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生成AIは言語によって異なる答えを返し、領土問題を煽る、という論文

This Land is Your, My Land: Evaluating Geopolitical Bias in Language Models through Territorial Disputes
https://aclanthology.org/2024.naacl-long.213/

生成AIは学習データから学ぶ。しかし、異なる言語から学んだ場合、それぞれの言語圏での領土意識が反映された答えになるそうだ。この論文では論争となっている3つの地域についてChat-GPT4で実験を行った。クリミア、台湾、ゴラン高原という問題となっている地域について複数のプロンプト戦略で質問を行った。
その結果、クリミアについては、あるプロンプト戦略に対して、クリミアの帰属についてのロシア語の質問には「ロシア」と答え、ウクライナ語の質問には「ウクライナ」と答えた。台湾についても同様でプロンプト次第で、簡体字には中国、繁体字には台湾と答えた。また、ゴラン高原についても同様だった。

異なる見解を持っている国があることが認識しているから、はっきりとわかったが、そうでない場合、国際的には許されないが、特定の国の中に存在している差別や偏見について「常識的」で「許容範囲」と回答される可能性がある。生成AIは偏見を強化する傾向があるが、言語で回答が異なる問題も同じ問題だ。
特定の言語圏で不可視化されている問題がより深刻になりそうだ。ファクトチェックにAIを使うとか怖いと思うんだけど、どうなんだろう。

余談だが、日本政府のどこかの省庁では真面目にAIで自動的に真偽判定を行おうとしているらしいが、それはその省庁が内部で持っている偏見をより強化した形で押しつける検閲になりそうな気がする。

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