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私の役に立たない特殊能力について

誰にでも他の人にはない特殊能力があるような気がしている。私にもある。それは、「些細な違いに瞬時に気づく能力」というほとんど役に立たない能力だ。
一番記憶に残っているのは、あるホテルでの出来事。私が受賞した福ミスというミステリの新人賞は、コロナ前は毎年授賞式をやっており、歴代の受賞者も顔の多くが参加していた。

些細ない違いに気づいた話 その1 

毎回、あるホテルの1階のロビーで集合することが多く、その時もそうだった。そこにはミステリの賞の歴代の受賞者、講談社、光文社、原書房、文藝春秋、新潮などのミステリ担当編集者、そしてミステリ作家の方などが顔をそろえていた。
ロビーに入った瞬間、「なにかが違う」と気がついて、周囲の人に「なんかいつもと違いますよね?」と声をかけたが、誰も異変に気がつかていない。誰に訊いても私がおかしいという。
じっくり観察した結果、ロビーのソファが違うことがわかった。なにぶん、年に1回の集まりなのではっきり覚えているわけではないが、似ているが違うソファという気がした。そこでホテルのフロントに確認してみたところ、いつものソファはクリーニングに出しており、いまロビーにあるのは似ているが違うものだという。
私は喜び勇んで、みんなに話したが、みんなは「それがどうかした?」と全く関心がなかった。いつも同じはずのものに些細な違いがあるって、明らかにミステリでしょ、と私は感じたものだった。とりあえず、ミステリ作家も編集者も観察眼はないっぽい

仕事で役に立ったこともある。

些細ない違いに気づいた話 その2

 以前ニューズウィーク日本版に寄稿した記事(https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2021/07/post-27.php)ハーバード大学ベルファーセンターの分析結果に誤りというかミスリードあるいは不適切なグラフがあることを指摘した。
これは実は某クライアントからの仕事で、このレポートを使うことになったのがきっかけだ。最初、このレポートをざっと見て、レーダーチャートに違和感を覚えた。棒グラフを見るとレーダーチャートは不適切だとわかる。わかりますかね? このレーダーチャートは、日本は防衛力が高く、攻撃力に課題があると言えますかね? 言えません。


違和感の正体はすぐにわかった(くわしくはニューズウィーク日本版の記事)。念のため元データを確認したら、元データの一部にも誤りがあった。あまりにも基本的な誤りなので、すぐには信じられなくてベルファーセンターに担当者にメールで問い合わせたら、あっさり間違いを認めた。
これはいちおう仕事に役に立ったと言えるかもしれない。しかし、クライアントとしては天下のハーバード大学の分析結果を使って○○という目論見からはずれることになったのでほんとにこれでよかったのかはわからない。
なお、ニューズウィークの記事を読んでいただくとわかるが、生データの間違いは実際に分析に使用したものではなく、他の研究者のための参考に公開したものでデータ変換中に手違いがあったようだ。分析結果も不適切なグラフを使ったことくらいなので、あっさり認めたのだと思う。

統計的な齟齬を一目見てピンと来るのは多少は仕事に役に立っているかもしれない。最近でもGVでそういうことがあった。GV=Global Voces(https://jp.globalvoices.org)はニュース・オピニオンサイトを運営している国際的なボランティア組織で各国の編集部がそれぞれの国のネット上での出来事を記事にして公開している。他の国の編集部はそれを見て、興味深いと感じたら自国語に翻訳して公開する。
私は日本のチームに属しており、3回ほど記事を寄稿し、今年は評議委員を務めている。今年度の方針についてのアンケート結果を評議委員会で検討していた時のことだった。なお、日本のチームは翻訳とオリジナル記事を書く部隊が別で、なぜかオリジナル記事を書く部隊の責任者はカナダBC州ビクトリアに済むカナダ人である(もちろん日本語はできる)。その関係で私は英語で記事を書いている。

些細ない違いに気づいた話 その3

GVの今年度の方針についてのアンケートには、いくつか質問があり、順位付けを回答するようになっていた。その結果の棒グラフを見た時に、「おかしい」と瞬時に気がついた。その理由はすぐにわかった。全部必須回答のはずなのに、順位1位の全数、順位2位の全数、順位3位の全数が違う。
たとえば、回答者が5人いて、選択肢がA、B、Cの3つの場合、Aを1位に選んだのが3人、Bを1位に選んだのが1人、Cを1位に選んだのが1人だと5人となる。同様に2位、3位も合計すると5人になるはずだ。それなのに、棒グラフはそういうようには見えない。パソコンの電卓で計算するとやっぱり違う
その場で指摘したら、「いい指摘だけど、これはネットで全部選ばないと次に進めないようになっているから、そういうことは起きない」とあっさり否定された。しかし、ひとりが「でも、誤りはあったらまずから後でちゃんとチェックしよう」と言ってくれた。私はアンケートの実務にはかかわっていなかったので、それからしばらくどうなったのかわからなかった。あわてて計算したから自分が間違っていたかもしれないと少々不安になったりもした。
しかし、先日、アンケート結果が公開され、その際、計算違いがあったことと、指摘した私への謝意が書いてあったので安心した。

使いようによってはとても役に立ちそうなのだけど、このままたいしたことに使えずに終わりそう。ちなみに私は折れ線グラフ大好きです。
今回は完全に余談でした。





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