独裁者ノート デジタル独裁3種の神器

デジタル権威主義の時代の独裁者は過去の権威主義者たちと、下記の点で大きく異なる。

・国民を恐怖や強制で従わせる必要がない
・国民は自らの意思で24時間の完全監視生活を送る
・国民の嗜好と欲望をコントロールして市場を操作できる

これまでは他の人間を従わせるためには恐怖や強制が必要だった。洗脳という手段もあるが、あからさまであるうえ、解かれることもある。これに対して、現代のデジタル権威主義は国民が自ら従うように操ることができる。
SNSやIoTなどさまざまなITがそれを可能にした。独裁者に必要な3種の神器とは、監視、ネット世論操作、国民管理システムである。

独裁者3種の神器

・本人に意識させずに行動を操作できる=ネット世論操作
Netflixのドキュメンタリー「監視資本主義」をご覧になった方もいるだろう。あの元ネタであるShoshana Zuboffの『The Age of Surveillance Capitalism: The Fight for a Human Future at the New Frontier of Power』(Public_Affairs、2019年1月)にはより広範で包括的に監視資本主義について書かれている。Netflixのドキュメンタリーは、そのほんの一部を紹介したに過ぎない。700ページを超える大著なので、ここで紹介はしないが、知りたい方は、ニューズウィークの私のコラム(「あなたの知らない監視資本主義の世界」)か、noteに書いたメモ(監視資本主義のキーワード)をご覧いただきたい。
Shoshana Zuboffの著作でもSNSを通じて人間の監視し、行動を操っていることがくわしく説明されている。同様のことを元ケンブリッジ・アナリティカのメンバーが暴露したり(『マインドハッキング: あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』新潮社、2020年9月18日)、ネット世論操作の世界的研究機関オクスフォード大学のThe Computational Propaganda Projectのリサーチ・ディレクターでデジタルプロパガンダの研究者であるSamuel Woolleyの『The Reality Game: How the Next Wave of Technology Will Break the Truth』(PublicAffairs、2020年1月7日)などでも指摘されている。イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリも折に触れて同様の指摘を行い、デジタル権威主義の危険性を訴えている。特にダボス会議でデジタル独裁の危険性について語ったスピーチは圧巻だ。

ネット世論操作については別稿をご覧いただきたい(独裁者が知っておくべきネット世論操作の基礎)。

・国民が喜んで受け入れる24時間監視
国民は自ら望んでSNSを使い、健康管理アプリをウェラブルデバイスにインストールし、24時間聞き耳を立てカメラで監視するSiriやAlexaなどのAIエージェントを身近に置くようになった。これらのデータを収集し、監視すれば前述した国民を操作するために充分な情報が入手できる。犯罪やテロの抑止も可能どころか、予知までできるようになる。
この国民が自ら受け入れる完全監視体制も独裁者にとって必要なものだ。

・監視、ネット世論操作と連動する国民管理システム
国民管理システムとは中国やインドで実装されている生活の全てを管理するシステムで、そこにおいては日頃の行いが評価され、ポイントに換算される。仕事の勤務状態や健康状態、公共道徳などだけでなく、政治信条までポイントに反映される。政府の活動を支持し、応援すればポイントが増え、批判すれば減る。
ポイントのレベルによって受けられる社会保障や利用できるサービス、価格などが異なってくる。公共交通機関のチケットの値段まで違ってくるのだ。下記の記事が参考になるだろう。

中国が一帯一路で進める軍事、経済、文化、すべてを統合的に利用する戦い https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2020/07/post-2.php
激動のベネズエラ。斜陽国家の独裁者を支持すべく、暗躍するネット世論操作の実態 https://hbol.jp/186694
インドの監視管理システム強化は侮れない 日本との関係は...... https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2020/08/post-4.php
アメリカの顔認証システムによる市民監視体制は、もはや一線を超えた https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2020/09/post-6.php
日本の警察は世界でも類を見ない巨大な顔認証監視網を持つことになるのか? https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2020/09/post-7.php

ちなみにベネズエラの例がこれ。中国とロシアがバックアップして3種の神器が作り上げられた。

ベネズエラ

これら3種の神器を構築し、使いこなすことが独裁の基礎となる。

よき独裁者たらんことを!

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