ゲリマンダーの論文を読んでみた

選挙はパズルのようなもので、ゲリマンダーはパズルを構成する1要素。選挙区の区割りで特定の党が有利になるようにすることだ。
先日、公開された「Widespread partisan gerrymandering mostly cancels nationally, but reduces electoral competition」(Kenny, Christopher T.、McCartan, Cory、Simko, Tyler、Kuriwaki, Shiro、Imai, Kosuke、Proceedings of the National Academy of Sciences e2217322120、https://doi.org/10.1073/pnas.2217322120)ではアメリカの選挙についてゲリマンダーの状況を分析していた。

アメリカでは50の州が州ごとに選挙区の区割りを設定できるそうで、そうなれば当然共和党が政権を握っている州では共和党有利な区割り、逆に民主党も同じことをするだろう。
この論文では実際の選挙の区割りと、他の区割りの場合をシミュレーションし、区割りによる効果について分析している。

くわしい内容は論文を見ていただいた方がよいと思うので、おおまかな結果だけ書いておくと、結論として区割りに党派性は存在した。

・個別の州では党派性を反映した効果があった。しかし全国ではその効果が相殺されていた。言葉を換えると、選挙戦が激しくなくなり、有権者の動向に左右されない効果をもたらしていた。さらに平たく言うと、有権者の意向を反映しにくくして従来の優勢だった党がそのまま優位を保てる効果があった。

・全国レベルでは共和党がじゃっかん有利だったが、もともと支持者の地理的条件、制度的条件から民主党は不利だったこともあり、一概にゲリマンダーのせいとは言えない。

近年、中露などの権威主義国との対抗上、民主主義についての議論が行われることが多い。しかし、多くの国の民主主義の根幹をなす選挙について語られることはほとんどない
民主主義を語る多くの人は権威主義国で行われている選挙を形式上だけのもの、恣意的な制度などと批判する。しかし、多くの民主主義国においてもゲリマンダーは横行し、民意を反映しない選挙方法が採用されている事実には誰も言及しない。何度かネット世論操作やデジタル影響工作の根本的な原因は国内にあり、したがって国内を対策しないことには根本的な対策にはならないと指摘してきた。選挙を民意を正しく反映できるものにしてゆくのもそのひとつだ……というしごく当たり前の意見を見ることがほとんどない。
ちなみにゲリマンダーは選挙区に関わる話だが、選挙方法についてはメカニズム理論(より細かく言うと社会的選択理論)がある。こちらについては『多数決を疑う――社会的選択理論とは何か』がわかりやすく書かれている。ちなみにほとんどの国で採用されている多数決は民意を反映しにくい。したがってほとんどの民主主義国の選挙方法は非民主主義的だ。
選挙方法を変えるだけで結果が異なることは10年以上前に書いた雑文をあらためてnoteにアップしたのでご興味あればどうぞ。

多数算 選挙、コンテスト…多数決の結果を決めるのは、数ではなく選出方法である

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