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ブルトンのフライングで不協和音が噴き出したDSA

ハマスとイスラエルの情報戦で欧州域内市場・産業担当委員のティエリー・ブルトンがXやMetaのザッカーバーグに書簡を送り、X上でその画像を公開したことから一気に注目を浴びた。

ブルトンのツイート

欧州委員会のデジタルサービス法(DSA)は大手プラットフォームに対して、説明責任、透明性、当局や研究者とのデータ共有を定めた法律で、2024年2月(あくまで予定)に施行される。ただし、すでに最初の監査に向けて欧州委員会とDSAの対象プラットフォームは準備を進めている。一部施行されているとも言える。今回のブルトンの要請はそれに沿ったものと解している報道もある。

Timeline of public communications from the European Commission regarding the DSA and the current conflict. (Source: jmalaret/DFRLab)、https://dfrlab.org/2023/10/26/as-israel-and-hamas-go-to-war-the-digital-services-act-faces-its-first-major-test/

しかし、少なくとも今のところDSAにはブルトンの要請にあった24時間と期限を切って回答を要求するような条項はない。また、ブルトンの指摘は、「DSAに照らして違法なコンテンツ」と「偽情報」を混同していた。DSAは国家機関がコンテンツ・モデレーションを主導することを避けていたはずなのだが、ブルトンの行っていることはそうは見えない。そもそもブルトンの要請は、根拠がDSAなのかどうかすらあいまいだった。

ブルトンの行動に懸念を覚えた67もの市民団体がブルトンに要請の内容を明確にするよう求めると、ブルトンは次のように回答し、市民団体を落胆させた。

DSAそのものを評価する専門家、研究者は多いようだが、今回のブルトンの行動については疑問と懸念の声があがっている。まだDSAはアクションを起こせるまで準備が整っていないのだ。今回のブルトンの行動がきっかけでDSAの見直しが起こり、施行が遅れれば致命的になりかねない。なぜなら遅れている間にプラットフォームは進化、変化し、DSAの範囲を超えてしまう可能性が高いからだ。

別稿(https://note.com/ichi_twnovel/n/n96b3de436395)にCode of Practiceについて書いたようにEUの提案はもっともらしいのだけど、実現するのはかなり難しそうだ。
余談だが、Code of Practiceの際には予算不足で「予備調査」程度(要するには結果は検証されておらず、仮説の域を出ない)になってしまった調査結果がさまざまな報道で信頼性あるかのように公開されているのは「偽情報」すれすれのような気がする。

出典
As Israel and Hamas go to war, the Digital Services Act faces its first major test、October 26, 2023、https://dfrlab.org/2023/10/26/as-israel-and-hamas-go-to-war-the-digital-services-act-faces-its-first-major-test/

EU asks Meta, TikTok to account for their response to Israel-Hamas disinformation、October 20th, 2023、

European Commission misfires in initial DSA enforcement, experts say、
October 27th, 2023、https://therecord.media/european-commission-digital-services-act-enforcement-breton

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