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財務資料から見る中国の影響工作

大西洋評議会のデジタルフォレンジックリサーチラボ(DFRLab)が「財務資料から見る中国の影響工作」(2023年1月12日、https://medium.com/dfrlab/how-china-funds-foreign-influence-campaigns-72d547ad0771)という記事を公開した。これは中国のメディア関連企業が公開している財務資料をもとに、外宣活動を明らかにしたものだ。その要約をご紹介したい。

●新華社通信

新華社は中国を代表する国営通信社で中国の外宣では大きな役割をになっている。2016年から2022年までの支出は約60億人民元(約1150億円)。
2020年、新華社のホームページは毎日2,100万人の訪問者、5,800万回PVがあった。100以上の国や地域の通信社と協力協定を締結し、20以上の多国籍組織と連携している。2021年現在、新華社は13の国際ニュース部門と500の海外ソーシャルメディアアカウントを維持し、合計2億人以上のフォロワーを持つ。新華社通信のFacebookページでは、185の異なる地域と言語に対応し、メッセージをローカライズしている。新華社通信のFacebookのフォロワー数は9400万人で、BBC(5800万人)やCNN(3400万人)のフォロワー数よりを大幅に上回る。

新華社は2021年の年次報告書で情報作戦戦略を概説し、"対外宣伝の旗艦 "を目指して、"世論戦能力 "の向上に努めていると書いている。
新華社は「攻め」と「守り」の両面を含む情報作戦の戦略を明確にしている。守りの面では、新華社はニューメディアや『習近平时间』『中国的选择』などの短編ビデオシリーズで習近平の統治モデルを広め、中国の成功を宣伝している。

新華社の「攻め」な情報操作は、偽情報に依存している。たとえば新華社はアメリカを貶める「アメリカ暗黒史三部作」という傘下の一連のドキュメンタリー番組を制作し、総閲覧数が5億回近くに達した。
新華社は、これらの動画の公開を政治的なイベントと連携させていた。たとえば、コロナに関する動画はWHOが2021年半ばに武漢の実験室に対する追加監査を要求した時期に、米国の施設に注意を向けさせるために公開され、中国国内の人々がパンデミックで厳しい監禁制限に直面しているときに、米国がウイルスを広めたと非難する動画を公開した。そして、米国がアフガニスタン戦争で人権侵害をしていることを描いた動画は、バイデン大統領の民主化サミットの翌日に発表された。

●中国メディアグループ(CMG、中央广播电视总台)

ビデオとラジオで活動する中国共産党の情報発信源となっている。中国のナラティブの拡散などを主要任務としている。中国中央電視台(CCTV)、CGTN、中国国営ラジオ(CNR)、中国ラジオ国際放送(CRI)の4つの部門から構成されている。CGTNとCRIはそれぞれ、CCTVとCNRの海外部門である。

CMGは、その国際的なリーチを誇っており、CNNやBBCのような欧米の報道機関に広く引用されるようになったと主張している。例えば、アフガニスタンの米軍撤退後、CGTNはタリバンの最初の記者会見に出席した唯一の報道機関であったことが報告されている。

CMGの財務を集計すると、パンデミックによる公的資金の減少、海外報告の困難、国務院からの支出削減の指示もあり、2019年以降、全体の資金は減少している。CMGの2022年の予算は23億2000万元(約440億円)で、予算の96%は「文化、観光、スポーツ、マスメディア」にあてられている。

CMGは外国人を対象としたメディアプロジェクトに資金を提供していた。CMGの2021年の財務諸表には、制作した歴史ロマンスドラマ『反逆の姫君(上阳赋)』のYouTubeとGoogleでのプロモーション戦略が詳細に記載されている。そのプロモーションは、ソフトパワーを培うために娯楽産業を通じて文化的影響を与えるという韓国モデルを模倣したものだった。2021年初頭の広告キャンペーン後、番組を主催したYouTubeチャンネル「China Zone」は37万人の登録者を獲得し、番組の再生回数は数百万回に達した。
ターゲットを絞ってローカライズされた海外宣伝プロジェクトに対する資金提供も拡大している。2022年、CCTVはアジア協力基金(亚洲合作资金项目)に取り組み、アフガニスタンの少なくとも3つの主要都市でパシュトゥー語のテレビ番組を200エピソード制作・放送した。同様に2017年、CGTNは、南アジアのパシュトゥーン人約6,000万人をカバーする世界最大のパシュトゥー語テレビ局、アフガニスタンのSharmshad TVと、中国制作のパシュトゥー語ニュースセグメントを放送する契約を締結していた。

中国のパシュトゥー語番組は、中国の広範なプロパガンダに見られる反西欧のテーマを押し出す傾向がある。例えば、2021年9月に米国がアフガニスタンから撤退した後、CRIパシュトゥーは「民主主義」の概念と米国の世界的リーダーシップを弱めようとした。フェイスブックの投稿では、米国のガバナンスの決定的な欠陥として、所得格差、人種差別、パンデミックへの対応のまずさなどを挙げている。また、市民社会における既存の緊張を利用して、米国の撤退に対する現地の失望感を悪化させ、これによって欧米主導の民主主義という概念に疑問を投げかけ、中国の統治モデルを有力な代替案として提示した。

●統一戦線工作部と北京宣伝部

統一戦線工作部(UFWD)と北京市宣伝部の財務は公表されておらず、確認された最新のものは2015年の報告書で、それによると2015年の予算は宣伝部は25億元(約470億円)で、前年比433%増となったことが示されている。
新たに入手された中国政府高官協会と中央宣伝部の北京支部のデータから中国の幅広い目標について明らかにすることができた。資金のほとんどを公的資金から得ており、中でも宣伝部の予算は優先されていた。2022年にはUFWDの10倍近い資金を得ている。しかし、宣伝部の資金は、大部分がプロジェクトベースであるため不安定だった。2022年、北京宣伝部の映画、愛国教育、公告、芸術振興への投資は、2021年と比較してより高い資源が割り当てられている。

北京市宣伝部の2021年財政収支には、「欧米帰国学者協会(WRSA)活動」100万元(約1,900万円)の支出があり、その目的は「中国の留学人材を十分に活用して国に貢献すること」だった。UFWD傘下のWRSAは、これまでも中国留学生・研究者協会(CSSA)と合同でイベントを開催し、海外とのつながりを強めてきた。

予算が大幅に増えた北京宣伝部は、より壮大な作品を通じてメッセージを発信しようとし、2022年に映画産業発展のために9,000万元(約17億円)を獲得した。また、一帯一路構想諸国を対象とした5日間の異文化交流イベントや海外の消費者を対象としたビデオゲーム展示会も計画しており、1,000万人へのアクセスを見込んでいる。

ジャーナリズムの分野でのパートナーシップの確立も重点分野のひとつで700万元(約1億3千万円)を投入している。宣伝部は「魅力的な北京」というタイトルの104話のドキュメンタリーシリーズを共同制作した。

●感想

ABEMA TVの予算が200億円くらいだったし、ロシアのRTも300億か400億くらいの予算だったと思う。それと比べると意外と少ない感じがした。逆にABEMAの予算が大きいのかな? 

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