アメリカの情報漏洩に関するメモ

最近、アメリカからの情報漏洩が話題になっている。個人的にも気になっているので備忘録代わりに現時点でのメモを残しておく。現時点というのは今後も続く可能性があるからだ。
サンガーに言わせると、今回の漏洩は過去の漏洩と異なり、きわめて新鮮な情報が含まれているという。

●経緯

撮影された紙の資料の画像がアップされていたことから紙の形でいったん持ちだし、安全な場所で撮影した可能性が指摘されている。開示された資料は外部と接続されていないシステムに保管されており、この場所に立ち入る際は電子機器などを持ち込むことはできない。

最初に漏洩されたのは3月上旬で場所はdiscord。その数週間後、4chanや他のSNSに再投稿され、さらにしばらく経ってからTwitterとTelegramで話題となった。

4月8日の時点で漏洩文書100枚が確認されている。

●文書の信憑性

一部は改竄されている可能性が指摘されている。というか、2つのバージョンが存在する文書もあるようなので、どちらかは改竄されているのだろう。改竄されたものに関してはロシアの被害を軽くし、ウクライナの被害を大きくしていた。

ほとんどの報道では本物である可能性が高いとしている。統合参謀本部で配布しているブリーフィング資料やスライド、CIAのオペレーションセンターからのアップデートの形式だったことを考えると、それらがそのまま流出した可能性が高いということになる。ハッキングよりもリークが疑われている。

●ウクライナとロシアの反応

どちらも文書を否定している。

●漏洩文書の内容(ウクライナに関することのみピックアップ)

多岐にわたるが、The New York TimesのMorningでは3つのカテゴリーに分類していた。

1.Details about ongoing campaigns 現在進行中の作戦の詳細
2.Broader strategy より広い戦略
3.Chatter about allies 同盟国について

2.に関してはすでにわかっていること以上の深刻なものはなかった。問題は1.と3.である。
ありがたいことに、The New York Times、Time、The Guardianなどが重要なポイントをまとめてくれている。

1.Details about ongoing campaigns 現在進行中の作戦の詳細


・ウクライナの防空は弾薬不足のためにもうすぐ崩壊する
2月23日付け文書に記録された数字によると、ウクライナは防空をソ連時代のSA-10とSA-11に頼っており、20,000フィート以上の防空の89パーセントを依存している。現在のペースだと、3月31日までにSA-11の弾薬がつき、5月2日までにSA-10がの弾薬がなくなる。
別の2月28日付け資料では、4月13日までにブークミサイル、5月3日までにS-300 ミサイルの在庫がなくなる。
さらに同日付の別の資料では5月までに、キエフとウクライナ南⻄部の2つの地域以外のウクライナの重要な国家インフラのほとんどに防空カバーがなくなり、保護されていない重要拠点の数は6箇所から40箇所以上に跳ね上がる。

・アメリカのスパイはロシアに深く入り込んでおり、最新の情報がもたらされている。ロシアの攻撃のタイミングや特定のターゲットに関する警告を毎日リアルタイムに提供している。

・CIAが誰をどのようにスパイしているかの詳細が記されている文書も存在している。

・ロシアのハッキンググループZaryaがカナダのエネルギーインフラをターゲットにしている。ロシア連邦保安庁(FSB)の指導の下で活動するハッキンググループZarya。

・2022年2月から3月にかけてNATO諸国の特殊部隊97名がウクライナで活動していた。もっとも多くの特殊部隊を派遣したのはイギリスで半数以上を占め、次いでラトビア17人、アメリカ14人とフランスは15人、オランダは1人だった。

3.Chatter about allies 同盟国について

・アメリカはウクライナや同盟国をスパイしていた
ウクライナに弾薬を提供することについての韓国内での議論をアメリカ当局が盗聴によって把握したことが書かれている。文書は3つあり、下記。
3月上旬に韓国の国家安全保障会議が、米国からウクライナに砲弾を提供するよう要請を受けて対応を議論していたもの
ソウルの大統領補佐官がバイデン大統領がユン氏に電話してウクライナに弾薬を送るよう圧力をかけるのではないか、韓国が米国に売っている砲弾が韓国の輸出規制にもかかわらず紛争国に渡ってしまうのではないかと懸念している
韓国の33万発の砲弾がウクライナに空輸されるか、韓国からドイツのノルデンハム港に輸送される予定表。
同様の盗聴行為がイスラエルやエジプト、UAEなどに対しても行われていた。

・ラトビアがウクライナに武器供給
武器供給を行ったか、これから行うかは不明。また、ラトビア軍がウクライナ軍への軍事訓練を断念したことも書かれていた。

エジプトがロシアに4万発のロケット弾を提供。エジプトは否定。

・UAEはロシアの諜報員と密接な関係を持っていた。UAEは否定。

●影響

・ウクライナ
ウクライナは漏洩文書を捏造されたものとする立場を取っているが、CNNの取材に対して漏洩後、軍事作戦を変更したと語っている。

・ウクライナとアメリカの関係
戦争初期には、ウクライナ当局者は、漏洩を恐れて、戦闘計画を米国と共有することをためらっていた。作戦計画を共有することでウクライナの抱えている問題が浮き彫りになり、継続的な支援が得られなくなることを懸念したのだ。そのため、2020年夏の時点では、アメリカは、ウクライナの軍事計画よりもロシアの軍事計画の方がよく理解していた。
その後、ウクライナと米国の情報共有は2020年秋にはかなり進み、両国は作戦について緊密に連携するようになった。しかし、今回の情報リークは、ウクライナとアメリカの情報共有に悪影響を与える可能性が高い。

・韓国との関係
韓国では野党が激しく抗議している。

アメリカは過去に何度かこうした大規模なリークを経験しており、そのたびに外交関係に大きな亀裂が入ったと思われたものだが、当初の予想よりも早く回復した。今回も短期間で回復できると考えている識者が多いようだ。
ただし、それはこのリークが近い将来止まる前提だ。継続的にリークが続くようなら話は違うだろう。
ウクライナで起きていることはさまざまな新しい要素を含んだ戦いであり、リークは決して偶発的なものとは思えない(あくまで個人的な意見)。双方の側からリークが続く可能性は低くないと(あくまで個人的には)考えられる。1ヶ月後、2カ月後、半年後どうなっているのだろうか?

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『犯罪「事前」捜査』(角川新書)<政府機関が利用する民間企業製のスパイウェアについて解説。

出典

What Do Leaked U.S. Intelligence Reports Say? Here Is a Quick Guide.
April 10, 2023
https://www.nytimes.com/article/leaked-documents-ukraine-russia-war.html

Leaked Documents Reveal Depth of U.S. Spy Efforts and Russia’s Military Struggles
April 8, 2023
https://www.nytimes.com/2023/04/08/us/politics/leaked-documents-russia-ukraine-war.html

Ukraine War Plans Leak Prompts Pentagon Investigation
April 6, 2023
https://www.nytimes.com/2023/04/06/us/politics/ukraine-war-plan-russia.html

New Batch of Classified Documents Appears on Social Media Sites
April 7, 2023
https://www.nytimes.com/2023/04/07/us/politics/classified-documents-leak.html

Clues Left Online Might Aid Leak Investigation, Officials Say
April 10, 2023
https://www.nytimes.com/2023/04/10/us/politics/classified-documents-leak.html

Pentagon leaks: key revelations of classified documents
Wed 12 Apr 2023
https://www.theguardian.com/us-news/2023/apr/11/key-revelations-classified-documents-pentagon-leaks

Pentagon documents leak a risk to US national security, officials say
2023.04.11
https://www.bbc.com/news/world-us-canada-65235121

Leaked documents a ‘very serious’ risk to security: Pentagon
2023.04.10
https://apnews.com/article/leaked-documents-classified-russia-ukraine-e351c6613e69bf8d714b03e367543da8

Opinion The leaked documents on the Ukraine war are chilling
April 10, 2023 at 7:57 p.m. EDT
https://www.washingtonpost.com/opinions/2023/04/10/leaked-intelligence-ukraine-chilling/

4 Major Takeaways From the Leaked Pentagon Files
APRIL 11, 2023
https://time.com/6270145/leaked-pentagon-documents-ukraine-war-plans-russia/

Leaked Documents and Accusations of U.S. Spying Spark Outrage in Seoul
April 11, 2023
https://www.nytimes.com/2023/04/11/world/asia/south-korea-leaked-pentagon-documents.html

A leaked document outlines 4 ‘wild card’ scenarios in the Russia-Ukraine conflict.
April 11, 2023
https://www.nytimes.com/2023/04/11/world/europe/leaked-documents-russia-ukraine.html

An Online Meme Group Is at the Center of Uproar Over Leaked Military Secrets
April 11, 2023
https://www.nytimes.com/2023/04/11/business/discord-leaked-military-documents.html

The Military’s Leaked Secrets
April 11, 2023
https://www.nytimes.com/2023/04/11/world/pentagon-documents-leak-impact.html

U.S. Officials Speak to Ukrainians After Document Leaks
April 11, 2023
https://www.nytimes.com/2023/04/11/us/politics/document-leak-pentagon.html

Leaked Pentagon documents: What are the major takeaways?
12 Apr 2023
https://www.aljazeera.com/news/2023/4/12/leaked-pentagon-documents-what-are-the-major-takeaways

Exclusive: Leaked U.S. intel document claims Serbia agreed to arm Ukraine
April 12, 2023
https://www.reuters.com/world/leaked-us-intel-document-claims-serbia-agreed-arm-ukraine-2023-04-12/

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