ジオ・プロパガンダの時代
位置情報データが政治、特に選挙で活用されるようになって久しいが、その歴史と現状をコンパクトにまとめた資料が公開されていた。テキサス大学オースチン校にあるCenter for Media Engagementの「Location-based targeting: History, usage, and related concerns.」(2021年12月、https://mediaengagement.org/ research/location-based-targeting)である。長らくオクスフォード大学Computational Propaganda Project をリードしてきたSamuel C. Woolley(https://mediaengagement.org/team/samuel-c-woolley/)がこちらの大学におり、この資料にも参加している。
資料は17ページ(出典やACKNOWLEDGEMENTSをのぞくと12ページ)のコンパクトなもので、わかりやすくまとめられているので、位置情報の政治利用についてざっと概要をチェックしたい方にはおすすめだ。
資料では、選挙などにおける政治キャンペーンでの活用が増加しており、他の個人情報と結びつけることで、もはやプロパガンダに域に達していると指摘している。
●歴史
GPSそのものの歴史はご存じの方も多いだろうと思うし、本題でもないのでここでは割愛する。
位置情報の利用は、ジオ・フェンシングから広がった。当初ジオフェンシング技術は、子供が安全なエリアから外に出た際に両親に警告を送ったり、アルツハイマーや認知症の患者が迷子にならないようにするためなど、主として保護のために使用されていた。また、仮釈放中の人々を追跡・監視するといった法執行機関の監視業務にも使用されている。民間企業では出退勤管理などにも使われるようになった。仕事の持ち場を離れていないか監視するなどに広がると、プライバシーなどの問題が指摘されだした。
GPSに加えてWi-Fiでスマホのデータも利用できるようになると、精度と利用範囲が広がった。ターニングポイントとなったのはFoursquare(現Swarm)のサービス開始だった。端的に言うと、リアルの場所を取り合う遊びで店などに足繁く通うとバッジをもらえたりした。登録した利用者がいつどの店を訪れたか自分の意思で記録が残るようになったので、当然そのデータは販売された。
続いてQRコードとビーコンが利用されるようになった。特定の場所のQRコードを利用することで、利用者の位置を特定できるのだ。ビーコンはBluetoothのデバイスを設置し、その近くを通過するスマホを検知してデータを収集する。ビーコン技術は2016年のアメリカ大統領選から利用が始まった。なお、2020年の選挙でも当然利用されていたことを以前の記事(https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2020/11/sms_2.php)で紹介した。
ついでに言うと、ビーコンはスマホのBluetoothがオンになっていないと機能しないが、COCOAのような接触者追跡アプリを使用している場合は常時オンになっているのでビーコンのターゲットとなる。
現在は有権者の個人データと組み合わせたり、政治集会の参加者データをジオ・フェンシング技術で収集したり、さまざまななデータと位置情報を組み合わせてジオ・プロパガンダに利用する動きが増加している。
●対策
ジオ・プロパガンダの行きすぎには注意が必要で下記の対策があげられている。
・利用者の同意を得ること
データを収集する相手に対して、その内容を告知し、同意を得る必要がある。
・選択肢の告知
なんらかのサービスで位置情報を提供する場合、利用者は他にも同種のサービスがあることを知るべきであり、そのためには充分な告知が行われるべきである。
・法規制
位置情報の収集、利用に関する法整備はまだ充分ではなく整備を進めていく必要がある。
・透明性
データの利用に関する透明性を確保しなければならず、市民は自分の位置情報がだれからだれに何の単に提供されたか知る権利がある。2021年のグーグルの透明性レポートは法執行機関からグーグルに開示要求のあったデータの25%は位置情報だったことがわかっている。
・説明責任
自治情報を利用する主体は説明責任を果たすべきであり、そのための圧力を高めてゆく必要がある。
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