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「天使に媚薬」 第三話 #創作大賞2024 #漫画原作部門

夜。
楓の部屋にて、楓がベッドに仰向けになって考え事をしている。
楓:(あの時、マリさんは翼を燃やされて善行1万回を言い渡されていたな…… 1万回が終わったらまた翼を授けられるのかな…… そしたらここからいなくなるのか? いや、そもそもパスポート紛失したってことになっているから、それに合わせてここを出ていくつもりなのか……? )
楓は一人で考えて考えて悶々としていた。
楓:(今頃、隣の部屋で寝ているのかな…… マリさん)
顔を赤らめる楓。
楓:(寝よう)
夜空に月と星座が瞬く静寂な夜の描写。

次の日。リビングにて。
浩人:「マリさんのハーブティー、是非院内で販売してくれと要望が沢山あってね。マリさんどうかな? 」
マリー:「まあ、嬉しいです! 浩人さん、よろしいんですか? 」
浩人:「ははは、こちらがお願いしてるんだよマリさん。ではこれで話はまとまったね。ハーブティーを作るのに人手が必要だったら楓を使ってくれていいから」
楓:「な、なんで俺なんだよ⁉ 」
浩人:「これも勉強の内だ」
マリー:「よろしくお願いしますね、楓くん」
楓:「…… 」
楓:(くっそー、そんな風に言ってくるなんて反則だろ!)
楓再びマリ―をみる。にこにこしているマリーに対して顔を赤くして顔を逸らす楓。

所変わってマリーの部屋に通される楓。
マリー:「こちらです、楓くん」
楓:(まじかよ…… 実験室みたいだ。しかも洗練された感じだ…… )
マリーの部屋の描写。
生活のスペースとハーブを作る実験スペース兼製作スペースが綺麗に整頓されている。
マリー:「こちらにあるドライハーブの調合をお願いします。今日はこのカモミールとパッションの割合についてですが…… 」
楓はマリーの部屋の辺りを凝視した。見入っている。
マリー:「もし? 楓くん、もし? 」
楓:「…… え? あ、ああごめん」
マリー:「こっち、お願いします」
楓:「あ、うん…… 」
楓はマリーの隣に来た。距離が近い。マリーはわざと物理的な距離を作る。
楓:「な、なんでそんなに避けるの? 」
マリー:「…… 忘れてませんから、あの時のこと」
楓:「あの時? 」
マリー:「わたしのこと、押し倒したでしょ」
マリーは顔を赤くして少しだけいじけている。
楓も顔をぼんっと赤くする。
楓:「あっ…… いや、あれはその…… なんというか…… 」
マリーは楓を顔を赤くして睨みつける。
楓は顔を赤くしてしゅんとする。
楓:「あの時は、その…… ごめんなさい…… 」
マリー:「そうです、悪いことをしたらきちんと謝らなければいけないのです。それがいままでありませんでしたからね、楓くん」
楓:「はい…… 」
楓:(ごめんなさい…… )
楓:「逆に聞くけどさ、なんであの時拒まなかったの? 」
マリー:「拒む必要がなかったからです」
楓:(ど、どういう意味? )
楓がどきどき期待する。
マリー:「楓くんに直撃命中することはみえてました。わたしの目線の先に貯金箱がぐらついていたので」
楓:「あ…… そう…… 」
マリー:「それでは始めますよ。先程の話の続きですが、この割合の注意すべきところはですね…… 」
楓は距離が近いマリーに再び顔を赤らめた。
楓:(ごめんなさいの一言で割り切れるもんではないよな…… )
マリーは一生懸命に楓にハーブティーのことを教えている。
楓:(天使に手を出したら罰があたるな…… )
マリー:「聞いてますか、楓くん? 」
楓:「は、はい! 」

後日。院内にてマリーと楓がハーブティーの販売をしているところ。売り子。
マリー:「ありがとうございました」
楓:「ったく、なんで俺まで狩りだされるんだよ」
マリー:「嬉しいじゃないですか。自分で作ったものを他人(ひと)が喜んで手に取って購入していくなんてこの上ない幸せですわ」
楓:(なんでこんなに真っすぐなんだよ…… この娘は)
自身の考えとマリーの考えの狭間で葛藤している楓の表情。
病院から出ていく患者さんたち。
患者A:「ここのハーブティー、私の片頭痛によく効くのよね。しかも美味しいのよー」
患者B:「私は疲労回復に飲んでいるのよ。ここのハーブティーに出会えて本当に良かったわ」
背後に謎の人物の足がざっとある姿の描写。
そしてその人が病院の外観をみている後ろ姿。

マリーが院内でなにかの気配に気づく。
楓:「どうしたの? 」
マリー:「…… ちょっと席をはずしますわ」
楓:「えっ⁉ ちょっと、マリさん! 」
楓の声かけに構わずの外に出ていくマリー。
病院の門の前。マリーは道沿いに右をみて、それから左をみる。
マリー:「…… 」
そのまま静かに右へと歩き道が分かれた所で考えに耽るマリー。
電柱の陰に隠れている謎の人物。額に汗が伝っている。
謎の人物:「…… 」
マリーは元来た道に戻るために歩を進めた。
謎の人物はほっとする。
マリー:「やっぱり」
謎の人物はぎくっとして振り返るとマリーが仁王立ちで立っていた。
マリー:「あなただったのね、マスター? 」
マスター:「ばれてしまったか。いやはや、かなわないな」
マリー:「どうしてここにいるの? 翼を隠して人間と同化してまでここにいる理由はなんですの? 」
マスター:「君が心配だからに決まっているじゃないか! ミカエル様が直々に私のところにきて事のあらましを確認しにきたんだ。その時にマリーが翼を失くしてしまったことを知ったんだよ! 」
マリー:「心配かけてしまって本当にごめんなさい。大体のことはきっとミカエル様から聞いている通りだと思います。今は言いつけ通り善行を行っております」
マスター:「元気にやっているのかい? 」
マリー:「はい。人にも環境にも恵まれております。ミカエル様が導いてくださいました。天の采配にも感謝です」
マスター:「そうか……、 善行とは具体的にどのようなことを行っているのかい? 」
マリー:「それは…… 」
由子:「マリさん? 」
マリー:「由子さん! 」
由子は夕飯の買い出しから帰ってきたところだった。
由子:「マリさんそちらの方は? 」
マリー:「あ、えっと…… その…… 」
マスター:「いつもマリがお世話になっております。マリの叔父で増山と申します」
由子:「まあマリさんの叔父さんですか! こちらこそマリさんがうちに来てくれてから家が楽しくなりまして…… 」
マスターと由子は会釈をする。
由子:「良かったらうちに寄って行ってください。なんのお構いもできませんが…… 」
マスター:「いえ、私ももう行かなくてはならないものでして…… マリはご迷惑をおかけしていませんか? 」
由子:「そんなことありません。マリさんは夫の開業している医院でハーブティを作ってくれてそれが患者さんにとても好評なんですよ」
マスター:「そうですか、私は仕事の事情ですぐに海外に行かなくてはならない身でして…… うちのマリのこと宜しくお願いします」
由子:「まあそうなんですか」
マスターはマリーに耳打ちをした。
マスター:「マリーの作ったハーブティー、私にもひとつくれないか? 」
マリー:「ええ、構わないけれど…… 」
丁度持っていたハーブティーをマスターに渡すとそのまま由子に挨拶をして去って行った。

その日夕食終わりのリビングにて。島波家とマリーは団らんをしている。
由子:「マリさんの叔父さんはとても紳士的な素敵な方だったわ」
浩人:「おいおい母さん」
由子:「大丈夫よお父さん。私の一番はお父さんだもの♡ 」
楓:(叔父さん? もしかしてその人も天使なのか…… ? )
マリーは静かにお茶を飲んでいた。

お風呂から上がったマリーは部屋に戻ろうとしていた時だった。
楓:「マリさん」
マリー:「楓くん、どうしたんですか? 」
楓:「マリさん、俺の絵のモデルになってくれないか? 」
マリー:(確か由子さんの話では楓くんは今スランプだったはず…… )
マリー:「ええ、わたしでよければ。きっとそれも善行の一つですわ」
マリーは笑顔で応えた。
楓の部屋に入るとそこには画材道具が準備されていた。
楓:「ここら辺に座って、自由にしていいから」
マリー:「ポーズはとらなくていいんですか? 」
楓:「マリさんの自由な姿を描きたいんだ」
マリーはそう言われて考え、楓の部屋にある絵画の本を読み始めた。
楓は筆をとる。
時間の経過。マリーはうとうとしてきている。
楓は苦戦していた。マリーが眠たそうにしているのにも気づいていない。
楓:(だめだ…… 描けない)
マリーは子守歌を唄うようにうつらで話し始めた。
マリー:「わたしは、森と砂漠が好きなんです」
楓は自分に立腹しながらマリーが話始めたことに気が付いた。
マリー:「森は潤いの風が吹きます。しかし砂漠は乾いた風が吹く。相反するものだからこそ、互いの近さと遠さの貴さを知っているのです」
楓:「なにが言いたいの? 」
マリー:「森が好きなこと、砂漠を愛していること、両方を慈しむことを誰が責めるでしょうか」
マリー:「きっと責めているのは己自身です。それでしたら己を認めてあげればよいのです。自身は両方を慈しんでいることを…… 」
マリーは本を見開きながら寝てしまった。
楓:「マリさん、部屋戻っていいですよ」
マリー:「選択肢に…… 縛りなど…… ないので…… す…… 」
マリーはむにゃむにゃと眠ってしまった。
楓は溜息をつく。
楓:「…… わかったよ」
楓はマリーを抱きかかえて部屋へと運んだ。
そのままベッドにマリーを寝かす。
マリーの寝顔をみる楓。
楓:(マリさんをモデルに絵が描けるようになるまで、俺がマリさんのこと天使だって知っていることは秘密にしておこう。叔父さんも天使なら素性を隠している点からきっと知られてはならないことなんだ。天使だと知らなかったらその分、一緒にいられる時間もあるはずだ)
楓は無防備なマリーをみてそれから唇を凝視した。
楓:「…… 」
顔を赤らめる楓。
楓はマリーの左の耳たぶにキスをした。
楓:(これくらいは許せよ。男の前で無防備に寝たそっちにも責任はあるんだからな)
顔を真っ赤にして楓は部屋を出て行った。

夜が更ける頃、マリーはベッドの中でうなされていた。

天界にて。
マスター:「…… 以上が報告になります。こちらがマリーの作ったハーブティーになります」
マスターは或る人物に報告を終えると退室した。
マスターは翼を羽ばたかせ宙を飛ぶ。
翼からひとつの黒い羽根がひらりと舞い落ちていく描写。


第三話終わり

「天使に媚薬」 第一話 #創作大賞2024 #漫画原作部門|板倉 市佳 (note.com)

「天使に媚薬」 第二話 #創作大賞2024 #漫画原作部門 |板倉 市佳 (note.com)

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