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日本のパブリック・ディプロマシーについて学べる本

『なぜ日本の「正しさ」は世界に伝わらないのか 日中韓 熾烈なイメージ戦』(桒原響子、ウェッジ、2022年3月16日)を読んだ。ちょっと前に読んだ『偽情報戦争 あなたの頭の中で起こる戦い』(ウェッジ、2023年1月19日)が参考になったので、その著者のひとりである桒原響子の著作を読んでみようと考えた次第である。
読み始めた時には気がつかなかったが、本書はウェッジのWEBの連載「世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い」(https://wedge.ismedia.jp/category/publicdiplomacy)がもとになっているものらしい。
本書の定義によれば、パブリック・ディプロマシーとは「自国の国益に資するべく、外国の社会に対し、広報、文化交流、人物交流、国際放送といった手段を通じて、ターゲットとした国の世論に働きかけ、自国のイメージやプレゼンスを向上させる外交手法」である。

●本書の内容

本書は日本が国際的な世論を動かそうとしても、思うようにいかない状況を日本の問題、日本に対して批判的な韓国や中国の方法論、国際的な世論形成のメカニズムなどを通して明らかにしてゆく。
著者自身が外務省大臣官房戦略的対外発信拠点室外務事務官を務めていたこともあって、日本の問題点についてはかなり突っ込んだ考察がおこなわれている。たとえば慰安婦問題では、次のような指摘をしている。
・慰安婦問題は本来、日韓の二国間の問題であったが、韓国はこれをアメリカに持ち込んだ。
・アメリカでは慰安婦問題は、歴史問題というよりも女性の権利や人権の問題として認識されている。
・アメリカで日本に対する批判が表に出るのは、日本が反論をしたタイミングである。当初、日本は反論を中心に発信していた。
結果としてアメリカ下院本会議での対日非難決議など苛烈な反応を生んでしまった。
当たり前のことだが、この問題は韓国、アメリカ、日本のそれぞれの立場の視点を考慮しないとなにがどうなっているのかわからない。著者はきれいにそれを整理してみせ、さらにそこに中国も関わっていると指摘している。

国際世論の形成においてはニューヨーク・タイムズがとりあげることで、他のテレビなどのメディアがとりあげるようになる(アジェンダ・セッティング)。したがってアジェンダ・セッティングをいかにしておこなうかが課題である。といった分析もわかりやすく、納得できる。

本書はアメリカを舞台とした日本と韓国、そして中国のパブリック・ディプロマシーの戦いを中心に、日本の課題をあぶりだしている。

●感想

大学の時、後輩の研究発表を聞いていて、あるフレーズが頭に残った。
「あの戦争によって失われたものはたくさんありますが、”平和な日本を愛する”という言葉もそのひとつです」
私自身は国民が自分の生まれた国を愛することはごく当たり前のことだと思っているだからといって、そうでない人を否定はしないけど)。その心情を表す言葉はいまだにない。
本書を読んでそのことを思い出した。おそらく私の感覚は古いのだろう。屈託なく「愛国」を口に出来る人がこれからは多くなるのかもしれない。
ただ、国を愛することと、国際社会に受け入れられるように発信することは別物だし、国際世論をリードするとなればさらに違うだろう。私自身は国際世論を下記の図で整理しており、これは著者の分析に似ている。

本書に書かれているように、パブリック・ディプロマシーは安全保障上の問題でもあるのだ。
ちなみに著者は、ウェッジで、「ディスインフォメーションの世紀」https://wedge.ismedia.jp/category/disinformation)という連載をしており、デジタル影響工作についても研究しているようなのでまとまった著作や論文になるのが楽しみである。

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