昨年の合衆国議会議事堂暴動を生んだ暴力のエコシステム「Parler and the Road to the Capitol Attack」

●昨年の合衆国議会議事堂暴動でSNSの果たした役割

2022年1月5日に、アメリカのシンクタンクであるNEW AMERIKAアリゾナ州立大学およびプリンストン大学のBridging Divides Initiativeは、その前後のSNSデータおよびArmed Conflict Location and Event Data Project( ACLED)のCrisis Monitorデータを解析した結果を、「Parler and the Road to the Capitol Attack」(https://www.newamerica.org/future-frontlines/reports/parler-and-the-road-to-the-capitol-attack/)として公開した。
100万件以上の動画、100万件以上の画像、1億8300 万件以上の投稿、そして公開されているParlerのデータから抽出した1300万以上 のユーザーアカウントのメタデータ、選挙結果に不服を唱えた147人の議員のツイッターのデータを分析した結果、下記のことがわかった。

・フェイスブックやツイッターなどの主流プラットフォームは、Stop the Stealキャンペーンを成功させ、合衆国議会議事堂暴動に駆り立てる要因となった。ツイッターを追放された利用者が集まったParlerと連動し、総体としてキャンペーンの成功と暴動の実現を促した。ツイッターやフェイスブックの投稿へのリンクが、Parlerに投稿される流れができていた。暴動当時、1,300万人という小規模だったParlerもこの連動によって影響力を得ていた。

・ツイッターやフェイスブックがトランプや陰謀論者、過激な右派を追放したことは効果がなかった。追放された利用者はそれを栄誉としてParlerに活動の場を移した。また、多くが追放されたことはより過激な暴力的な反応を呼び起こした。

・SNSデータの時系列変化から政治的な出来事やデモと、SNSの投稿数は連動していたことがわかった

●Crisis Monitorのレポートからわかる暴力化の流れ

Crisis Monitorの大統領選挙後に公開した、「THE FUTURE OF 'STOP THE STEAL'」(https://acleddata.com/2020/12/10/the-future-of-stop-the-steal-post-election-trajectories-for-right-wing-mobilization-in-the-us/)は、2021年1月20日の就任式までの間に右翼の暴動が発生する可能性を指摘していた。選挙後、いくつかの右翼のイベントが増加しており、異なっているが相互に関連しているとしていり。親トランプ、反バイデン、親共和党、親警察、Blue Lives Matter、反BLM、QAnon陰謀論、および右派民兵などさまざまな組織が関わっていた。
また、1月6日の攻撃で起訴された人々の住居は、過去に各種デモや反対運動が行われた地域の周辺が多かった。地理的な影響もあったようだ。
さらにNEW AMERICAのレポートでは、2人の逮捕者に焦点をあてて、実際にどのような経緯で暴動に参加するにいたったのかを追っている。

●Parlerの影響力と、それを支えるツイッターやフェイスブックなどの大手SNS

Parlerのインフルエンサーは596人おり、2020年の大統領選挙での腐敗をもっとも重要なテーマとしていた。動画の投稿は選挙とQAnonに関するものがほとんどだった。そこにはバイデンに関する醜聞や、大手メディアの腐敗、選挙関連の陰謀論などが含まれる。また、プラウドボーイズ、スリーパーセンター、QAnonといったグループの勧誘活動も活発に行われていた。
ツイッターやフェイスブックの投稿へのリンクが、Parlerに投稿される流れができていた。Parlerは極端な主張や、大手SNSから追放された人々の集積所であり、温室となって偽情報や陰謀論を育んでいった。つまり、Parlerが影響力を持ち得たのは、大手SNSのおかげだったと言える。
また、こうした活動は政治的な出来事と連動していた。BLMが広がれば、反BLMやBlue Lives Matterなどの活動が活発になり、選挙が終わるとStop the Stealが始まった。
レポートでは最後に、Parlerは小規模ながらも、大手SNSと連動して合衆国議会議事堂暴動への行動を駆り立てていたとしている。レポートではParlerのようなスタートアップSNSは小規模でも既存の大手プラットフォームと連動して、エコシステムに影響を与えるとも指摘している。

●感想 SNSが育てた暴力のエコシステム

このレポートの最初に、大手SNSや一部のメディアはParlerが合衆国議会議事堂暴動を引き起こしたかのように言っているが、たった1,300万人のSNSにそんな影響力があるのだろうか? という疑問が描かれている。しかし、そうだったことが莫大なデータから導き出された。
正確には既存の大手SNSあってのことだが、すでに大手SNSは存在しているのだから、ParlerのようなスタートアップのSNSは常に排除された過激な人々のたまり場となり、危険な言動を育てる温室になり得るのだ。
このレポートを読んだのは、前に書いた下記の記事とつながりがあったためだ。現在、世界各地で広がっている反ウクライナもSNSで増殖している。Parlerはすでに以前とは違うSNSになっているが、代わりにトランプが作ったTrue Social を始めとする他のSNSがある。これらが温室となって暴力的な言動を育てて、各国で騒ぎを起こさないとは言えない

世界各地で同時発生した反ワクチンから親ロ発言への転換https://note.com/ichi_twnovel/n/nce3b3fc468a7

特に気になるのは中間選挙を控えたアメリカだ。幸いThe Armed Conflict Location & Event Data Project(https://acleddata.com/#/dashboard)を見る限り、危険な兆候はないようだ。しかし、いつ変化するかわからない。
SNSは暴力のエコシステムを内蔵していたのだ。


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