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科学論文のバグ・バウンティ・プロジェクトERRORが始動 ファクトチェックにも報奨金を!

nature Vol:632に掲載された「Cash for catching scientific errors」 https://www.nature.com/articles/d41586-024-02681-2 は、科学論文のバグ・バウンティ・プログラムという珍しいプロジェクトを紹介している。


●概要

科学論文のバグ・バウンティ・プログラム=ERRORプロジェクトはベルン大学のデジタル化戦略を推進する基金「Humans in Digital Transformation」の支援を得て開始されたもので、瑕疵を発見した論文1本につき最大千フラン(約17万円)が支払われる。発見した誤りの内容によってボーナスがつき、大きな誤り(大規模な訂正や撤回につながる誤りなど)には最大2,500フラン(およそ40万円)が支払われる。ソフトウェアの世界でのバグ・バウンティ・プログラムを参考にしているという。

特に2015年1月以降に心理学の分野における重要かつ評価の高いジャーナルに掲載され、継続的に引用されている論文に焦点を当てている。瑕疵を見つけた際のインパクトを狙っているのだ。すでに何本もの論文のバグを発見している。

ただ、このプロジェクトは重大な課題に直面している。チェック対象に選ばれた134本の論文のうち、わずか17人しかチェックに賛同していないのだ。論文のもととなったデータなどは執筆者からの提供を受けなければならないことがほとんどのため、協力してもらえないことは致命的だ。中にはデータセットがすでにないというケースすらある。
さらに難しいのはチェックに必要な専門知識を持ち、利益相反にならない人物を見つけることだ。多くの場合、この条件を備えた人物はポスドクなどであり、自分の専門領域で実績をあげている人物の論文をチェックすることにはキャリアを阻害するリスクがある。

現在、ERRORチームはチェック対象になった論文に資金提供した組織にチェックのための資金の提供を依頼しようとしている。

●感想

「再現性の危機」以降、対策はいろいろでてきたものの、科学の不確実さはぬぐわれていない。バグ・バウンティ・プログラムは、いわば科学界の自浄作用を世間に広く可視化する試みなのかもしれない。

アイデアだが、あらゆるものにバグ・バウンティ・プログラムは適用可能なはずであり、ファクトチェックはその最たるものだろう。
政治家、政党、官公庁、そして企業はファクトチェック報奨金を支払うべきなのではないか?
現在、バグ・バウンティ・プログラムは、プラットフォーム化が進んでいる。同様にファクトチェックもファクトチェック・プラットフォームを通じて、政治家、政党、官公庁、そして企業からファクトチェック報奨金を受け取れるような仕組みを作るとよいような気がする。
ファクトチェック報奨金を出すことで透明性や信用を重視していることを世間にアピールできる。といっても開示請求受けても、真っ黒な資料を出して、それでいいと思っている連中なので、強制するなにかがないと難しそうだ。

●ウェビナーのお知らせ

なぜ、偽・誤情報が問題なのか?批評家の藤田直哉先生とお話しします
https://us06web.zoom.us/webinar/register/1817243576953/WN_qvR-VqjlQPq-z4x3HptPxw

「偽・誤情報対策、デジタル影響工作などのおさらい」中露イランなど攻撃側が戦略的に活用していて、防御側はほとんど活用できていない重要な要因を軸にこれまでの経緯と今後および対策をご紹介します。
この要因は英暴動でも有効だったことがわかっているだけでなく、日本においても効果的な抑止につながっていたと考えられます。しかし、なぜか取り上げられることはほとんどありませんでした。
https://us06web.zoom.us/webinar/register/2117246103667/WN_FQonBxFqTHySeIfEmAJBfQ

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