の生き物だ。話を訊いただけで恐ろしいな」
天使客A:「天の幹部が時間軸関係なしに集まって会議してるって噂だぞ」天使客B:「ますます信憑性が高いな」
マスター:「…… 」
マスターは汗を一摘垂らし難しい顔をしていた。

マリーは街から外れた道をとぼとぼと歩いていた。
溜息と共に。
マリー:「どうしよう…… 一体なんだってこんなことに…… 」
風が吹く。
いつもは心地良く感じられるのに今日は突き刺さるように感じてしまう。
空が遠い。
マリー:「巡回の時間…… 。とてもそんな気分じゃないわ……。けれど感情で動くことは天使失格。…… 行きましょう…… 」
マリーは大きな翼を拡げ、エンジェルリングを光らせ地上へと飛び立った。

翼を仰ぐ風が生まれるその道先に誰にも知られないように涙が含まれていた。


所変わって地上・地球、日本。
17歳の男子高校生 島波楓はとぼとぼと下校していた。
昨日の家での出来事を回想している。
楓:「父さん… 俺のコンクール出品用の作品の絵画を破りやがって… 」
石ころを蹴とばし郵便ポストにあたる。それが跳ね返って楓の額にあたった。
楓: 「いってぇ! くそ! … 父さんは医師になって家の個人病院を継げって言うし、俺は本当は美大に行って絵を専門にやっていきたいんだ! けど画家なんて対した稼ぎにはならんって、俺に才能なんてあるわけがないって罵倒してきやがるし… 」
楓はぶつくさ言いながら歩いていく。

その頃マリーは日本にいた。男を羽交い絞めにしていた。
男:「いててて! なにすんだ、この女! 」
マリー:「貴方の懐にあるそのお財布、そこの中年男性から掏ったものでしょう! お返しなさい!」
中年男性:「本当だ!私の財布だ!母さん、警察に電話してくれ! 」
中年男性の妻:「ええ、今すぐに! 」
街中の商店街のおじさん:「お嬢ちゃん、このガムテープを使ってそいつを動けなくしてやろう! 」
商店街の野次馬が集まってきた。
中年男性:「ありがとうございました。お陰で助かりました」
マリー:「とんでもありません。では、わたしはこれで… 」
中年男性:「あの、お名前だけでも… 」
マリー:「名乗るほどの者ではありませんわ」
皆が顔を合わせて再びマリーの方を見ると、そこにはもう誰もいなかった。

マリーは閉まっていた翼を羽ばたかせ、空を飛んでいた。
マリー:「いけないいけない。警察が来てわたしの名前を知られでもしたらわたしの身分がこの世の者ではないことで要らぬ疑いを掛けられる懸念材料になり得るわ。ひとつでもそれらを排除しなければならないわね」
マリーは胸ポケットにある小瓶に手をあて、溜息をついた。
マリー:(媚薬なんていかがわしい薬を天使が持ってていいわけがないわ)

楓のシーン。
楓が歩を進める中、目の前には5歳位の男の子が舞う蝶に夢中になっていた。
楓:(俺にもあんな時があったんだよな。父さんと小さい時に外で遊んだり… )
男の子が夢中になっている間に車道に入って行く。そして奥からスピードの出た車が走ってきた。
楓:「おい! そっちには行くな‼ 」
車がクラクションを鳴らす。しかし男の子を避けるには遅い。
楓:「まじかよ‼ 」
ダッシュで楓は男の子を抱き上げ車道から逃げようとする。
しかし車とは一寸先。もう間に合わない。
楓:「これで俺の人生終わりかよ! ざけんなー‼ 」
楓は死を覚悟して目を閉じた。
そして身体がふわり、と軽い感触がした。
楓は恐る恐る目を細く開けた。
そこには白い翼を持った天使が楓と男の子をひろい上げ、優雅に飛んでいた。
楓:(て、天使⁉ ははは…… まさか。そうだ、俺は夢でもみているんだ)
そう言い聞かせ楓は目を瞑った。
楓と男の子は近くの芝生にそっと寝かされた。
マリー:「この殿方は生きてますわね、気を失っているだけのよう… 男の子も気を失っているけれど命に別条はなさそう… あら、膝を擦りむいているわ」
楓はそっと目を細く開いてみた。
マリーは男の子の膝に手をあて治癒魔法をおこなっていた。
楓はそれに見入ってしまった。
母親:「健太郎ー! 健太郎!どこに行ったのー⁉ 」
マリー:「これでよし、と… お母さんが心配しているわね」
マリーは手のひらで風を作り、近くの木の葉を音を鳴らして揺らした。
マリー:「ぼく、気を付けてね」
そう言ってマリーは翼を拡げ空高く去って行った。
楓は起き上がる。
楓:「一体、なんだったんだ… 」
楓の手になにか硬いものと触った。それを拾い上げた楓。
楓:「これ… 」

天使の住む街に戻る途中。
そのまま胸ポケットを触るとマリーはある違和感に気付いた。
マリーは何度も触り、顔が青ざめる。
マリー:「ない‼ 媚薬がないわ‼ どうして⁉ ポケットに入れておいたはずなのに! 」
遠くからマリーを呼ぶ声が聞こえる。
マスターがマリーの元に血相変えて翼を羽ばたかせながらやってきた。
マリー:「マスター! どうしたの? 」
マスター:「天の幹部がなにか勘付いたらしい。古い本を読み漁っていたんだがこの魔法で充満された箱は消息を不明にするように作られている。箱自体も消息を不明にするという。この箱に入れて媚薬を隠すんだ。街の天使たちの話では幹部が巡回しているとのことだ」
マリー:「天の幹部が⁉ 」
マスター:「ああ、だからこれを… 」
マリー:「… ええ、ありがとう、マスター。箱は頂戴するわ、それでは」
そう言って地上へと引き返していくマリー。
マスター:「巡回は終わったのではないのか……? 」
マスターはいぶかし気な顔をしている。

翼を羽ばたかせながら青ざめているマリー。
マリー:(ど、どどどどうしよう… )
マリー:(幹部に見つかったらお終いよ。媚薬には痕跡の触覚がある。普通の天使には気付かれにくいけれど、幹部クラスの天使にはまず通用しない。薬を作り出す魔法を使えるわたしには解る…… 触覚を消すにはきっとマスターが言っていた媚薬をこの箱に入れないと消すことが出来ないわ)
眉間に皺を寄せるマリー。
マリー:(どこで落としたのかしら? …… まさか、あの時?)
マリーは楓と男の子を助けた時のことを思い出していた。
そしてエンジェルリングを光らせた。


地上にて。楓の家、楓の部屋。
楓:「天使が媚薬って、どういうことだよ…… 」
楓:(てか、めちゃくちゃ可愛かったな…… )
楓は少し顔を赤らめる。
楓:「少し、飲んでみようかな…… 」
楓:(いやいや、いかん)
口を一文字にして頬を赤らめる。そして考える楓。
楓:(ちょっとだけ、分けてもらおう)
静かに瓶から数滴、別の容器に楓は入れる。それを机の引き出しに閉まった。
頭をぽりぽり掻いて楓は部屋をでた。
楓:(トイレ行こ)
お手洗いから出てきた楓はそのままキッチンへ行く。そこには母・由子がいた。
由子:「楓、夕飯もうすぐ出来るからもうちょっと待っててね。今日のメニューは親子丼よ、好きでしょう? 」
由子は必要以上ににこにこしている。
楓:(親子丼って…… )
リビングのドアが開く。
浩人:「なんだ? 医者の勉強の休憩中か? 」
父親の浩人が品性のある立ち振る舞いで楓に嫌味を言って入ってきた。
楓:「…… 」
浩人:「反論はなしか。ということは父さんの言っていることがどれだけ価値のあることかようやく理解出来たというわけか」
楓:「うるせぇよ、息子の言うことなんて全然耳も貸さねえくせによ」
浩人:「何度も言わせるな、ヒアリングがきちんと出来ていない。そんなんで医学部なんて行けないぞ、甘くみるんじゃない」
楓:「俺は絵を書きたいんだ! 絶対に絵で成功してみせる! 」
浩人:「たわけ! まだ父さんの言うことが理解していないとはなんたることだ! いい加減夢みたいなことを言うな! 子供じゃないんだぞ! 」
楓:「うるせぇ! 口を開けば俺を理解しようとなんてしない発言ばかりじゃねぇか! 」
浩人:「…… まったく、大馬鹿者だお前は。楓、聞くがな、今絵の方はどうなんだ? 一向に描けている気配ないじゃないか。スランプなんて一丁前なことお前にあるわけがないだろう。最初から才能なんてないんだ。いい加減認めろ。母さん、今日は親子丼じゃなくて他人丼だ。こんな大馬鹿者と親子なわけがないんだ、豚肉を買ってこよう」
由子:「そんな…… お父さん」
楓:「豚にしろよ、豚に! 」
ばたん! とドアを勢いよく閉めてリビングキッチンから出ていく楓。
廊下を感情顕わに歩きながらふと、立ち止まった。
楓:(あの天使をモデルにしたら…… スランプ、脱せられるかな)
楓の回想。小学生の頃、翼の黒い天使を描いたときに初めてコンクールで受賞して嬉しかったときのことを思い出している。
楓:(あの時の絵、どこにしまったかな)
同時に楓はマリーが男の子を治療している姿を思い出していた。
そして幼いころ、遊んだときに小さな怪我をして父親の浩人に治療してもらったことも思い出していた。
楓:(父さん…… )
楓は部屋のドアを開けた。

するとそこにはマリーが人間の姿で椅子にちゃっかり座っていた。
マリーは笑顔で迎える。
楓は顔を真っ赤にしてずっこける。
マリー:「ごきげんよう」
楓:「ええっ⁉ あの…… えっと」
マリー:(しまったわ、勢いよく媚薬の触覚をエンジェルリングの感知機能を使ってここにたどり着いたのはいいけれど、つい人間の姿でここに座ってしまったわ。この状況どう説明しましょう)
楓:(さっきの…… 天使だ。人間の姿しているけれど、間違いない)
マリー:「あの、道に迷ってしまいまして…… 」
楓:「み、道に迷った? 」
楓:(んなわけないだろう)
マリーは楓に近寄り、両手を取った。
マリー:「あの、殿方! わたしの忘れ物、知りませんか? きっと、きっと殿方なら知っていると思いまして、わたし道に迷ってしまったのですわ」
楓:(お、おれのモデルになってくれって言ったら…… OKしてくれるかな)
マリー:「あら? 殿方、いがみの香りがします」
楓:「い、いがみって…… 」
父親・浩人の顔が脳裏によぎる楓。
心の内に秘めていたことが今にももう、楓は爆発しそうだった。
楓:「だ、だめなのかよ? 絵は俺にとって俺でいられる唯一の手段なんだ。それと同時に人が人を治癒するって凄いことだって俺は、俺は小さな頃から知っているんだ」
マリー:「だめではありませんよ」
マリーはにっこりと答えた。
楓:「そんなに簡単に言うなよ! 俺にとっては…… 俺にとって」
マリー:「そんなことより、探し物があるのですが」
そう言って楓にお構いなしに部屋の中を漁る。
ラックにあるフィギュアの隙間に棚を開ける。ベッドの上に乗って布団をめくる。
楓:「ちょっと、や、やめ…… 」
楓:(そこには女の子に見られたら困るものが…… )
マリーの探す腕を払おうと楓は身体を伸ばした。
そして体勢を崩した楓はそのままマリーを押し倒してしまう。
楓はごくり、と唾を飲み込む。
楓:(い、今ここで媚薬を飲むべきなんじゃ)
楓はそのままマリーに唇を重ねようと顔を近づけた。
マリーはそのまま、楓の向こうを直視していた。
押し倒した振動の余韻で頭上のラックにある貯金箱がぐらっとなっている。
そしてそのまま楓の頭に直撃した。楓はそのまま気を失う。
マリー:「あらあら、かなりの命中率ですね」
楓の身体を退け、マリーは机の上の媚薬の小瓶を見つけた。
マリー:「やっぱり、ここだったのね」
そのままマリーは媚薬を持って、閉まっていた翼を羽ばたかせ楓の部屋の窓から飛び立っていった。
そのすぐあとに楓は気が付いた。
楓:「いってぇ。今日はこんなんばっかだな…… 」
羽ばたく音が窓の外から聴こえた。
窓の向こうをみると、マリーが大きな翼で飛び去って行く後ろ姿があった。

その日の夕刻。楓はおつかいに行っていた。
楓:「くそう、父さん…… 俺に豚肉買いに行ってこいって、性格悪すぎじゃねえか」
楓はふてくされ顔で近所のスーパーまで歩いて行く途中。

マリーは河原に座り、媚薬を箱に入れようとしていたところだった。
マリー:「これで完璧、ね」

楓は途中の川辺から大きな夕日に見入っていた。
川の流れに目をやると、男の子が川に流されているのに気が付いた。
近くにはボールも一緒に流されている。
楓:「やべえだろ…… 」
急いで走って川に入り、流されている男の子の元へと泳いでいく。
流れが速くて、流されそうになるところを必死に泳ぐ楓。
男の子を掴みそうになるも流れが邪魔をする。水を飲んで苦しむ楓。
楓:(死ぬなよ!)
沈みかけていた男の子をやっとの思いで掴み、楓は男の子を抱えて岸につく。

マリーは河原でその一部始終に気付いた。
マリー:「あれは…… さっきの殿方? 」

楓は岸につくと、男の子に話しかけた。
楓:「おい! 死ぬな! しっかりしろ! 」
男の子は気を失っている。
楓:「こういうとき、どうすれば…… 」
マリー:「どいて! 」
しどろもどろしている時にマリーが走って駆けてきた。
マリーは手に持っていた箱を勢いよく置いた。箱から媚薬がこぼれるように姿を現した。
マリーはひざまづいて男の子に人工呼吸を施した。
気道を確保し、リズミカルに息を吹き込む。
楓はそのシーンに見惚れてしまっていた。
男の子は息を吹き返した。
マリー:「ぼく、しっかりしてくださいまし! 」
男の子は意識を取り戻すが衰弱しきってしまっている。
マリー:「お医者さまに診てもらった方がいいわね」
楓:「あ、それだったら…… 」
マリーは楓の方に振り返った。そしてじっと見る。
楓:「あの…… 」
マリー:「貴方は、希望を振りかざすだけで終わる程度の人間なの? 」
楓:「…… 」
楓はぎゅっと拳を握りしめた。

カタカタ、と音が鳴り始めた。
見ると媚薬の瓶が振動を初めている。
マリー:「…… いけない! 」
マリーは媚薬を箱に入れようと手を伸ばしたその時だった。
マリーと楓の前に大天使が現れた。
マリー:「ミカエル様⁉ 」
楓:(ミ、ミミミカエル⁉ )
媚薬の振動が箱にあたり、それが楓の脳天に飛んでいった。
楓は気を失う。
ミカエルは手をかざし、媚薬が宙に浮いてミカエルの手中に入る。
マリー:「ミカエル様、違うのです。わたしにはどうしてこのようなことになってしまったのか全く見当もつかないのです」
ミカエル:「経緯を教えてくれますか? マリー 」
マリー:(ど、どうしよう… 嘘が通用するお相手ではない)
ミカエル:「そうですね」
マリーははっとしてミカエルの顔をみた。
なにもかも見透かしているようなそんな目をしていた。
マリー:「いつも通り抗眩暈薬を調合しておりました。ですがなぜか出来上がったものがその薬、媚薬でございます…… 」
マリー:(意図的でなくとも、わたしはどのみち罰を受けなければならない。だって、天界の天使が自ら媚薬を作り出してしまったという禁忌をわたしは侵してしまった…… )
ミカエル:「…… そうなのですね。…… 私は大天使として、そして天界の幹部として然るべき措置をとらなければなりません」
楓が意識を取り戻す。ミカエルとマリーのやり取りに聞き耳を立てている。
マリー:「覚悟しております」
ミカエルが手のひらを払った。
するとマリーの大きくて立派な翼が燃えて跡形もなくなった。
マリーはメンタル的に失意の底に落ちる。
ミカエル:「マリー、貴方には使命を与えます。善行を1万回行いなさい。よいですか、私が数値を伝えたということがどういうことかお分かりですね? 」
マリーはこくん、と頷く。
ミカエル:「よろしい。それが完了したら合図を送ります」
マリー:「合図、ですか? 」
ミカエル:「この媚薬、箱に入れた状態でマリー、貴方が持っていなさい。そして1万回が無事終了したら箱が光を灯します。その光の合図で私が貴方のもとで再び翼を授けましょう。けれど、1万回を過ぎたら1万1回目は行ってはなりません。1万回で、止めるのです」
マリー:「な、なぜですか? 」
ミカエル:「天界は古からそのような慣わしがあります。それに倣わなければなりません」
マリー:「承知いたしました」
ミカエル:「よろしい。然るべき場所へ私が連れていきます」
ミカエルは光りと共にマリーと一緒に消えてしまった。

楓が起き上がる。
楓:「一体、なんだったんだ…… 」
楓は隣で溺れた男の子がぐたっと脆弱していることに気付いた。
楓:「おい、ちょっと…… くそっ! 」
楓は男の子をおぶって歩き出した。
楓:「しっかりしろよ、今病院連れていくからな」
楓は家に着いた。
楓:「父さん、看てほしい患者がいるんだ! 急ぎで頼む! 」
浩人:「なにがあったんだ、楓! 」
楓:「川で溺れていたんだ」
浩人が触診をし、バイタルを測る等医療行為を行う。
忙しなくしている中、楓はもう自分に出来ることはないと思い、自分の部屋に戻ろうとした。
浩人:「楓、応急処置が完璧だ。よくやった」
楓:「いや、それは…… 」
楓はマリーに言われた一言を思い出していた。

部屋に行く前に飲み物でも飲もうとキッチンへ行こうと思った。ふとリビングをみると
そこにはマリーが由子と談笑していた。
楓は飲み物を吹き出す。
楓:「えっ⁉ な、なんで⁉ 」
由子:「楓、おかえりなさい。こちらのお嬢さん、マリさんといってね、今日お父さんと出掛けたときスリにあってね。なんとそのスリを捕まえてくれたのよ」
マリ:「はじめまして、マリと申します」
由子:「なんでもマリさん、海外に在住しているそうなんだけどパスポートを失くしてしまったんですって。再発行まで時間がかかるとのことで、それまでうちで暮らしてもらうことになったから」
楓:「ええっ⁉ 」
マリ:「宜しくお願いしますね、楓くん」

天界にて。幹部である大天使のミカエル、ラファエル、ガブリエルが一室で深刻な顔をして話をしている。
ミカエル:「これが、私の出来る精一杯です。どうか、どうかマリーをお守りください…… 」
ラファエルがミカエルの手に手をそっと添える。
ラファエル:「ミカエル、私たちも貴方と同じ想いです。どうか、ひとりで背負わないでください」
ガブリエル:「媚薬の振動でどうやら彼らが動き出したようだ」
ラファエル:「彼らって…… 」
ミカエルが顔に汗を伝わせている。
ガブリエル:「堕天使連盟…… いわゆる堕連が目覚めたんだ」

堕ちた地のさらに奥から大きなゴゴゴ、と、岩岩が動く。
黒い翼が目覚めている描写。

第一話終わり

***

天界の世界観と人間界との相違を描きながらそれらがどのように直接的且間接的に関わっているのかを描く。

マリーをボケ役、楓をツッコミ役にしつつ、コミカルに描きながら核心に近づくイメージでストーリー進行を行っていきたい。

マスターは人間界にしばらく留まる間、なにかとマリーの近辺を怪しい行動をとって行き来する。

そしてミカエルは表現上は味方なのか敵なのか匂わす表現をし、天界の重鎮であるミカエルはマリーに人間界で使命を与えるがミカエルの真の目的はなんなのかを、マリーにとって危害はあるのかないのかの不安定さを読者に与え、推理を促す。

魔女の生誕を望む者は誰なのか。
大天使たちならではの葛藤があり、その狭間を描きたい。

そのことで読者になんだなんだ、どーした?という目線で読書欲を促したい。

普通、悪の連盟だったら魔女という魔の存在を望むが敢えて逆をいきたいと思っている。
それには理由があって、その矛盾を読者にもやもや感を与えると共にそれを解消させようと推理欲を掻き立てる動機にしたい。

(起承転結の主なテーマ) 
「起」:何故選択肢はひとつでなければならないの?→楓を主軸にマリーの近辺の不穏な動きを描く。

「承」:互いの生き方を知って→マリーと楓にコミカルな事件を起こして互いの立場等を知る機会を設ける。

「転」:自らの真実との対峙→登場人物が自身の過去と向き合う。

「結」:自分という人間を理解する→媚薬、伝説の魔女、大天使たち、堕天使連盟、楓の過去の絵の秘密等、マリーの存在の意味についてを明らかにしたい。 

#漫画原作部門 #創作大賞2024

「天使に媚薬」 第二話 #創作大賞2024 #漫画原作部門 |板倉 市佳 (note.com)

「天使に媚薬」 第三話 #創作大賞2024 #漫画原作部門 |板倉 市佳 (note.com)

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