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パレスチナ、アンゴラ、ナイジェリアで活動していたイスラエルのネット世論操作代行業者Mind Farce

2022年8月4日に公開されたStanford Internet Observatoryの「Mind Farce: An Investigation into an Inauthentic Facebook and Instagram Network Linked to an Israeli Public Relations Firm」(https://cyber.fsi.stanford.edu/io/news/meta-mind-force-takedown)を読んだ。
イスラエルにはアルキメデスという世界を股にかけたネット世論操作代行業者や、スパイウェアのNSOグループなどがあり、サイバー空間では名を馳せている。
今回のレポートはStanford Internet ObservatoryがMetaと共同で調査(というかデータを一部共有)したものをMind Farceについて掘り下げてまとめたものである。Metaのレポートについては、このnoteの記事(Metaの第2四半期脅威レポート、https://note.com/ichi_twnovel/n/n1ec56dc91758)で紹介した。

●レポートの内容

本レポートはMind Farceがパレスチナ、アンゴラ、ナイジェリアで行った作戦の分析となっている。それぞれが異なるクライアントのいる独立した作戦と考えてよいようだ。レポートの末尾には、全体として下記のように書かれている。

「このネットワークは、デジタルマーケティング会社が運営を主導し、特定の政治家を賞賛し、他の政治家を批判するシナリオがあり、人工的なエンゲージメントなど、多くの点で政治的偽情報キャンペーンの典型だった。しかし、このネットワークの一部がアンゴラ政府とつながっていることを示唆するオープンソースの証拠はユニークであり、ハマス政府への不満を助⻑するパレスチナのクラスターの戦術もまた斬新なものであった。」

アンゴラ政府とのつながりを示すユニークな証拠は、Mind Farceの社員がLinkedInの自分のプロフィールに「アンゴラ政府のキャンペーン・マネージャー」と書いていたことを指す。民間企業がネット世論操作を代行するのは増加しているが、ここまで露骨に正体を明かすのは珍しい。

パレスチナで用いられた斬新な戦術は、「Gaza Confession」というページとインスタグラムのアカウントを用いて、ガザの若者の告白を募った手法でアカウント停止時点では非政治的な内容の投稿しかなかったが、政治的な内容の投稿を得る目的があったと推定されている。

・パレスチナ

約19のページ、66のプロフィール、6つのグループ、42のInstagram アカウントが、パレスチ ナの問題、中東、イスラム教について投稿していた。今回のテイクダウンの中で最大であり、2020年末から2022年6月に停止されるまで活動していた。このネットワークは、ハマス政権を批判し、イランがパレスチナ人の最後の支持者の 1 つであると主張した。時折、反イスラエルの発言もあったが、主としてネットワークはハマス政府に対する批判が中心だった。
目立ったのは、t3lemという教育プラットフォームを自称するアカウントのグループだ。Facebook のページには1万人近いフォロワーがいたが、関連するInstagram のアカウントにはほとんどフォロワーがいなかった。また、Twitter アカウント( 2022年7月1 日現在)、Redditアカウント、Pinterest アカウント、Tumblrアカウント、ウェブサイト(https://t3lem.org/)があった。この自称教育プラットフォームは、「誰でも、どこ でも、無料で、質の高い教育を提供する」としており、奨学金も提供していると書いてあったが、その証拠はなかった。
t3lemのFacebookページは、多くの投稿が数千のインタラクションを獲得しており、広告が掲載され、それが一部の投稿の人気につながった可能性がある。これらの投稿は、反ハマスのシナリオと一致していたが、教育に焦点が当てていた 。たとえば、ハマス政府が大学卒業者に雇用を与えず、大学に資金を提供していないことを批判したり、小学校の退学率が高いことを指摘したりする投稿があった。t3lem は、教育プラットフォームであると主張することで読者を獲得し、そのリーチを利用してハマス政府への不満を煽ったのだと推定している。

・アンゴラ

アンゴラでは、Facebook、Instagram、そして少なくともLinkedInにまたがっていた。122のFacebookプロフィール、12のFacebookページ、2のFacebookグループ、10のInstagramアカウントで構成され、主に下記の3つのシナリオに焦点を当てていた。
 アンゴラの文化と経済的展望を英語圏に広めること、COVID-19 との戦いでの勝利。
 与党MPLAとその幹部(主にジョアン・ルレンソ現大統領)の好感度アップ。
 右派野党UNITAとその現リーダーAdalberto Costa Júnior批判。

このネットワークのやり方には一貫性がなかった。あるグループはフォロワーと適度な関わり方をし、あるグループはほとんどフォロワーを持たず、またあるグループは何万人ものフォロワーを持ちながら、全 く関わらなかった。後者は、文化的に異なるフォロワーネットワークが原因であるように思われる(不真面目さのマーカーに関する詳細は、13 ページのセクション 4.1 を参照)。アンゴラ・ポストのような低関与度のアカウントは、ほとんど放置されているように見えるが、関連するウェブサイトには新しい記事が掲載され続けている。
このネットワークで投稿やアカウントとやりとりしているユーザーの多くは、正規のユーザーであるかどうか不明だった。ユーザー名を数字順に並べたりしていた。プロフィール画像を再利用したり、そしてアンゴラとその現政権を賞賛していた。
絵文字によるリアクション以上のコメントは、ほぼ例外なくアンゴラ支持、MPLA 支持だった。
アンゴラポスト、アンゴラテック、アンゴラパラートス、アンゴラ⺠主共和国、フェイクニュースアンゴラ、アンゴラインターナショナルといったサイトでは、作成日や投稿のやり取りに対して、フォロワー数が異常に多くなっていることが確認された。調査の結果、ベトナム語のページのフォロワーと 「いいね!」が非常に多いことがわかった。

・ナイジェリア

約15のプロフィール、5つのページ、20のInstagram アカウントがあり、大統領候補の Kingsley Moghalu の立候補を支援するためだけのものだった。Moghalu はナイジェリア中央銀行の副総裁であり、二大政党以外のプラットフォームを掲げて 2019 年の大統領選に立候補した。次の大統領選は 2023 年2月だ。Moghalu は 2020 年 6 月のアフリカ⺠主会議への立候補に失敗して立候補を取りやめたものの、数十万人のフォロワーを持つ自身のSNSアカウントで、次の選挙に向けたキャンペーンを展開した。
このネットワークが初めて登場したのは、2022年5月下旬で、6月上旬までにアカウントとページが作成された。これらのページのうち 4つは、Moghalu4president や Moghalu_- supporters といった名前で、あからさまにMoghalu 支持とわかるようになっていた。投稿には、Moghalu のナイジェリアに対するビジョン、この政治家の演説ビデオ、支持する新聞記事へのリンクが掲載されていた。
アンゴラのクラスターと同様に、ページのフォロワーと投稿のエンゲージメントの比率が異常だった。これらのページは停止される1ヶ月前に作成され、ほんの少しの投稿にもかかわらず、4,000から6,000人のフォロワーがおり、そのほとんどがエンゲージメントを獲得していなかった。
時折、数十の「いいね!」とコメントが付く投稿がありました。これらの投稿に関与したプロフィール の多くは、ナイジェリアでは一般的に使われていないポルトガル語の名前を持っていました。さらに、いくつかのコメントはポルトガル語だった。Mind Farceがアンゴラ人の偽プロフィールを作成し、アンゴラとナイジェリアの両方のネットワークで、真偽不明のエンゲージメントに使用した可能性がある。

●感想

こういうレポートなので、特に感想はないのですが、繁盛しているせいかもしれないけど「雑だな」と感じた。

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