『闇の自己啓発』(江永泉、木澤佐登志、ひでシス、役所暁、早川書房、2021年1月21日)

ちょっと興味をひかれたので『闇の自己啓発』(江永泉、木澤佐登志、ひでシス、役所暁、早川書房、2021年1月21日)を読んでみた。すごく邪悪な本あるいは、橘玲っぽい本かと思ったら、邪悪ではなくふつうにおもしろかった

4人の読書会の記録プラス長い注釈の本で、取り上げられた課題図書は下記。

『ダークウェブ・アンダーグラウンド 社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』(木澤佐登志)
『幸福な監視国家・中国』(梶 懐、高口康太)
『明日、機械がヒトになる ルポ最新科学』(海猫沢めろん)
『銀河帝国は必要か?』(稲葉振一郎)
『現代思想』2019年11月号 特集=反出生主義を考える ―「生まれてこない方が良かった」という思想
『親密性』(レオ・ベルサーニ、アダム・フィリップス)

縦横無尽にさまざまな作品や人物が引用され、話がふくらんでゆくのが心地よい。暗黒啓蒙、加速主義、精神分析、フーコーなどに反応する人が読むととても楽しめると思う。反応する人なら課題図書を読んでいても読んでいなくても楽しめると思う。私はひとつも読んだことがなかった。

『ダークウェブ・アンダーグラウンド』『幸福な監視国家・中国』はタイトルは知っていたけど、内容を完全に誤解していたので、今度読んでみようと思った。取り上げられた課題図書以外にも、話に出た本で読みたくなるものが多くて困る

ささいなところでとても個人的に共感できたのもよかった。たとえば、著者のひとり役所暁が、チンパンジーをバカにするな! と言っているのは全くその通りだと思った。

また、『ファクトフルネス』のチンパンジーにも突っ込みを入れていたのも好きだ。実は同書の参考図書のひとつ『The Storytelling Animal: How Stories Make Us Human』の冒頭に、これに類する実験の結果が紹介されている。サル(マカカ猿)にキーボードを打たせ続ける実験を行った結果、特定の文字の好み(Sをよく打つ)があったことが確認された(https://hbol.jp/pc/187703/)。文字の好みがあるならば、さきほどの3択問題でも回答が偏る可能性がある。充分な母数のチンパンジーを集めれば33.3%になるかもしれないが、文字の好みについて種固有の傾向(サルという種はAという文字が好きとか)があったら母数を大きくしても正答率は33.3%にはならない。著者がここを読んでいないはずはないと思うが、同書の内容は明らかに実験結果に反している。そして、そもそも同書の大変を占める10の本能は仮説なのである(同書の脚注に書いてある)。つまり、ファクトの重要性をうたっている同書は仮説について書いただけの本だった(https://kakuyomu.jp/works/1177354054889092530/episodes/1177354054889138010)。


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