見出し画像

ウクライナ侵攻からわかるアメリカと民主主義の迷走 Foreign Affairs「How to Make Biden’s Free World Strategy Work」

昨日、Foreign Affairsに「How to Make Biden’s Free World Strategy Work」(https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/2022-05-24/how-make-bidens-free-world-strategy-work)と題する記事が掲載された。
この記事はこれまでのバイデン政権の問題点を整理し、ウクライナ侵攻で明らかになった課題を提示している。
この記事は単にバイデンというだけでなく、アメリカとその陣営が抱える基本的な問題をあぶり出している点が興味深い。それは、「なにをしているのか自分でもわかっていない」ことである。

発売中! 『ウクライナ侵攻と情報戦』 (扶桑社新書)2022年7月2日刊行

●バイデン外交政策3段階

バイデンは就任以来、民主主義と独裁主義の間の闘争が現代の決定的な衝突であると主張してきた。
外交政策は3つの段階を経て展開されてきた、と記事では指摘している。
第1段階 政権発足後の6ヶ月間は、民主主義世界の結束と回復の必要性を訴え、トランプ時代に緊張した同盟関係を調整し、NATOとG7を中国の問題に集中させ、オーストラリア、インド、日本、米国からなるクアッドを活性化し、オーストラリア、英国、米国によるAUKUS安全保障協定など、民主的同盟国を創造的方法で結びつける新しいスキームを追求し、国際的リーダーシップを再び発揮するようになった。
第2段階 大惨事の連続。アフガニスタンからの撤退の不手際は、タリバンを勝利に導くことになった。対中国政策はインド太平洋地域で有効な貿易政策がないために停滞し、「アジア第一」のアプローチは、イランやロシアとの緊張が悪化したため宙に浮いた。民主化サミットは失敗し、国内議会でも支持を減らし、インフレが加速して国内を弱体化させた。
第3段階 ウクライナ侵攻での対応は大失敗に終わるかと思われたが、ウクライナの抵抗、ロシアの失態、アメリカのタイムリーな支援、ヨーロッパの驚くべき結束によってバイデンは救われた。さらにNATOは軍事力を強化し、新規加盟国を獲得する準備を進めている。ウクライナ侵攻は、ここ数十年のどの時期よりも先進民主主義諸国の間に大きな結束と緊迫感をもたらした

●分断された世界と、民主主義の幻想

記事では世界は分断されているものの、民主主義対権威主義という単純な図式にはなっていない。そもそもどちらの陣営につくか明確ではないグレーゾーンの国々が多いのだ。
記事では、バイデンが何と戦っているのを明らかにしなければならないとしている。アメリカは一部の非自由主義的な政権と協力せざるを得ない以上、戦っている相手が独裁政治そのものではないではないことは明らかだ。戦っている相手は、既存の国際システムを変えようとする意図と能力を持つ権威主義的な政権である、としている。
つまり、自分の国で独裁政治をするのはいいが、他の国まで巻き込んでしまうなら戦うべきということらしい。そのまま解釈すると、中国が新疆ウイグルでやっていることや、ミャンマーの軍事政権が行っていることは容認しているように読めるし、実際そうなのだろう。

●対米協力3階層

記事では自由世界は3つの層に分かれるとしているが、どう見ても自由世界に分類されない国も含まれているので、意図としては「自由世界の重要性を標榜するアメリカへの協力可能性の程度で各国を3階層に分けてみた」ということのように考えられる。短く言うと、対米協力3階層だ。

対米協力第1階層 もっとも強くアメリカに協力する階層。

同盟国、英国圏、大西洋横断コミュニティ、インド太平洋などで最も強力な関係を持っている国々である。イギリスを始めとするヨーロッパ数カ国、オーストラリア、日本などが含まれるのだろう。

対米協力第2階層 第一階層よりもゆるく、協力には一貫性はない。しかし、時には重要な役割を果たす民主的なパートナー。

インド、インドネシア、ウクライナ、台湾が含まれるらしいが、正直???と感じた。インドはそうはならないと思うんだけど。
バイデンの目標は、クワッドや各種の同盟や制度を発展させ、第1層と第2層強く結びつけて自由世界の総合力を強化することであると記事は指摘している。

対米協力3階層 比較的穏健な独裁国家、つまりアメリカが主導する国際システムを支持する非自由主義的な国々。

ベトナムやシンガポールが含まれる。すでにこの時点で、もはや自由世界を支持している国ではないことがわかる。自由世界を支持するアメリカによって秩序が保たれることを望んでいるだけだろう。彼らは自国が自由世界になることは望んでいない。

●バイデンの課題

バイデンは2つの課題を抱えているという。

第1の課題 相互依存の管理。

世界各国はさまざまな面で相互に依存している。経済は顕著だ。相互依存をなくすことは無理だが、適切に管理する必要がある。

第2の課題 アメリカには協力するが、自由世界を支持しているわけではない国々を取り込む。

そのためのメッセージを発信する。ほとんどのグローバルサウスがその対象となる。

●感想

書いてあることにはほとんど同感だった。グローバルサウスという言葉は使っていなかったが、権威主義国の多い、グローバルサウス取り込むことが重要というのはその通りだ。
図1は国連人権理事国資格停止で賛成票を投じた国、図2は民主主義国の国、図3はゼレンスキーが演説した国、図4は対ロシア経済制裁に参加している国が灰色に塗られている。これらはほとんどすべてがグローバルノースの国々だ。


アメリカというか自由主義陣営はグローバルサウスに対して、適切なメッセージを送れていないのも確かだ。中国が、グローバルノースとは異なる価値感を提示し、権威主義でも成長できるし、パワーを持てるという魅力的なメッセージで語りかけるのは対照的だ。
でも、この記事は全く触れられていなかったが、権威主義国がそのまま権威主義で国民や特定民族、宗教を弾圧、迫害している現実をそのまま容認して仲間に引きこむのはすでに自由主義でも民主主義でもないような気がするのは私だけだろうか?










本noteではサポートを受け付けております。よろしくお願いいたします。