『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』読んだけどよくわからなかった?

『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』(成田悠輔、SB新書、2022年7月15日)を読んだ。エッセイとしてはすらすら読めて、「へーっ」と思う箇所もあり、おもしろかった。ただ、全体としてどうなのかはよくわからなかった。

本書は、著者の考える現在の民主主義の問題点を整理し、新しい民主主義=無意識民主主義を提唱している。自動化された民主主義そのものは新しい概念ではないと思うので、その実装方法が気になったのだけど、そこがよくわからなかった。
しかし、本書はアイデアエッセイと思って読むのが正解のような気がする。あちこちで、「へえ?」、「なるほど」と刺激になればよいということだろう。

中心になるのは莫大なデータを日常的に収集することで、民意で決定すべきことを自動的かつ迅速に決定してゆく仕組みである。アルゴリズムに透明性があり、公開されていれば公平性、公正性も保てるだろう。

本書を読む時に気をつけなければならないのは仕組みが『ファクトフルネス』に似ている点だ。さまざまなデータや事例が紹介されるが、本書で著者が示した仮説を直接検証するようなものは少ない。ただし、『ファクトフルネス』と異なるのは著者が読者が気づかないような書き方をしていないので嫌な感じはしない。アイデアメモだと思えばいいだけの話だ。

本書では現在の情報空間に問題があることを指摘しているし、無意識民主主義の決定プロセスの元となる民意データを歪ませる可能性も高い。しかし、それに対する具体的な解決策が乏しいような気がした。というかそこが解決できると、だいぶ今の民主主義だってまっとうになるような気もしないでもない。

新書だし、エッセイということもあって、細かくは書けなかったのかもしれないが、無意識民主主義の全体像がよくわからなかった。
たとえば予算や税制はどうやって決めるのだろう? 国民の多くは予算の細目を知らないし、税制にもくわしくない。これらについての民意をどうやって抽出するのだろう?
仮にデータを元に自動的に決定するアルゴリズムがあったとしてだが、異なる複数の決定事項が矛盾あるいは不都合を生じることも出てくる。たとえば、消費税の率は国家全対の予算にかかわってくる。税金は少ない方がいいが、福利厚生は手厚い方がいいだろう。このふたつは全く異なるテーマだが、密接に関係している。
「ウクライナへの支援」と「物価上昇」もそうだ。異なるテーマだけど、戦争が長引けば、経済制裁の返り血などで物価は上がる。日常生活はきわめて複雑でからみあっており、その関係の仕方は横並びでの関わり会いから、上下の関係(全体最適と部分最適とか)までさまざまだ。ヘタすると古典的なフレーム問題が起きそうなくらい組み合わせは多い。
事前にこれらを全てシミュレーションした後で解決すべき問題を設定することも可能だが、そうなると影響範囲が広くなりすぎて対象者が多くなり、どんな問題でも多数派が常に勝利を収める可能性が高まる。
また、ピンポイントで「ウクライナへの資金援助は賛成」に関する民意をデータから確認する方法は想像できるけど、社会への影響を全て含んだ民意をデータで確認する方法は想像できない。
もちろん機械学習させればいいのだろうけど、正直それはアイデンティティ政治的な手法にすれば、たいがい納得するという方向になりそうな気もする。アイデンティティ政治は本書で重要視しているSNSとの相性がいい。

本書の参考文献には過去に私が読んだ本も含まれていたけど、信憑性に欠けるものが含まれていたり、逆にメカニズム理論についてちょっと紹介しただけで流しているのも不思議な気がした(おそらくかなり重要なはず)。

などといろいろ考えたので、その意味ではエッセイとしてとても刺激になってよい本だったと言える気がする。

話は飛ぶけど、私は昔から国家主権オークション制をやればいいような気がしているんだけど、どうなんだろう? 一定の条件を提示したうえで一定期間の統治権をオークションにかける。1番の落札者が入手し、2番目の入札者はその期間、ちゃんと条件が守られているか、人権侵害がないかを監視し、問題があった場合は2番目の落札者が統治権を得る。
落札した国の国民は自国民となり、GDPも軍隊も手に入る。落札資金は国民に平等に配布される。










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