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気になった論文や記事2024年4月12日

4月6日から4月12日の間で気になった論文や記事を簡単に紹介。なお、私が先週気づいたということであって、先週公開されたとは限りません。


●ボルチモアの橋の事故をきっかけに人種差別、移民への偽情報が増加、DEI排除の動き

DEI(Diversity, Equity & Inclusion、人種差別などを排し、多様性、公平性、包括性を求める動き)が広がっているが、DEIはまた人種差別や反移民を訴える極右など過激派のターゲットになっていることをボルチモア・バナー誌がレポートしている。今回の事故でもフロリダ州議員が、DEIのせいだとXでツイートし、400万回以上閲覧された。
Xのイーロン・マスクは2024年年初にボーイングのドア落下を、DEIで採用された従業員のせいだ、と非難し、3,000万回閲覧された。

ファクトチェック団体に関する記事で紹介したように現在Xはもっとも偽情報のリスクの高いプラットフォームになっており、イーロン・マスクの後押し(収益化、自身のツイートで許容ラインを上げている)もあって極右などの過激派の理想的な活動場所となっているようだ。

イーロン・マスクに意図があるのか、もともとの差別者なのかは不明だが、行動は明確にタイプ4のデジタル影響工作だ。

How racist, anti-immigrant disinformation added to the Key Bridge tragedy
https://www.thebaltimorebanner.com/community/transportation/baltimore-francis-scott-key-bridge-disinformation-far-right-anti-immigrant-racist-ULZAXCA6Z5HW3LHFKU44SKPXRI/

●ピザゲートなど陰謀論の被害者から陰謀論への訴訟が増加

弁護士のMichael J. Gottliebはピザゲート陰謀論のターゲットとなったピザ店の店主を始めとする陰謀論の被害者のために賠償金を得る手助けをしている。ピザゲート事件の後には、強盗に殺された民主党員アーロン・リッチの兄から依頼を受けた。事件は未解決だったが、民主党員に殺されたというデマがネットで広がり、家族の個人情報がネットにさらされるまでになった。Gottliebはデマを流した数人とデマを掲載したワシントンポストを相手取って訴訟を起こし、謝罪と和解金を勝ち取った。
こうした活動を行っているのは同氏だけではなく、トランプ時代に蔓延した政治的偽情報を法定で責任を取らせる弁護士が増えている。
ニューヨークタイムズ紙がこうした動きを好意的なトーンで伝えている。

しかし、陰謀論者とのさらなる分断、感情的な対立を招きそうな気もする。多くの陰謀論者は反エリートであり、社会的地位の高い弁護士が彼らを叩きのめすのは憎悪を燃え上がらせ、連帯を強めるよいネタになる。

From Pizzagate to the 2020 Election: Forcing Liars to Pay or Apologize
https://www.nytimes.com/2024/03/31/us/politics/defamation-lawsuits-michael-gottlieb.html

●フェイスブックが気候変動に関する発言を検閲しているという疑惑

気候変動の話題を投稿しても、それをプロモートすることはできず、社会問題、選挙、政治に関する広告ポリシーに反しているという通知をもらうことが増えている。さらに気候変動に関する投稿が他の利用者の目に触れないように露出を抑制していたことがわかった。陰謀論的な内容ではなく、この分野の専門家であるテキサス工科大学の教授によると2018年8月以降、投稿の露出が制限されるようになり、エンゲージメントは十分の一に激減したという。
また、気候変動に関する記事へのリンクを含んだ記事を投稿した利用者が、セキュリティ上のコミュニティ基準違反という通知を受け取った例もある。

現在のところ、ローカル紙が取り上げている状態で、多くの話題はローカル紙Kansas Reflectorと「Hot Times in the Heartland」という気候変動に関するドキュメンタリー映画に関するものに留まっている。今後さらなる検証が行われると実態がわかってくると思う。いまのところはフェイスブック全体におよぶ検閲なのかごく一部の投稿に関するものだけなのかわからない。
ちなみにMetaの気候変動への取り組みは下記ページで解説されている。

Facebook’s Role In Empowering People With Information About The Climate Crisis
https://sustainability.fb.com/blog/2021/11/01/facebooks-role-in-empowering-people-with-information-about-the-climate-crisis/

そこからリンクされている気候学センターのページ
https://www.facebook.com/climatescienceinfo

When Facebook fails, local media matters even more for our planet’s future
https://kansasreflector.com/2024/04/04/when-facebook-fails-local-media-matters-even-more-for-our-planets-future/

A local news site was critical of Facebook—then Meta banned all their links
https://www.thehandbasket.co/p/facebook-kansas-reflector-links-banned

When Facebook fails, local media matters even more for our planet’s future
https://kansasreflector.com/2024/04/04/when-facebook-fails-local-media-matters-even-more-for-our-planets-future/

●戦争の呼び方

「大東亜戦争」という呼称について話題になっていたので読んでみた。「太平洋戦争」、「大東亜戦争」、「アジア・太平洋戦争」、「第二次世界大戦」、それぞれの呼称には歴史的背景があり、使用した場合の問題点もある。それらを整理したもので、参考になる。

日本における戦争呼称に関する問題の一考察
https://www.nids.mod.go.jp/publication/kiyo/pdf/bulletin_j13-3_3.pdf

●ウクライナがロシアをハッキングした外国の民間人を表彰 民間人の犯罪的ハッキングの表彰は史上初

BBSの報道によると、ウクライナはアメリカのミシガン州のIT労働者Kristopher Kortright(53歳)を表彰した。彼の所属するOne Fist はイギリスやポーランドなど8カ国からハッカーが参加しているチームで多数のサイバー攻撃をロシアに仕掛けていた。今回の表彰状はチーム全員に贈られた。

Ukraine gives award to foreign vigilantes for hacks on Russia
https://www.bbc.com/news/technology-68722542

よいことのように見える反面、当事国以外の国の民間人が紛争当事国の攻撃を行い、表彰されることは民間人と兵士の境界を曖昧にするリスクもある。

近年、国家による非国家アクターの利用が拡大しているが、これはそのひとつの例で、他国の民間人を戦争行為に動員し、表彰したことは境界線を一段引き上げたような気がする。

●アメリカの「Antifa」グループの包括的な解説

ISDにアメリカの「Antifa」グループの包括的な解説が掲載された。冒頭で説明されているように、Antifaは多数の分散した個人やグループであり、ひとつの組織としてまとまっているわけではなく、共通の理念や規則はごく限られている。

US ‘Antifa’ Groups
https://www.isdglobal.org/explainers/us-antifa-groups/

そのためAntifa関係の事件が起きるたびに、「Antifaって結局なんなの?」と思う人もいると思う。そういう時に読むとよくわかると思う。

Antifaはその文字の通り、反ファシストであり、多くは無政府主義や社会主義を支持している。中にはビジネス・リーダー、法執行機関、政治家など、資本主義システムを維持している人々に抗議したり、犯罪行為を行ったりするものもいる。目標はバラバラで共通のものがあるわけではない。

オンラインとオフラインの活動を連動して行っており、白人至上主義グループが現れるところに武装して現れることもある。たとえばLGBTQ+のイベントに白人至上主義グループのプラウドボーイズやネオナチが妨害するという予告があると、Antifaメンバーが撃退するために武装して登場する。ただし、白人至上主義グループに比べると、Antifaの活動にいる死者は少ない。ほとんどいない。
しかし、社会にとっての脅威であることは確かだ。2020年6月にはシアトル警察の東署を地区から追い出し、自治区を作った Capitol Hill Autonomous Zone (CHAZ)。その後、自治区は内紛で崩壊した。

余談だが、アメリカは内戦状態というのがよくわかるエピソードだ。

アメリカ内戦を予見した衝撃のベストセラー『How Civil Wars Start』
https://note.com/ichi_twnovel/n/n96588acc900a

内戦が起きた場合、決着まで平均10年以上かかる
https://note.com/ichi_twnovel/n/n6aefedf15948

●今週の必読記事

ファクトチェック団体のほとんどは日本のアニメ制作下請会社より零細?
https://note.com/ichi_twnovel/n/n1ef4a63edaae

SNS大手がモデレーションを緩めた結果、極右過激派がマイナーSNSから大手SNSへ大移動
https://note.com/ichi_twnovel/n/nc40f8d4656db

●拙著紹介

拙著でおそらくもっとも評価が高い小説。
正体不明のテロリストによって韓国の原発が乗っ取られる。犯人たちは放射性廃棄物を数十のバルーンに吊り下げて空に放つ。バルーンはネット経由で遠隔操作できるようになっており、ハッキングすれば誰でも自分の武器として利用できる。そして一定時間を過ぎると爆発する。
犯人はリアンクール(竹島)の独立を韓国と日本政府に突きつけ、同時に世界中から新しい国の住民の募集を開始する。
韓国の原発のほとんどは日本海側にあり、重篤な事故が発生すれば偏西風によって日本に放射性物質が降り注ぐ。
韓国は日本政府の援助を断り、アメリカと協議を開始。事件を知ったアメリカのサイバー軍需企業は日本政府に売り込みを開始する。
関係国の思惑が錯綜する中、各国のハッカー、サイバーセキュリティ企業はバルーンのハッキング競争を始めた。
しかし、犯人の目的は誰も予想しないものだった。

『原発サイバートラップ』(集英社文庫)




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