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アメリカ人をターゲットにした中国のSpamouflage新手法

2024年4月1日、ISDは、アメリカをターゲットにした中国のSpamouflageについてのレポート「Pro-CCP Spamouflage campaign experiments with new tactics targeting the US」https://www.isdglobal.org/digital_dispatches/pro-ccp-spamouflage-campaign-experiments-with-new-tactics-targeting-the-us/ )を公開した。


●概要

右派のアメリカ人を装った「MAGAflage」と呼ばれる作戦で、LGBTQ+問題、移民問題、人種差別、銃、麻薬、犯罪などを話題にしている。Spamouflageはもともと相手国に存在する問題を拡大し、分断を広げることを狙っているが、アメリカ国内の問題を取り上げることが効果的であると気づいた可能性がある。
中国のSpamouflageは2017年以来、執拗に続けられているが、アメリカ人を装ったのは初めてであり、従来の効果が少ないものから改善される可能性があるとISDは指摘している。

初期のSpamouflageのコンテンツはこれらは北京語や英語で書かれた数行の文章と、2、3枚の画像が投稿されていた。2020年の半ば頃から、英語と北京語の合成音声の入った動画が含まれるようになった。2023年時になると、AIが生成した画像を使ってナラティブを紹介するようになった。こうした進化にもかかわらず、Spamouflageは利用者のエンゲージメントをあまり獲得できていなかった。
今回見つかったSpamouflageの4つのアカウントは、ドナルド・トランプとMAGA運動の支持者を装っていた。また、ギリシャ人を装いながらもアメリカの政治ついて発言しているアカウントも1つあった。いずれも中国共産党を支持するSpamouflageのコンテンツやナレーションを大量に投稿しているが、Spamouflageの他のネットワークによって人為的に後押しされているわけではない。
その代わり、MAGAコミュニティの「follow trains」を通じて、本物の親トランプの利用者のネットワークを構築している。また、より多くのフォロワーを求める投稿を行い、何百ものオーガニックな「いいね!」や返信を受け取っている。
*「follow trains」はフォローを増やすための仕組みで、インスタグラム、X、Tik Tokで利用されている。

この手法によって本物のアメリカ人からのエンゲージメントを増加させている。なお、Xについてはプレミアさになっており、青のチェックマークがついている。

新しい動きをしているアカウントは、マルチプラットフォーム(インスタグラム、スレッド)の投稿を行ったり、ロシアのRTを拡散するなどの活動も行っている。

今回の新しい動きは見つけることが困難で、オーガニックなネットワークを「follow trains」経由で構築して、オーガニックなエンゲージメントを増加させている。今後、こうした活動が広がると規模の割に効果の上がっていなかったSpamouflageが脅威となってくる可能性がある。

●感想

こけの一念岩をも通す的な展開になってきた、と思う反面。もともと個人的にはSpamouflageの効果は、大規模な作戦が暴露されることにあるのではないかという懸念もある。デジタル影響工作は工作そのものよりも、デジタル影響工作が行われたという事実が広く知られることの効果の方が大きいような気がしてきている。デジタル影響工作そのもの効果についてはいまだ検証されておらず、その一方でデジタル影響工作への対策の問題は多い。

ニュースの信憑性を調べるために検索すると偽情報を信じる可能性が高まる Nature論文
https://note.com/ichi_twnovel/n/n1a495ff32969

誤・偽情報についての研究がきわめて偏っていたことを検証した論文
https://note.com/ichi_twnovel/n/n3f673e3d2b3e

デジタル影響工作対策の基本方針についての論考
https://note.com/ichi_twnovel/n/n8f97847a69b4

結果としてデジタル影響工作について世論は分断されやすくなるし、猜疑心を招きやすくなる。その結果、社会は不安定になる。くわしい因果関係は検証しなければならないが、政治的暴力が民主主義国で増加していたり、SNS経由での暴力が増加しているのは統計に現れている。

DFRLabウクライナ侵攻2年目の総括の感想 #DFRLab_U2nd
https://note.com/ichi_twnovel/n/n4605b841d507

2024年、SNSプラットフォームが選挙を通じて世界を変える
https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2024/03/2024-1.php

もし、そうであるならSpamouflageは直接のエンゲージメントがなくても暴露されることで効果を発揮していたとも言える

情報戦が全領域の戦いの一部であるなら、その成果は社会全体への効果で測られるべきであって、対症療法的にテイクダウンした偽情報の数が成果にはならないはずだ。

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『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)
『フェイクニュース 戦略的戦争兵器』(角川新書)
『犯罪「事前」捜査』(角川新書)<政府機関が利用する民間企業製のスパイウェアについて解説。

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